よむよむカラーミー
ECサイト開設・運営のヒントが見つかるWebメディア

誰にも負けない情熱を一皿に込めて。スパイス料理に新しい可能性を見出し続ける「SPICE cafe」の話【前編】

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
東京・墨田区にあるスパイス料理のお店「SPICE cafe(スパイスカフェ)」さん。食通をうならせる同店の料理はテレビや雑誌でもたびたび話題となり、連日お店を訪れる人が絶えません。インタビュー前編では人気商品とお店のこだわりについて、店主・伊藤一城さんにお話を伺いました。

スカイツリーのふもと、住宅街にひっそりと佇むお店。

草花に囲まれた小径を通り抜けると…

お店の入り口にたどり着きました。

入ってすぐ、陳列棚には人気の「ラッサム(レトルトカレー)」が置かれています。

 

「売れる法則」をあえて破る! 人気商品の誕生秘話

はじめに、ネットショップで人気のレトルトカレーについて教えてください。なぜメジャーなチキンやエビのカレーではなく、トマトベースの「ラッサム」を作ろうと思ったんですか?

レトルトカレーを販売するにあたって、まずスパイスカフェの象徴的なメニューってなんだろう?と考えたんです。当時日本では「ラッサム」のレトルトがまだ一つも出てなかったのでこれがいいだろう、と決めました。

世の中には、たくさんレトルトカレーがありますが…

そうなんです。お店のことを知ってもらうためのブランディングツールとして商品開発を始めたものの、どうやって売っていくかを考えたとき途方に暮れました。

店主の伊藤一城さん。

数あるレトルトカレーの中で、うちのラッサムが埋もれないためにはどうすればいいか…まずはどういうものが売れているのか市場を調べまして。

ほうほう。

調べていくうちに、売れるレトルトカレーの法則を発見したんです。

おおっ!

売れるレトルトカレーのパッケージには、必ずきれいに盛られたカレーや野菜、果物の写真が載っているんですよ。

たしかに…そういう商品はよく見かけます。

「パッケージにきれいな写真を載せないと絶対に売れない!」とまで言ってる人もいた。
だったら「じゃあそれはやめよう」っていう話をして…

えっ?(笑)

いや。
みんなと同じことをやっても勝てないですもん。

せっかくみつけた「売れる法則」を、あえて選ばなかったんですか。

はい。ラッサムの写真をパッケージに載せても売れないだろうということで、写真を使いませんでした。

トマトのうま味とスパイスの風味がぎゅっと詰まっている特製ラッサム。

ものすごい潔さ…! ではどうやってこのパッケージにいきついたんですか。

デザイナーさんへ「ラッサムの味を表現することは忘れて、とにかくウチらしいものを作ってくれ」と提案したんです。カレーらしさもおいしさもまったく想像できなくていい。徹底的にこだわるのは「らしさ」だけ。

中川政七商店をはじめ人気のセレクトショップにも並ぶ「ラッサム」

そうしたらこのデザインが出てきて、そこから「プレゼントしたくなるレトルトカレー」というコンセプトも決まりました。

「プレゼントしたくなる」すてきなコンセプトですね。

うちにとってこの商品はブランディングツールの位置づけだったので「プレゼントしたくなる、スパイスカフェらしいレトルトカレー」に行き着いたのは、結果として大成功でした。

なるほど。人気商品の秘話がパッケージにつまっていておもしろいです…!

世界中を旅してたどり着いた「スパイス料理」という答え

伊藤さんは、世界一周をされてからスパイスカフェを開店なさったんですよね。

はい。当時3年半かけて48ヵ国も旅したので、世界中の料理を出すカフェをやりたくてイタリアンレストランで修行をしました。

料理のテーマを「世界」から「スパイス」に変えたのはどうしてですか?

いざ飲食店の世界に入ってみると、広く浅く学ぶのではなく、何か一つに特化した誰にも負けない知識・技術を身に着けたほうが長く続けられるのではないか?と気がついたんです。そうしたとき、旅のなかで一番興味を持ったものは何かといえば「スパイス」で。

開業後、伊藤さんが執筆されたスパイスの魅力たっぷりのレシピ本。

なるほど。「スパイス」のどんなところに惹かれたんでしょう?

「カレー」は国民食と言われるほど日本に浸透しているけれども「スパイス」となると途端にハードルが高く感じる。でも実際は知られていないだけで、おもしろくておいしいスパイス料理って世界中にあるんですよ。そういう日本人がまだ知らないスパイス料理の魅力を伝えることに挑戦したくなったんです。

お客さんが続々と訪れる理由は「しかけ」と「こだわり」

「スパイス料理」がまだ知られていないなか、開業当初の集客はどうされたんですか。

このお店は2002年から1年かけて自分たちの手で地元に作ったんですけど、開店した2003年ごろは料理云々の前に近所の人たちがおもしろがってたくさん来てくれました。

築50年の木造アパートをセルフリノベーション。緑に囲われた建物は、一見するとお店だと分からない。

もともと通りすがりでは入りにくいこともあり、口コミやインターネットなどを通じて評判が広がっていきました。やがて2種類のお客さんが来てくれるようになりましたね。

2種類のお客さんですか。

スパイス料理に興味を持っているカレー好きの人たちと、リノベーションや下町への興味をきっかけに訪れてくれるカフェ好きの人たち。

カレー好き・カフェ好きの人たちを集めることは、開店当初から狙っていたのですか?

狙っていましたね。お金のないなか、このアパートを自分たちで改装して使おうとなったものの「何もしないとお客さんは絶対来ないな」と思っていたので、最初から狙いました。

なので開店当初から「わざわざ来てもらうために何ができるか?」と考えをめぐらせて、いろんな「しかけ」づくりに挑戦しました。

たとえば音楽イベントやギャラリーなんかも最近までやっていましたね。みなさんが先ほど食事されてた部屋はもともと展示スペースだったんです。

取材前にランチをいただいた部屋は、かつてギャラリーとして無料で貸し出していた。

そうだったんですか!

予約状況や展示への反応も好調で、人間関係が広がるので非常におもしろかったのですが、今は想像以上にお客さんが来てくれるようになったのでスペースの都合でやめてしまいました。

なるほど。お客さんを集めるための「しかけ」は大成功だったんですね。たくさんお客さんが来てくれるようになってみて、いかがですか。

うーん、お客さんが来ないとめちゃくちゃつらいんですけど、お客さんがたくさん来ても忙しくてめちゃくちゃつらい。どうすりゃいいんだろうと思っています。(笑)

うれしい悩みですね。(笑)

お客さんが訪れるきっかけはいろいろあるかと思いますが、やはり口コミで広がる決め手は料理のおいしさにあるかと思います。伊藤さんがスパイス料理でこだわり抜いていることも、ぜひ教えてください。

まず、僕がいない日はオープンしません。
いつでも自分を皿に盛るくらいの気持ちで、すべての料理に目をとおしたい。

自分を皿に盛る…!

はい。わざわざ来てくれたうえにお金を払ってもらうわけだから、それくらいのことはしたいです。

それから、料理はインドへ行って勉強しますが、そのコピーは絶対に出しません。そういうことは日本にいるインド人がやればいい。僕ができることは「日本人という僕のフィルターを通して表現できるスパイス料理」を出すことだと考えています。

すばらしいポリシーです…! スパイスカフェにたくさんのお客さんがやってくる理由が分かった気がします。

誰も味わったことのない料理を「スパイス」で。

開店してから10年以上、ここまで続けてこられた原動力はなんでしょう。

お客さんが目の前にいて、リアルな反応が返ってくることじゃないでしょうか。これは他の仕事では実感できないことです。

私たちもインターネットの仕事をしているので目の前で反応をもらえるのはうらやましいです。

僕も以前は建築関連の仕事をしていたのですが、一件ごとのスパンが長いので何年か経たないと成果が見えないんですよね。今の仕事は、その日その場でお客さんの反応が分かるので、ずっとおもしろくやれています。

なるほど。逆に開店から今までで変わったことや変えたことはありますか?

大きく変えたのは夜のディナーかな。

どう変えられたのでしょう。

今まではランチの延長線上でディナーをやっていました。前菜はスパイスを使ったおかずで、メインはカレー。それを去年の10月からガラッと変えて、スパイスを使った「7つのお皿」がメインのおまかせコース一本にしたんです。

HPに記載されているディナーメニュー。

その7皿は、どんな内容なんですか?

今まで誰も食べたことのないようなスパイス料理です。(笑)

今まで誰も?

はい。スパイス料理に何が足りないかを考えてみると、インドには四季がないから料理にも季節感がまったくないんですよ。でも日本でやるんだったら季節感が一番のメインになるなぁと思って、毎月メニューを変えて季節感を出しています。これはきっと他では体験できません。

なるほど。

このコースは自分のなかでもかなり大きな挑戦なので、本当はランチもやらずディナーだけに集中したいんです。

そうなんですね。ディナーだけに集中したい現在もネットショップの運営を続けていらっしゃる理由が気になってきました…。次はぜひそちらについてお聞かせください!