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世界に通用するお箸を、もっと多くの人の手に。福井の老舗「兵左衛門」が語るネットショップの進化と未来

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
福井県小浜市で、100年以上にわたり漆塗りのお箸を製造。「お箸は食べ物です」をポリシーに、天然素材を使った安心・安全のお箸作りにこだわり続けています。今回は東京・広尾の直営店にお邪魔し、ネットショップの立ち上げや今後の展開などについて、同社の田口 美保さんに詳しく伺いました。

東京・広尾の実店舗にやってきました

お箸を作り続けて100年、これまでの歩み

ネットショップ運営を担当する田口 美保さん

兵左衛門さんの本社がある福井県小浜市は、お箸の製造が盛んだそうですね。

塗箸の全国シェアのうち80%を小浜市が占めています。うちは職人が手作りしているので生産規模としてはあまり大きくないですが、市内では大量生産のものも含め、多くのお箸が作られていますよ。

兵左衛門のお箸は職人によって手作りされている

兵左衛門さんは、大正時代の創業当時から一般の方向けにも販売をされていたのでしょうか。

いえ、初代は若狭塗の箸職人だったので、取引相手は主に問屋さんでした。昔は職人と小売店の間には問屋が入るのが暗黙の決まりとされていて、本来タブーとされてきた直販に動きだしたのは2代目、現会長の代からです。その後、百貨店に直接卸したり直営店を出すようになったのが今から約15年前、2007年ごろだったと思います。

ここ広尾店も直営店のひとつですよね。今は何種類くらいのお箸を取り扱っていますか。

会社全体で約1,200点です。ネットショップにもそのうち1,000点ほどを掲載しています。

すごい商品数ですね。

特に子ども用のお箸はサイズ展開が多く、1色あたり10サイズくらいご用意しているものもあります。ちょっとこれを見てください。

かなり長くて太いお箸ですね。菜箸……?

大人用のお箸を子どもが使うのって、見た目以上にとっても大変だし負担がかかるんです。それを保護者の方にもわかりやすくお伝えするために作った大きなお箸です。

本当だ、持ちにくい! 子どもの立場を自分の手で体感できますね。

大人に比べれば子どもの手指はむっくりしていて短いですよね。手に合わないお箸だと動かし方を覚えるのも大変なので、ときどき手の大きさを測ってあげて、靴を履き替えるような感覚でお箸のサイズも見直してもらえたらと。当店はそんな考えで、子ども用のお箸を1cm刻みでご用意してるんです。

なるほど。いつも使うものなのに、自分の手のサイズに合わせる発想は意外とありませんでした……!

メールフォームでの受注を経てネットショップ導入、そして海外販売へ

兵左衛門さんがネットショップを始めたのはいつ頃からですか。

今のようにショッピングカートのついた通販サイトを作成したのは2006年ですね。
それまでの数年間はホームページ内のメールフォームで「希望商品をご連絡いただければ発送します」という感じで、月に数件ご注文が入る程度でした。

ホームページ自体も昔ながらの簡素なデザインだったのをリニューアルして、ネットショップもそれに合わせて立ち上げました。カラーミーショップはこのときから利用しています。

ありがとうございます。メールフォームは注文のハードルが高く感じられますが、新たにショッピングカートを取り入れたことで注文は増えましたか。

そうですね。開設当時はクレジットカード決済を導入せず、銀行振込と代引だけでしばらく粘ってたんですけど(笑)クレカを入れた途端さらに一気に伸びましたね。

やはりクレジットカードは利便性が段違いですよね。
最近またショップの雰囲気が変わって、一段とすっきりした印象になりました。

株式会社これからさんに依頼して、2022年末に新装オープンしたばかりです。事前にアクセス分析をしてもらったのですが、広告でネットショップへの流入は増えていても離脱率がかなり高かったようで、「広告費がもったいない」と言われてしまいました。

トップページのスライダーって、商品をたくさん見せられるようで実はどんどん横へ流れていくものですよね。それに対してお客さまは下へ下へとスクロールしていく。広告で人気商品に興味を持ってくれたお客さまが、結局どこに商品があるのか見つけられずに離脱してしまっているのではないか?と動線の見直しを提案してくださいました。

なるほど。新装オープン後の今は、トップから入ってもすぐに人気商品へたどり着けますね。

まだ新しいデザインになったばかりなので(※)、もう少しして効果が目に見えてきたら嬉しいです。

※ 取材は2023年1月に実施

ネットショップの成長によって生じた新たな変化があれば教えてください。

ホームページから見つけてネットショップに飛んできてくださる方も多いのですが、最近は「兵左衛門」と検索するとネットショップが一番上に出てくるようになりました。ホームページの存在を知らないまま直接ネットショップに来られる方も増えてきた中で、まだまだネットショップ側には「情報」が足りないのを感じます。

たとえばどういった情報が?

商品やその製造に対する思い、会社の歴史などですね。ホームページではしっかりと説明していますが、ネットショップのほうには掲載が追いついていません。

これまではホームページだけで十分だと思ってましたけど、今回の新装と同時に「カラーミーWPオプション」を導入し、WordPressと連携できるようになったので、ネットショップでも商品・会社紹介のコンテンツをもっと増やしたいです。

売れるショップにコンテンツは必須ですよね。今やホームページよりも検索上位にきているのもすごいです。ネットショップの購入者層はどんな方が多いですか。

最初は女性が圧倒的多数だったのが、近頃は半々に近いくらい男性のお客さまも増えてきました。
人気商品の「かっとばし!!」を目当てに入ってこられる方もいらっしゃいますが、桐箱に入ったご結婚祝いなどのお箸を男性が購入することも多いです。桐箱ギフトの種類が増えたことで、どなたでも選びやすくなったのが要因として大きいと思います。

これまでにさまざまな販促施策を行ってこられたと思いますが、その中で特に反響のあったものはありますか。

メルマガはやっぱり打つたびに効果を感じますね。母の日のギフトとしても人気なので、そういったイベント前に配信するようにしています。しょっちゅう届くのはうるさいし、兵左衛門らしくないと思うので、配信は年に数回ですけどね。

WorldShopping BIZ」を利用して海外販売も行っていますね。アプリ導入前から海外からのお問い合わせは多かったのでしょうか。

外国語でのお問い合わせメールはたまにいただいていました。翻訳ツールにかけて読んだり返信したりしていましたが、海外のクレジットカードでの決済が難しく、ほぼお断りせざるを得ない状況でした。アプリを導入してからは少しずつ海外からもご注文いただけるようになりましたね。現地の日本人の方がお友達にプレゼントするといった使い方もされているようです。

兵左衛門さんの本格的なお箸は海外の方にとても喜ばれそうですよね。

商品へのこだわりや顧客への姿勢を丁寧に伝えたい

「カラーミーショップ大賞2022」では『SDGs賞』を勝ち取った兵左衛門さんですが、世の中にSDGsという言葉が浸透する前からさまざまな活動を行っていますよね。

特にテレビ番組でよく取り上げていただくのは「かっとばし!! プロジェクト」ですね。
プロ野球をはじめとした野球界では、木製バットが年間10万本消費されているのですが、当社では折れたバットをお箸として加工・再利用し、「かっとばし!!」として販売しています。

売上の一部は、バットの材料となるアオダモの木の植樹・育成に利用される

各球団のロゴが入っていますね。野球ファンの方に喜ばれそうです。

たとえ自分自身は興味がなくても、野球ファンの方へのギフトの選択肢になりますよね。何度もテレビに取り上げられたことで認知度がかなり高まったと思っていても、実際は「何それ、そんなお箸があるの?」と、まだまだ知らない人のほうが大多数。まだまだ伸びしろのある商品だと思います。

ほかにも、子どもたちにお箸の正しい持ち方を広める出張授業を行っていると聞きました。

そうなんです。全国の小学校をめぐって「お箸知育教室」というのを20年以上開催しています。
もともとは、都内のとある小学校の先生から「子どもたちの箸使いが気になるからお箸メーカーさんから教えてもらえないか」という依頼があったのが始まりで。持ち方や歴史をただ教えるだけでは身につかないでしょうから、自分だけのお箸作りを通じてまずお箸に興味を持ってもらうようにしたんです。

私たちスタッフが実際に学校まで伺ってお箸作りをお手伝いして、うちの会長も自ら「どうしてお箸をきちんと持たなきゃいけないのか」とか、堅いお話もして(笑)。そんな取り組みが口コミで広まっていくうちに、今度は企業の方から「新入社員の箸使いが気になるから講座を開いてほしい」と依頼が入ることもありました。

確かに、社会人はお箸を持つ手元が見られますもんね……! 取り組みを始めるだけでなく、長く続けていく姿勢が素晴らしいと感じました。
最後に、兵左衛門さんの今後の展開や目標について教えてください。

先ほどもお話ししたように、私たちの想像以上に当社のお箸はまだまだ知られていません。
うちでは毎年8月4日=“箸の日”に、赤坂の日枝神社でお箸のお焚き上げをするイベントを開催し、お客さまには「不要になったお箸を持ってきてください」とお知らせしています。遠方にお住まいの場合は当社まで送ってもらえれば、代わりにお焚き上げしますよと。でも、集まったお箸を見てみると当社のお箸はほとんど見つからなくて……手作りのお箸だけにこだわっている会社があることを、これからもっと多くの人に知っていただけたら嬉しいです。

もちろん、海外の方からの認知もどんどん広めていきたいです。たとえばうちの携帯箸「八四郎」は、国際サミットで海外の首脳陣にお渡しするギフトとして何度か選ばれたことがありまして……これなんですけど。

「伊勢志摩サミット」や「G20大阪サミット」などで贈呈品に選ばれた

まるで万年筆のような質感ですね。木の継ぎ目に引っかかりを感じず、持ちやすいです。

継ぎ目の金具を木に対してまっすぐに埋め込んで作る必要があって、少しでもズレると割れてしまう、製法がとても難しい商品なんですよ。付属の布製ケースに入れればカタカタ音も鳴ることなく、非常にスマートに持ち運べるのが特徴です。海外の方にはこういった商品が非常に好評なので、もっとアピールしていけたらと。

ありがとうございます。ネットショップ運営の展開や目標についてもお聞かせください。

商品ごとの細かい説明がまだまだ不足しているのを感じます。カタログ冊子と同じ文面を載せているだけなので。もっと一点一点の商品を大切に、この商品にはこんな特徴があって…という説明を充実させていきたいと思っています。商品選びに悩んでいるお客さまが、それを読んで買おうと思っていただけるように、もっと一点一点に目を配らないと。

商品数が多いと大変ですよね。

そうなんです。「どのお箸がおすすめですか?」とご相談のメールをくださるお客さまには丁寧にお答えしていますが、そうやってメールをくださる方自体少ないですからね。そこを読めばすべてわかるような商品ページにして、お客さまを取りこぼさないことが理想です。

兵左衛門は「カラーミーショップ大賞」で三度目の受賞を果たしましたが、授賞式でお会いしたショップさんはどこも素晴らしく、うちはまだまだ何もできてないなと感じることばかりでした。もちろん、お客さま一人一人には常に丁寧に向き合ってきましたが、今後はネットショップ全体を通じてその姿勢を表せられるようにしたいです。

兵左衛門さんの今後が楽しみです。本日はありがとうございました!