いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“人”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
鹿で有名な奈良公園のほど近くに本店をかまえ、書道用品を製造販売している「
書遊オンライン」さん。江戸時代に書道用の墨をつくるメーカーとして創業し、現在は小売・卸販売にも事業を展開。全国7つの実店舗とネットショップを運営しています。
今回はネットショップ運営を中心に、お客さまに楽しんでもらう工夫やデザインの考え方についてくわしく伺います。
奈良の本店にやってきました!
店内には書道用品が整然と並んでいます。
左から、デザインチームリーダー・井上さん、経営企画室長・堀内さん。二人にお話を伺います。
昨年のインタビュー(※)ではありがとうございました。今日は改めてネットショップ運営について、より詳しいお話を聞かせてください!
※カラーミーショップ大賞2017受賞後の書遊さんインタビュー記事はこちら
SNSコンテストで、書道をもっと気軽に!
カラーミーショップ大賞、2年連続で受賞おめでとうございます!
カラーミーショップ大賞2018では優秀賞を受賞されました。
また取るぞっていう思いはありましたか?
一回いただいたからにはもっと良い賞をいただけたら……と考えてはいましたが(笑)、まさか本当にいただけるとは思っていませんでした。
周りから反響などありましたか?
昨年は「ジャンル賞」で今年は「優秀賞」をいただきましたが、賞の内容も一段良いものになったということで、社内では喜ぶ声も多かったです。
受賞後にキャンペーンも開催されていましたね。
はい。SNSでも告知して、受賞やお店自体を知っていただくきっかけになったかと思います。
https://www.instagram.com/p/Bns4wAQn-ze/?utm_source=ig_web_options_share_sheet
Instagramでは、他にも参加型コンテストなどを企画されていましたよね。
はい、昨年の夏は「うちわコンテスト」としてハッシュタグをつけて投稿してもらうイベントを企画しました。年始には「書き初めコンテスト」をやりましたね。
https://www.instagram.com/p/BcbJfx-hsdJ/?utm_source=ig_web_options_share_sheet
作品を見てもらう場所っていうのが、この業界には少ないんです。展覧会とかも、あるにはありますけど。
そう。あるとしても、大きな規模のものが多いので、美術館借りるのとかすごくお金がかかったりとか。展示するまでに何万円とかかるので……。
正直にいうと、書道については堅いイメージがあります……。
そうですよね。もっと簡単にできるようにするのが私の課題ですね。もちろん、今あるものとは別ものとしてです。
というのも、音楽といってもクラシックとロックでは全くの別物ですし、書道にも、もっと違ったフィールドがあるんじゃないかと思っているんです。
なるほど、新しいジャンルを見据えているんですね。たしかに、SNSを見ていても書遊さんは写真のクオリティがすごく高くて、「お稽古事」のイメージとはまた違う雰囲気が素敵です。
本当ですか!ありがとうございます。カメラマンにも伝えます。
書遊さんのInstagramアカウント
自分たちが楽しめば、伝わる。デザインにかける思い
2016年にサイトをリニューアルされていますが、何かきっかけはあったんでしょうか。
もともとは、Webの知識もない素人がとりあえずつくったものを、ずるずると運用していたんです。やはり知識がないとどうにもならないな……と思っていました。そこに井上が入社して、ここからきちんとやっていこうということで、一気につくり変えました。
あと、この業界はアナログな現場なんです。お客さまもアナログだし、メーカーもアナログだし。その中でデザイン性も押し出して、なおかつ現代の利便性にあったサイトをつくっていきたいと思ったのがきっかけです。
リニューアル後、現在のネットショップ
なるほど。サイトのデザインは井上さんが手がけられているんですね。
最初の組み上げは確かにそうでしたけど、写真を撮り直したりとか、いろんな方の協力があって今の状態になってます。自社で完結しているので、そういう意味では妥協はないかもしれないですね。
井上さんは、入社される前からWebデザインとかプログラミングとかされてたんですか。
そうですね。学生のときからずっと好きだったっていうのもあります。もはや、遊びですね。あんまり勉強したっていう自覚はないですね。
サイトをつくるにあたっても、楽しんでやってるかどうかはお客さまにも伝わりますから。大事です。
お堅い感じのサイトも必要だとは思いますが、それは、コンセプトによります。
書道は趣味でやられてたり書家として活動されていたりと、いろんな方がいます。
そこに共通するのは、「楽しくある」ということだと思います。何かを継続して続けているのは、楽しいからでしょうし、それを助長できるサイトづくりは重要なポイントです。
堀内さんも、ご自身でやろうと思う気概が素晴らしいです。どうやって勉強されていたんですか?
もともとネットショップをつくるきっかけは、DMを外注でつくっていたのをやめて、経費節約のために自社でサイトをつくっちゃおうかっていうところからでした。
それで「AdobeのIllustratorがいるねんで」って言われて、「何それ?」というところから始めて。Photoshopつかっても、ペンツールで写真を切り取ることができずに、消しゴムツールで周りを消すような感じでした。
全部独学で、本読んだりして。だから、それはそれはひどい出来でしたよね……。(遠い目)
いやいや!(笑)私が入社する前の旧サイトを見てみたんです。すると、かなり「やるぞ」っていう意思は伝わってくる。こういうのって、データを見ればだいたい伝わってきますからね。
当時のネットショップ(拡大画像はこちら)
独学でやるにしても、途中でやめていない。ちょっとずつ継続して変えていっているのがわかるんです。
ちょっとずつでも、改善されてきたんですね。
今、ネットを担当されているスタッフさんは何名いらっしゃるんですか?
来月1名増えて、7名になるところです。昨年は4名だったところから、ありがたいことに少しずつ増えてますね。
リニューアル時、大変だったことの一つに商品写真撮影を挙げられていましたね。写真も全て内製なんですか?
はい、撮影も加工も社内のスタッフに任せています。今は4,000点以上ありますが、当時は2,500点の商品写真を一気に撮り直しましたね。
もしよかったら、そのときに新設された写真室を見せていただけないでしょうか。
そんな大げさなものではないですけどね。見ていってください。
写真室には大きなライトが。
太陽光も取り込み、さまざまな表情の写真を撮影できそうです。
こちらカメラマンです。SNSもすべて彼女が撮った写真を載せています。
「ええ〜!そんな!いやいやいや〜」
写真は勉強されたんですか?
「いえ、趣味で!」
「あーーー!!社内のみんなで書き初めした時のやつです……恥ずかしい。」
(笑)
こういう楽しみ方もありますよね。自分のテーマを書いたり。
お仕事現場を見せていただき、ありがとうございました!
実店舗とネットで補いあう、それぞれのメリット
ネットショップで売れるものと実店舗で売れるものの傾向って、違ったりするんですか?
売れる商品は似てますね。インターネットは検索流入とかあって、特に売れるものもありますけど、基本的に店舗と同じだと思います。
なるほど、これだけ多くの商品があると売れるものも偏ったりするのかな、と思っていました。
たしかにネット上では品質というか書き味がわからないので、写真や説明に力を入れているページの商品は、売れ行きが偏ったりすることもありますね。実は、もっとわかりやすくするために、今後は動画をつかって商品説明してみようっていう話が先週あたりから出ていて、今ちょうど準備が整ったところなんです。
素晴らしい取り組みですね! 楽しみにしています。やっぱり半紙や筆によって、書き心地はさまざまにあるんでしょうか……?
ありますし、とにかくものすごく奥が深いんです。今日感じることと明日感じることは違ったりしますでしょう? だから難しいんですよね。それを動画で見てもらえば一目瞭然です。それでも、微妙な色の違いが表現できなかったりすると思います。書道は感覚の商品なんです。
あと、ネットにも店舗同様に商品のバリエーションを揃えているのが印象的です。
まだまだ増やせるんですけどね、実は。(笑) 今ネットには4,000点以上載せてますけど、店舗には一点物も含めて1万点くらい商品数があるんです。
でも、数が多いと逆に選びにくいとか、デメリットが出てきますよね。そういったときは、3つのなかからおすすめを選んでいただくスタイルが売れやすい、とかもありますし。初心者と上級者によって提案を変えたりとか。でも、そこってお店も一緒ですよね。お客さまが何を求めているのかを把握しないといけないのは、同じだと思うんです。
たとえば、中には定番商品や売れ筋商品だけを載せているネットショップさんもあったりしますが、全部並べようというのは何かこだわりがありますか?
たしかに、商品がいっぱいあると選ぶ楽しさがありますね。
やっぱり専門店ですから。そこで商品があんまりないっていうのも寂しいですよね。
筆でも、人間の毛で同じ人間でも人によって毛質が違うように、イタチでも羊でも同じ。質は変わっていくものなんですよね。筆で言えば、微妙な硬さの違いをお客さまは試したいんです。売れてる筆ばっかり並べていても、不足なんですよね。
なるほど。そういう絶妙な差が、奥深いところなんですね。
お客さまからすれば同じものを買うことは安心感につながりますけどね。
「これよりちょっとだけ◯◯ですよ」みたいな提案がネット上でできれば買いやすくなる。購入が冒険でなくなる。冒険になると浪費につながりますから。想像したものを買っていただいて満足してもらう、っていうのは理想です。
店舗内の試し書きスペース。半紙や筆を試すことができます。
ちなみに、ネットのほうはリピーターが多いんでしょうか?
4割くらいがリピーターかと思います。店舗の良さとネットの良さは別にありますからね。いいところを活かしてやっていきたいですね。
ご年配の方は特に、なかなか店舗に来られない場合もあると思いますので。ネットでは、実店舗でできないこともできるかもしれないですよね。たとえば半紙を書き試すのはお店では全部できないけど、動画なら全部見ることはできる。そういうメリットを提供できればいいですね。
挑戦したいことだらけ。合言葉は「まずやってみる」
本当にさまざまなことにチャレンジされているんですね。
サービスとして、過渡期なんです。今から始めようとしているものは案としてはたくさんあって。
会社としては、メーカーとして始まってるんですけど、今はメーカー・小売・問屋といろんな顔があるんです。だからでしょうね、どんどん発想が出てきてしまう。ごちゃごちゃと新しいものをやりたがってしまう。小売だけだったらまた違ってきたかもしれないんですが。
小売でも、メーカーだからこそこだわりを持っておすすめできる側面もありますよね。
そういえば、以前からワークショップ型の書道体験教室をやりたいなって話が出ていて、9月あたりから準備に取り掛かっているんです。まだ試験段階なんですけど、もしよかったら書いていきませんか?
いいんですか?ぜひ書きたいです!
教室用のスペース。椅子に座って書きます。
え、「カラーミー」って書いてある!
ワークショップで書いたやつを印字できるサービスをつけようかと思っていて。Tシャツやトートバッグに印刷したりとか……まだテスト段階ですが。昨日それをテストするために、書きました。
先ほどの動画の件もそうですが、企画が出てからここまで進められてしまうスピード感に圧倒されています……!
これも、まずはやってみよう、ということで。来月くらいから始めてみる予定なんですけど、サイトも新しくつくって、とにかくお堅いものにはしたくないっていう方針です。あとで印刷やってみましょうか。
いいんですか!
うまくいくかわからないですけど……。これも楽しんでもらうきっかけづくりですよね。まだまだ敷居が高いんで。道具を揃えたり、書き方がよくわからないとか。
筆を持つ手が震えます。
こういう体験教室にしても、「まずやってみる」というのが根っこにあるんですね。
はい。墨は奈良発祥と言われていますので、ここで挑戦することは意味があることだと思っています。
そういえば、なんで奈良発祥なんだろう……と、気になっていました。
大昔の遣唐使からとか、弘法大師 空海からとか諸説ありますが、仏教が日本に入ってきて、様々な用途で墨と筆が必要になった。
ちなみに鹿は筆の原毛にも使われるので、神の遣いという説のほかに筆を作るためなんてこともあったのかも知れません。
奈良の鹿って、神様の遣いだったんですね!初めて知りました。
いません……。
(15分後)
おまたせしました、準備完了です。じゃあさっそくプレスしてみましょうか。
印刷成功!!
すごい! 綺麗に印刷されています! こうして新しいことにどんどんチャレンジされていることが、業界全体の盛り上がりにもつながりますね。
そうですね、チャレンジしていかないと。裾野を広げる、ということをまずやっていかないとですよね。
ここで出会った人たちとも、インターネットでつながっていくじゃないですか。そしたら、世界中のまだ書道をやられたことない方にも楽しんでもらうっていうことが、できるかもしれない……いや、私がしていくんですけど。
(笑) 今後の活躍、期待しています。今日は素晴らしいお話と書道体験までさせていただき、本当にありがとうございました!
今回体験させていただいたワークショップ
書遊さんの新しい試みでもある、ワークショップ型の書道体験教室は、11月27日(火)から正式スタート予定です。
奈良にお立ち寄りの際は、ぜひ体験してみてください!(駅チカでとても行きやすい場所にあります。)
▼特設ページ《書道space kaku》
http://nihonseiboku.co.jp/kaku/index.html