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新潟市古町の実店舗へやってきました
「新潟の大切なもの」に光をあてる
ヒッコリーさんのお仕事について教えてください。
ロゴや商品のデザインから実店舗での販売、イベント企画などいろいろやっています。最近は観光でこの町に訪れる人が増えたので、おみやげの発掘に力を入れていますね。
鍛冶や繊維業など、新潟にはたくさんのメーカーがありますね。
燕三条みたいなブランディングに力をいれて活動している地域もいいんですけど、僕たちはまだあまり知られていない新潟の大切なものを発掘して光をあてたい。すでにあたってるものは僕たちがやらなくても大丈夫。(笑)
以前「よむよむカラメル」で紹介した「浮き星」も新潟の大切なものにあたるんですか。
そうですね。もともとは何軒ものお店でつくられていた新潟の郷土菓子なんですけど今つくっているのは1軒だけ。これはまずい、ということで「後継ぎをつくる」を目標にデザインをはじめいろんな活動に挑戦したんです。
すごい目標ですね。
しかもついに後継ぎがみつかったんですよ! のちほど「浮き星」をつくっているお店へご案内します。
楽しみにしています!
「カッコいいコピーつけました」だけのデザインを見ると、すごく悔しい
新潟に眠っているいいものを、どうやって発掘しているんですか?
教えてもらうこともあれば、相談をいただくこともあります。よく「パッケージを変えたい」と言われるんですけど、すぐにデザインに着手せず問題の根本が何かを考えます。
どうしてすぐにデザインを変えないんですか?
どんなにいいデザインでも好きになってくれる人たちが売り場にいなければ売れないんですよ。それに今よりも利益をだせるようにならないと商品をつくり続けるのはむずかしくなる。だから売り方に問題がないか確かめるため、実際に店頭に置いてみたり、ひとつ返事でパッケージを変える判断をしないようにしています。
なるほど。
これは一例なんですけど…
もうね、見た瞬間テンション上がりましたね!
…牛ですか…?
闘牛が盛んな小千谷市の「牛の角突き」というお菓子なんですが、見た瞬間に「売り場を変えたらいける」って思いましたね。名前も見た目も組み合わせもうちみたいなお店にくる人は、絶対好きなやつです。(笑)
まさに売り場を変えることで課題解決の手がかりが見えた一例ですね。
そうそう。こういう個性やストーリーがあるものならあとは売り方が大事なんですよ。だから最近よくある「おしゃれなパッケージにしました」「カッコいいコピーをつけました」だけの仕事を見るとすごく悔しい。カッコつけて売れ続けるなら、それでいいんですけど。(笑)
デザインを生業にしている人が、デザイン以外の問題に気がつくのはむずかしいことですよね。
僕たちは実店舗をもっているので、お客さんのリアクションとか売り場の変化を観察することで、表面的な問題以外にも気がつきやすいんですよ。
「売れない」と言われている商品を工夫して売れるようにしたら、デザインした僕らの手柄じゃなくて「ほら、やっぱりいい商品でしょ!」と言えるじゃないですか。 地域の大切なものを発掘して光をあてるおもしろさって、ここにあると思うんですよね。
誰が動くかで、未来は大きく変わる
迫さんは福岡出身とのことですが、なぜ新潟で活動を始めたんですか?
もともと絵本作家になりたくて、イラストを描いたりTシャツをつくっていたんですけど、そういう力を生かしてお店を始めるなら大学時代を過ごした新潟がいいなと思ったんです。なので最初から場所にこだわりがあったわけではなくて。
何年くらい新潟で活動をされているんですか。
2001年からです。最初は市内で小さなスペースを借りてTシャツの販売を始めました。そしたら地元のメディアに掲載されるようになりやることもどんどん広がって。2003年に今の商店街へ拠点を移して、2010年に現在の建物へ移転しました。
長年活動して新潟の好きなところは増えましたか?
増えました! のんびりしているところ、自然が豊かなところ、食べ物がおいしいところ…
お店のある古町エリアは、どうですか?
いわゆるインスタ映えするようなお店や建物がいっぱいありますね。(笑) 無理やりブランディングした商店街ってかんじはなく、いいバランスで古いものと新しいものがミックスされていて、商売をする側としても、とても居心地いいです。
Tシャツのデザインから現在のような「地域ブランディング」的な仕事をするようになった経緯は…?
2003年、この商店街へ移転したとき「このままだと空き店舗だらけの人のいない商店街になるかも」と思ったんです。そこから「そうじゃない未来をつくるためにはどうしたらいいか?」っていろいろ考えてどんどん行動を起こしているうちに、想像以上の未来になったんですよね。
まずはどんなことからアクションされたんですか。
商店街の会議に出てみました。そしたら参加してるのがおじいちゃんしかいない。「ああ、町に魅力がないんじゃなくて企画を決断する場所に新しいアイデアが生まれないしそれを実行する人がいないんだ。だから未来が変わらないんだ」と気づいたんです。
商店街の抱える問題に気がついたんですね。
そこで新しい試みとして、このあたりの一番町から四番町までをくっつけて「上古町(かみふるまち)エリア」と設定してロゴマークや地図をデザインしました。
そしたらガイドブックやメディアで「上古町エリア」と呼ばれるようになって、外の県からも人が訪れるようになって。
こうした活動を展開しているうちに「カミフル=楽しい町」というイメージが定着してきて、若い人たちのあいだで「あのエリアで商売を始めたら、うまくいくかもしれない」とお店も増え始めたんですね。
活動を展開していくにつれ町を一緒に盛り上げてくれる仲間も増えた!
そうそうそう。いいお店が増えたら仲間も自然に集まるという考えで活動してきたので「カミフルは楽しい!」「カミフルは若者の町だ!」と言ってもらえたときはすごくうれしかったです。
上古町の地域ブランディング事例は、他の地域や商店街でも活用できそうです!
よく地域ブランディングにまつわる講演会で「コンセプトが大事」とか「仕組みが大事」とか叫ばれていますけど、僕はそこよりも「誰が実行するか」と「楽しそうなイメージをつくれるか」が成功の秘訣だと話しています。特産物がなくても、観光名所がなくても、なんとかなる。大事なのは誰が決めるか、行動するかです。
宇宙に「浮き星」を浮かべる日まで
迫さんは、いろんな領域で活動をされていますね。
もう…いろんなことをやっていて、僕も何がなんだかわかんないくらいです! (笑)
今の活動と、もともとの絵本作家という夢はけっこう離れているようにも見えますが。
そんなこともないんですよ。もともと絵本作家になりたかったのもメディアをつうじた表現に興味があったからなんですけど、メディアや手段に縛られると、他人のメッセージを届けるだけでけっきょく自分の伝えたいことを届けられないんですよね。
だから絵本でやろうと思っていた「自分で考えて動いて、伝えたいことを届ける」って夢を、実はヒッコリーの活動で叶えられた気がします。
では最後にヒッコリーの目標を教えてください!
目標…ないんですよね。(笑)
消費されすぎずちょうどいいバランスで楽しく仕事をできているので、今やっているような「ちょっとむずかしいけど解決したらみんなが楽しくなるような問題」に挑戦し続けることで少しずつ階段をのぼっていけたらと思います。
あ〜〜〜〜…!
強いて目指すところをあげるとしたら…浮き星を宇宙に浮かべたいかも。
宇宙に「浮き星」ですか、思わぬ方向!
なんかキャッチーじゃないですか! 宇宙で浮くのかな…? やってみてもらいたいんですね。(笑)
いつか「浮き星」が宇宙へ行く日を心待ちにしています! 今日は楽しいお話をありがとうございました!