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絶滅寸前、新潟の伝統菓子を救え! デザインの力で後継者をみつけた「浮き星」の話

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
新潟県を拠点にモノやコトのデザインを手がける「hickory03travelers(ヒッコリースリートラベラーズ)」さん。こちらの記事では、ヒッコリーさんがデザインを手がけた話題のお菓子「浮き星」について迫るべく、日本で1軒しかない製造現場へお邪魔しました。

「浮き星」ってどんなお菓子?

新潟市で100年以上続くお菓子「浮き星」。昔から「ゆか里」という名前で親しまれ、いくつものお店でつくられていました。

見た目はまるで金平糖のようですが、砂糖の中にはあられが入っています。お湯にいれるとあられがぷかぷかと浮かびあがる、かわいらしいお菓子です。

しかしこの「浮き星」、現在製造しているのは新潟市にある明治屋さんの1軒だけ。なぜ作り手が激減してしまったのでしょう。ヒッコリーさんにお願いして、明治屋さんへ連れていってもらいました。

 

明治屋さんへやってきました!

こちらが明治屋さん

店主の小林さんにお話を伺いました

浮き星はこの厨房でつくられているんですか?

この釜でこうやってぐるぐるあられに蜜をまぶしていくね。ぜんぶ手作業で9時間くらいかかる。

かなりの体力仕事なんですね。

明治屋さんの創業は?

うちねぇ、120年。

ひえ〜!100年以上もつくられているんですか。

そう。あたしは3代目。

現在78歳という小林さん。とてもお元気です

「浮き星」のつくり手が小林さんだけになってしまったのは、なぜでしょう?

昔の和菓子屋さんというのは夏場に売れるお菓子がなかったんですね。それで夏場のおみやげとして「ゆか里」がつくられていたんですよ。それが缶入りの水羊かんができるようになりましてね…。

冷蔵技術の進化につれ夏に好まれるようになっていった水羊かん

そこから「ゆか里」をつくる人は減っていきまして。有名な和菓子屋さんはみんなつくらなくなって、とうとうウチだけ。そんなときヒッコリーの迫さんに、声をかけられたんですよ。

どんなふうに声をかけてくれたんですか?

最初「(パッケージの)デザインを変えよう」って言ってこられたんですけど「そんなの受け入れないよ!」って帰しましたね。(笑)

帰しちゃったんですか。

これまでデザインだけ変えて売れた覚えはなかったんですよ。(笑) そこから話をしていったら「後継ぎをつくるためにはデザイン以外も変えていかないと」という話になって、いろいろ始まったんですね。

本当に大変なときに、迫さんと出会ったんですね。

そうです。迫さんと出会ってなかったら、もう商売やめてます。

迫さんとの出会いに今はとても感謝されているんですね…! 小林さん、今日はお話をありがとうございました。


 

ヒッコリーさんのお店でさらに詳しくお話を聞きました

先ほど明治屋さんでお話を伺ってきたのですが迫さんと小林さんの出会いを教えてください。

ヒッコリースリートラベラーズ 代表の迫 一成さん

僕と明治屋の小林さんが出会ったのは2012年ごろです。最初はリニューアルする前の「ゆか里」を新潟みやげとして店頭に並べていました。

実店舗には新潟の郷土玩具や雑貨などが並ぶ

それをきっかけに小林さんと交流するようになって、話を聞いてみると「どうやらこのお菓子をつくっている職人さんは小林さん1人だけのようだぞ」と気がついたんですね。「こんなにかわいらしい郷土菓子が、このままでは途絶えてしまうのでは?」と危機感を覚えました。

どうしたらそんな未来を回避できるかといえば、後継者をつくるしかない。「ゆか里」の製造を「先のある仕事」にすることで、後継ぎも生まれるはずと考えたのです。それで、まず僕たちができることといえば、デザインや企画。その力でなんとかしようとしたんです。どうにかこの「ゆか里」をたくさんの人に知ってもらい、たくさん買ってもらえる状態にすることで未来を変えてやるぞ! といろいろ挑戦しはじめたのが2014年のことです。

もともとの 「ゆか里」のデザイン

 

名前もデザインも味もリニューアル。生まれ変わった「浮き星」

まず何からはじめたんですか?

まず全国に市場を広げるため、若い人たちが手にとってくれるようなパッケージデザインやサイズ、価格、ネーミングを考えました。

名前も変更したんですか。

そうです。「ゆか里」と呼ばれていたのを特長から「浮き星」とリネームして、パッケージには新潟に毎冬飛来する白鳥のイラストを添えました。

シンプルなパッケージですね。

本当は「新潟生まれ」とか「創業113年」とかいれたかったんですけど、そういった背景よりも浮き星自体のかわいらしさを伝えるほうが響くと判断して、あえて余計な要素をとっぱらいました。

それから、もともと単色展開だったのをミックスフレーバーにすることでカラフルさも出しました。

フレーバーは現在9種類

プレーン、コーヒー、ミルク、ジンジャー、しそ、ミント、いちご、柚子、抹茶。お湯に浮かべることはもちろん、紅茶やサイダーに浮かべたりデザートのトッピングに使うことも想定してバリエーションを増やしています。

こうしてリニューアルを経た「浮き星」は、2015年の冬に東京の展示会で発表して、たくさんのバイヤーさんにお声かけいただく結果になりました。

実際どれくらい販売できたんですか?

2015年だけでも約3万個売ることができました。2017年現在もいろいろなお店に置いてもらってます。

宣言どおり、たくさん買ってもらえる状態をつくりだすことに成功したんですね…!

デザインは、どんどん増えています

パッケージのデザインを季節ごとに変えたりいろんな作家さんとコラボレーションして増やすことで、おみやげやギフトとしての需要も高まっています。しかも昨年、ついに後継者もみつかりました。

すごい…!

このいい状態をずっと継続させなくちゃいけないというプレッシャーもありますけどね。この成功例を全部に展開するわけにはいかないですけど、新潟で第二第三の「浮き星」的な事例が生まれるよう、今もいろいろチャレンジしているところです。

「浮き星」のような再生物語がこれからもどんどん続くかと思うと楽しみです…!

「カッコいいコピーつけました」だけのデザインを見ると、すごく悔しい

デザインだけでなく売り方までこだわるヒッコリーさんの考え方について、さらに詳しくインタビューしたこちらの記事も、ぜひお読みください。

新潟の“大切なもの”に光をあてる「ヒッコリースリートラベラーズ」のデザインとビジネスの話
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