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誰もしていないことをあえてやる。インド料理業界に変革を起こす「SPICE cafe」の話【後編】

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
東京・墨田区にあるスパイス料理のお店「SPICE cafe(スパイスカフェ)」さん。食通をうならせる同店の料理はテレビや雑誌でもたびたび話題となり、連日お店を訪れる人が絶えません。インタビュー前編に続く今回は、伊藤さんが考えるインド料理業界の課題と、今後の挑戦について詳しく伺います。

料理に厳しくビジネスに消極的、そんな風潮を変えるには

ネットショップを始められた理由を教えてください。

なぜ始めたか、なるほど。
通販をやっているインド料理店が少なかったからです。

少ないんですか?

はい。どこのインド料理店も、おいしいカレーを作るための努力はストイックにしているんですが、お店のことを知ってもらったり経営をよくするための工夫をしているかというと、実際ほとんどしていないんです。

そんな業界の風潮を変えるためにも、まずは「インド料理店だってネットで物販ができるし、全国へ情報発信できるんだ!」というアピールをしていくことが大切だと思って通販を始めました。

他の料理店がやっていない活動をすることで、業界全体を刺激したい…ということでしょうか。

そうです。とにかくこの業界の人たちの多くはビジネスに消極的なんですよ。コネクションを作って研究したり業界を盛り上げていくだとか、そういった意識が低い。結果として、他の料理業界に比べてインド料理の業界はとても遅れをとっているんです。

盗むのはレシピじゃなくて「シェフの考えていること」

インド料理の業界は遅れているのですか?

少なくとも、フレンチやイタリアン、和食業界なんかは、ジャンルを超えてスタッフを交換して研修し合うことなんて日常茶飯事です。

業界を超えて研修するのはレシピを教えてもらうためですか…?

いやいや、レシピとかじゃないんです、知りたいのは。レシピなんて今どき本にいくらでも載っていますもん。そうじゃなくて「今何を考えているのか? 何をおもしろがっているのか?」知りたいことはそこらへんですね。

なるほど、一流のシェフが何を考えているのかを知るために研修へ。

はい。一流のシェフたちには秘密なんて何にもなくて、なんでも教えてくれるんですよ。わたしも最近フレンチレストランへ研修に行きましたし。

関わる人のモチベーションを上げて、料理をもっとおいしくする

伊藤さんがフレンチレストランへ研修に…?

代々木上原にあるレストランなんですけど、2カ月に1回くらい通っています。

そのレストランとの出会いは?

最初は雑誌を見て何気なく行ってみたんです。そしたらそれが衝撃的にうまい。さらにはそのシェフの人柄にも衝撃を受けて…

どんな方なんでしょう?

まず、絶対に怒らないんですよ
スタッフがなんか失敗しても「しょうがない」って諭すように教える。僕だったら叱っています。諭すだけじゃなくて、ちょっとしたこともめちゃくちゃ褒めるんですよ。

例えば、八百屋さんがお店に大根を持ってきてくれたとするでしょう。

はい。

「今日の大根、めっちゃいいですね~! いちばんいい大根を運んできてくれてありがとうございます!」って伝えると八百屋さんは喜ぶじゃないですか。そうすると、次回からちょっとでもいい大根を持ってきてくれる

ほうほう。

でもここで「この大根、しおれてるじゃん!」って怒っていたら、次回にいい大根持ってこようなんて思わないんです。そんなことしたってその八百屋さんの給料がよくなるわけじゃないから。

な、なるほど。諭したり褒めたりすることで食材・料理にかかわる人のモチベーションを上げて、よりよい料理を提供している…!

もう震えましたね。でもこんなのはごく一部のエピソードです。お料理も当然おいしいし、誰もやっていないことを常にやろうとしているし、休みなんて家庭崩壊してるんじゃないかってぐらい研究したり生産者を訪れている。(笑)とにかく見習うことが多いんです。

こうやって伺っているだけでも、他の料理人さんから学ぶことが多いというのが伝わります。

超真面目な24時からのフレンチ勉強会

よその料理業界で最近衝撃を受けたエピソード、他にもありますか?

ええ。たまたま先週参加させてもらったのが24時からのフレンチ勉強会で…。

24時から!?

フレンチレストランの多くは水曜が休みなので、火曜の24時にぞろぞろ集まってくるんですよ。いろんなレストランのシェフが。

なんか、怖いですね?(笑)

怖いですよ。(笑) でもね、24時からちゃんと勉強するんです。そのときのテーマは「日本茶」だったんですけど、朝の4時まで勉強しました。

朝の4時まで!?

超真面目でしょう?「日本茶は今危機的状況にある、なぜなら生産者が高齢化していて後継者がいないから…」という話をしたあと飲み比べて「これが青茶、これが白茶」って先生に教えてもらって。

日本茶の勉強会の様子。

「じゃあ日本茶のこういった現状に対して、フレンチレストランとして何ができるの?」って超真面目に議論するんです。

熱心ですし、社会問題も考えるんですね…! こんなスケールの勉強会がフレンチの業界では頻繁に行われているんですか?

そうそう。世界の一流シェフたちは、みんな自分の技術とか利益だけじゃなくて自分は社会にどう貢献できるか?っていうことを常に考えている。少なくとも今のインド料理業界に社会貢献を叫んでいる人は誰もいないですね。それが僕には、ちょっと寂しくて。「他の業界とはレベルが違いすぎるぞ」って。

伊藤さんとしては、インド料理が社会に貢献していくような活動をどんどん進めたい?

当然です、当然。できるはずですもん。

「この業界にまだないもの」をつくりたい

そもそも他の料理業界が社会貢献に対して意識が高いのはなぜなんでしょう?

フレンチやイタリアンの世界には料理学校があるでしょう。そこを出て名店で修行後、独立していくという流れがあるので、最初から横のつながりを持っているんですよね。それで業界全体が切磋琢磨し合えている。

でも、インド料理の場合はそういった土壌もつながりもないから、社会貢献まで行き着くのはむずかしいんですよ。

言われてみれば。日本にインド料理の学校はないんですか。

そうですね。一から修行するにしたって、20年前なんか厨房に日本人が入れないほど閉鎖的でした。そうすると仕方なく独学するしかない。当然、横のつながりなんて生まれない。

他の料理業界とはまったく違う…!

この状況をガラッと変えるためにも僕は「スパイスの学校」を作りたいんですよね。

「スパイスの学校」ですか。

フレンチやイタリアンは専門的な本も学校もいくらでもある。一般にニーズがあるんです。世間に必要とされているから、超一流のシェフがたくさん日本で働くし若手育成にも力を入れている。じゃあうちの業界は?というと、一流シェフなんてまず日本には来ません。

そうなんですか!

そうですよ。
日本では単価がせいぜい数千円ですよね。インドではいっぺんに300~1,000人規模の結婚式が毎週行われている。桁が違う自国のマーケットで必要とされているのだから、わざわざ日本で働く必要なんてないんですよ。

なるほど。

じゃあどうしたらいいかというと、日本にもっとスパイスやインド料理を浸透させて、マーケットを拡大させていくしかない。その土壌作りとして学校をつくるところから始めよう、っていう話なんです。…まあ酒の席でよくする妄想話なんですけど(笑)いつか実現させたいですね。

シェフ同士のつながりの次は、生産者とのつながりへ

学校の設立はまだまだむずかしいんですけど、最近成功したのがイベントです。

2017年5月に開催されたインド料理イベント「LOVE INDIA(ラブ インディア)」。

この「LOVE INDIA」が、日本で初めてのインド料理業界における大規模な交流じゃないでしょうか。
それまで業界三巨頭と言われているナイルレストラン・中村屋・デリーのつながりでさえなかったくらいですからね。それがこのイベントをきっかけに横のつながりが生まれて、勉強会を開くまでになったんです。インド料理史上初だと思いますよ。

シェフや各店のスタッフ、ボランティアとの一枚。

すごい!

ただ、同業者同士のつながりはできましたけど他の業界や生産者にはつながってないんですよ。フレンチのトップシェフなんかは、生産者をまわるのなんか当たり前なんですけど、うちの業界ではまだ誰もやっていない。

だったらやっていこう!ということで…やり始めました
インドの農園に足を運ぶだけでなく、スパイスを国産化しようとしている地域事業があるので、そこへ訪問したりアドバイスもしています。

新潟・三条にあるウコン栽培農家さん。

「国産スパイス」はこれから発展する余地がありますか?

残念だけど、商品化するのもまだ難しくてね。
生産まではできるんですけど、インド産なんかに比べるとコストがかかりすぎちゃう。値段が倍になっても一般の人が買う付加価値をどうつけるかを考えなくてはならないんですね。

何か打開策や今取り組んでいる商品企画はありますか。

今「三条スパイス研究所(※)」で生産して商品化を目指しているのが「冬越えターメリック」ですね。

※ 三条スパイス研究所
伊藤さんを中心に、異分野で活躍するクリエイターたちが新潟・三条市を拠点にして取り組むプロジェクト。新たなスパイス文化の発信と、“日本の暮らし” の再編集をはかる。

冬越え?

三条のターメリックは冬を越えるんです。なのでインド産のターメリックとは味も香りも全然違う。これを「ターメリック」の代用として売り込むのではなく「国産・冬越えウコン」という新しいスパイスとして提案するために、スタッフと使い方を研究しているんです。

なるほど。値段が高くても買いたくなる理由のあるスパイスを自分たちでつくる。生産地へも赴いて開拓をしているからこそ思いつく発想です。

「スパイス」をキーワードに、おもしろいことを開拓する

こうやってお話を伺っていると、伊藤さんは料理人である一方ビジネスも楽しんでいらっしゃいますね。

なんかおもしろいこといっぱいやりたいんですよね。お金儲けとかじゃなくて。

お金儲けではない。

実は今のところ「テナント出ませんか?」って相談を全部断ってるんですよ。僕、経営力ないし。こないだ有名ビルから電話がかかってきてさすがにビビったんですけど、それも断っちゃったくらいだし…。(笑)

そうなんですか!「売りたい」って気持ちよりも「料理を突き詰める」とか「業界をよくしたい」が強いんですか?

僕のなかで決めているのは「おもしろいことをする」。スパイスをキーワードにして、もっといろいろおもしろいことやっていけるんじゃないか?ってスタンスで商売をしています。

これから挑戦したいこととかありますか?

いっぱいありますよ。(笑)

ではどれか一つあげるとしたら?

オーベルジュ・ド・エピス
泊まれて食事もできて、スパイスを収穫したりできる施設です。たった3時間しか滞在できないレストランではなく、24時間「スパイス」をキーワードにいろいろな体験ができる場所。どうです、おもしろくありませんか?(笑)

行ってみたいです!!

金も時間もないんですけどね。
構想はいいと思うんだけど…誰か一緒にやらないかな(笑)

(笑)いつか実現する日がきたらまっさきに予約しますね。 今日はおもしろいお話をありがとうございました!