挑戦的なアイデアマン一家で営む「お肉の商社」
まずは寺師さんの成り立ちについて教えてください。
弊社は、1984年に個人商店のような形で僕の父親がつくった会社です。
創業当時から、鹿児島のお肉を県内外の小売店・飲食店に卸すというのが主な事業で、他にも大手レストランチェーンさんに家具やステーキ皿などを提供したり、ネットショップを使ってお肉の小売にも取り組んでいます。
息子である大策さんは、最初から家業に入られたのですか。
いえ、僕は都内の大学を出たあと、一度IT系のコンサル会社に就職しました。いつかは鹿児島に戻って実家をコンサルティングしたいなとは考えてましたが、まさか入るとまでは思ってなかったですね。
その当時父が請け負った家具の事業で、海外とやりとりが発生するのに英語ができる人が社内にいなくて。そこでおまえ帰ってこないか?と誘われて、タイミングを早めて帰郷することになりました。その状況で海外案件を受注してしまう父の突破力はすごいです(笑)。
(笑)すごくチャレンジングなお父様ですね。現在ではオリジナルのもつ鍋やスープ餃子などの開発にも携わっていますよね。
それはですね、鹿児島県の食品産業支援プロジェクトに応募して選ばれたのがきっかけです。
これまでの弊社は、取引先の小売店さんに「寺師さん、何グラムのウィンナーを作ってくれない?」と頼まれたものを製造するのが主でしたが、あえて自分たちでペルソナを仮定して商品をリニューアルすれば、今までと違った層にアプローチできるんじゃないかなと。
商品開発の段階から小さな成功体験を積み重ねていきたいっていう思いで最初に作ったのが、今ネットショップでも販売している「モテ鍋」です。
この「モテ鍋」はどういった背景から生まれた商品なんでしょうか。
もともと父が30年前に「もつ鍋セット」という商品を作っていたんですよ。
通販を始めてからは女性の方によく買われていたんですが、スーパーや百貨店だと案外もつ鍋って手に取りにくいのかもしれない…と気付いたんです。売り場を見渡してももつ鍋は売ってないし、あるとしたらお肉屋さんのショーケースの中ですからね。誰でも手に取りやすいデザインでイメージを変えて、今までと違った提供のしかたはできないかなと考えたのがきっかけです。
なぜ「モテ鍋」というネーミングに?
鹿児島弁ではモテることを「もつ」って言うんですよ。「おまんさぁな、もつっどなぁ(あなたはモテますよね)」って。ネーミングは単なるウケ狙いじゃなくて、僕たちが暮らす鹿児島の文化も強く意識しています。
へえ! そういったアイデアはどこから出てくるんですか?
寺師家ってみんなアイデアマンなんですよ。いろんなアイデアが日々ポンポン出てきますね。
商品自体の味とか、製造のアイデアは父から出てくることが多いかな。デザインや商品名、マーケティング戦略は妹が考えて、それを形にしていくのが僕の役目。最終的に母が経理として数字にまとめて……っていう役割分担ですかね。
家族みんなで協力し合ってるんですね!
実は……つい1時間ほど前、その妹に子どもが生まれたところなんです。
えっ!? おめでとうございます! なんだかすごいタイミングでの取材になりましたね。
ネット通販の大きな転機は、大震災での意外な出会い
寺師さんがネットショップを運営するようになったきっかけについて教えてください。
もともと創業当時は町のお肉屋さんのように実店舗を持っていて、リアルにお客さまと触れ合う機会がありました。
ところが国内で狂牛病問題が騒がれた当時、卸売部門に特化していく方針を固めた父が小売部門を一旦クローズしたんですよね。そのまま卸のほうで売上を増やしていったんですが、寺師のお肉を召し上がるお客さまと直接触れ合うのが難しく、リアルな反応が見れないことへのモヤモヤ感がどうしてもありました。
お客さまと直接繋がれれば、感想をいただける機会も多いですからね。
そうですね。それに、卸売だけに特化しつづけるとお客さまが万が一離れてしまった瞬間に売上が激減してしまうリスクもありました。売上のポートフォリオを多様化して経営をより安定させたいという狙いもあり、小売部門の復活とネットショップ立ち上げを決めました。
なるほど。ネットショップはいつごろ開店しましたか?
僕が東京から鹿児島に帰ってきた2010年ごろには、会社のホームページに通販機能がついていました。当時のホームページは母とパートさんの手作りだったんですが、テンプレートに頼ったいわゆる「イケてないサイト」だったので、注文はせいぜい年1~2件程度でしたね。
僕が新しく作り直してみても全然注文は増えなくて……大きな転換のきっかけになったのが、3.11だったんですよね。
震災ですか。
その日は父とベトナム出張の予定で、ちょうど成田空港にいたタイミングで被災しまして。
寝袋も乾パンも不足した空港内で一晩過ごしたとき、偶然隣にいた方が、今うちのネットショップをデザインしてくれている方だったんですよ。その方と一晩ご一緒しながら「うちもホームページ自分で作ったんですけど全然イケてなくて……」みたいな話をしたら、その流れでホームページを作ってもらうことになって。実は有名テーマパークのWebサイトも手がけているようなすごい方だったんですけど、偶然居合わせたことで寺師家と仲良くなっちゃったんです。
すごい出会い!
カラーミーショップを使い始めたのも、その方にデザインをお願いしたタイミングでした。どうせだったらネットショップもちゃんとやりましょう、と。
通販機能をカラーミーショップに移してみて、以前の課題は解消されましたか?
そうですね。注文のしやすさはもちろん、受注処理のしかたや、送り状を作るまでのフローもわかりやすいし、クレジットカードなどの決済手段も簡単に導入できたのが嬉しかったですね。
デザイン面も、CSSを自由に組み込めるので寺師らしさを表現しやすくなりました。
ありがとうございます。購入者層は県内と県外どちらが多いでしょうか。
うちは圧倒的に県外ですね。東京・大阪などの大都市圏が多いかな。
卸売が中心だったころは首都圏の小売店さんが主な取引先だったので、あまり鹿児島の人には広まっていなかったんですよ。モテ鍋やスープ餃子を作ってからは県内の百貨店さんやスーパーさんとの繋がりができて、最近はSNSもやっているので、県内のお客さまも徐々に増えてきていますね。
ふむふむ。ここ数年でもさらにショップを大幅リニューアルされましたよね。
リニューアル以前は「肉の寺師」ではなく、株式会社寺師という一商社のネットショップといったような位置づけだったんです。弊社で扱っている家具やスーパーマーケット用のエコバッグなどもお肉と一緒に売っていたので、お客さまにイマイチ伝わりにくいという課題がありました。
そんなとき、地元で出会ったデザイナーさんに「寺師さんにはお肉の事業ブランドが必要だと思う」とアドバイスをいただいたのがきっかけで、現在のブランド「肉の寺師」が生まれました。
商社ではなくお肉屋さんとしてのイメージをより強く打ち出していくため、制作費用を今度はクラウドファンディングで募って、一般の方から集まった支援でショップリニューアルを依頼したんです。
へえ! クラウドファンディングに乗り出したのはなぜですか?
正直そのときは予算がなかったという理由もあるんですけど(笑)、クラウドファンディングがちょうど本格的に流行りだした時期だったんですよね。今まで繋がれなかった方と繋がるきっかけになって、寺師のファンが増えたらすごく嬉しいなと思って。なのでクラウドファンディングという未知の世界にも前向きに挑戦してみようという思いがありました。
先ほどの家具事業のお話でお父様の挑戦的な姿勢に驚きましたが、大策さんにもそれは受け継がれているんでしょうか。
うちは「挑戦する肉屋」というキャッチコピーを掲げてるんですけど、その言葉どおり、何でもトライアンドエラーでやってみようっていう考えが強いんだと思います。できない言い訳を探すよりは、どうやったらできるかの方法を探すほうがいいですからね。
ショップリニューアルの成果はいかがでしたか。
お店のイメージがお客さまに伝わりやすくなったのか、コンバージョンがかなり増えましたね。もつ鍋だけでなく餃子など他の商品も一緒に売れたり、以前のデザインではあまり感じなかった相乗効果も目に見えるようになりました。
それに、僕たちにとってもネットショップが名刺代わりの存在になったんですよね。たとえばBtoBで初めての方にご挨拶したとき、ネット通販もやってるんですよって伝えやすくなったというか。僕たち自身が何かひとつ大きな自信を持てたっていうのはかなり大きかったなと思います。
お客さまの利便性が上がるだけでなく、運営者側にとってもリニューアルがプラスに作用したんですね!
いただきますを心から言える社会へ
ところで、昨今のコロナ禍による事業への影響は大きかったですか?
そうですね、取引のある飲食店さんが営業を停止してしまったので、卸のほうの売上は一時 1/10 くらいまで落ち込みました。
一方でネットショップの売上は7~10倍に増えたかな。通常だと夏場はもつ鍋があまり売れないんですけど、今年はかなり売れましたし。「巣ごもりセット」みたいな商品も作って、それもかなり反響が大きかったですね。
購入の割合としては、新規のお客さまとリピーターさんでどちらが多かったですか?
どちらもですね。リピーターさんの購入頻度も、新規のお客さまの数も増えました。卸売のほうで激減した売上を少しだけ取り戻せたので、ネットショップがあってよかったなと思います。
あと、コロナで皆さん外食ができなくなったのを逆に生かして「ズムメシ」っていう新しい取り組みに参加してみたりもしました。
ズムメシ。
全国の方とZoomでつないで会話しながら、寺師のお肉を使ったもつ鍋や鹿児島のちゃんこ鍋を食べるっていうオンラインイベントですね。私たち作り手の思いも伝えながら、オンライン飲み会でみんなと同じものを食べるっていうのがけっこうおもしろいんですよね。みんなすごくファンになってくれたりするんで。
昔は弊社でも飲食店を運営していたことがあるんですよ。最大で5店舗くらいかな。
昨今のコロナ禍がなければ、もつ鍋を中心にしたお店をまたスタートさせてみたいなと目論んでたんですけど…。もし今後いつかそんなお店を始めるとしたら、こうしてオンラインでも全国とつながれるようなコンセプトでやってみたいなと思いましたね。
とても素敵です! 他に会社としてこれから取り組んでみたいことはありますか?
寺師の理念のひとつに「いただきますを心から言える社会を作る」というものがあるんですよ。ズムメシのように、自分が今食べているものに対して臨場感を持てれば、世界にもっと幸せが増えるんじゃないかなと僕は考えていて。
たとえば寺師のもつ鍋を誰かが注文したとき、どうせならその収益の一部を世界の食糧危機の解消に役立てられないだろうかと思っています。
まさに「挑戦する肉屋」ですね。これからの展開に期待しています。今日はありがとうございました!