一目でわかる国産線香花火をつくりたい。
この線香花火、セレクトショップで見たことがあります。
この花火、なぜ花のかたちをしているんですか?
線香花火って火を点けてから4段階変わるんですけど、それぞれの変化に花の名前がついていて、その様子は四季や人の一生にも例えられるんです。
勢いのある「青年期」落ち着きのある「壮年期」そして「老年期」…やがて火が落ちて一生を終える。線香花火を楽しみながら日本ならではの儚い移ろいへ想いをはせてもらいたくて、4つの変化と4輪の花を重ね合わせています。
とても手が凝っていますね。
どうしても一目で国産とわかるものにしたくて、とことんこだわりました。微々たるものですけど、線香花火をつくることで日本の伝統工芸を継承していくお手伝いがしたくて。なので素材も国産で八女の手漉き和紙を使うと決めたんですが、それがものすごく大変で。
和紙の線香花火はどこらへんがむずかしかったんですか。
手漉き和紙は純度が高いから勢いよく燃えて、すぐに火の玉が落ちてしまうんです。
和紙を使うと線香花火としてちゃんと機能しない。
そう。それで全く上手くいかないものだから、質にこだわる主人とデザインにこだわる私で対立。主人は「質の悪いものは絶対に売れない。紙を変えよう」と言うわけですよ。でも私は「この紙じゃないと絶対に意味がない」どちらも退かなかった。(笑)
ベテランの職人にはつくれない。
だったら新しく職人をつくればいい。
せっかくアイデアが生まれたのに…。
ホントにね。夏は目前なのに肝心の生産ができていない状態。燃やすもの燃やすもの全てボトボト落ちていく。忘れもしないです、梅雨も終わりかけのころ。ふと「紙の撚りかたを変えると落ちない」って気がついたんです。「これならいける!」と、新しい撚りかたを職人たちへ教えたんですね。
上手くいきましたか?
それがこれも上手くいかなくて。なぜかというと、昔からの職人はみんな手癖がついてるんですね。最初は教えたとおりやるんだけど、だんだんと元の撚りかたに戻ってしまう。
またもピンチですね。
だから次に何をしたかっていうと「この撚りかたしか知らない職人さんをつくろう」と。(笑)
なるほど! 新しく職人さんを育てればよいと。
そう。というわけで、すぐに新聞の折り込み広告で募集をかけて、結果60人ぐらい応募がきたので練習してもらって、最後に残ったのが10人ぐらいかな。その方たちに材料を渡して、家でつくってもらって。
内職みたいな雇用形態ですね。
これはもう内職と言ったら失礼なレベル。すごく繊細な作業だかられっきとした職人さんです。で、ようやくこの方法で商品ができて、販売にこぎつけて。これを東京の展示会に持っていきました。
商品だけに限らず、大切なのはデザイン。
この商品、展示会でもかなり注目されたのでは…?
一見するとペーパークラフトかな?って感じの見た目だから、説明するとみなさん驚かれましたね。結果的にBEAMSとかのバイヤーさんも来てくださって、いろんなつながりができて。
苦労して商品開発した甲斐がありましたね。
ホントに。だからデザインって大切。たとえば展示会に出展するにしたって、数日で壊してしまうブースひとつのデザインにどれくらいお金をかけるかで、その先のつながりが全然変わってくるんですよ。
商品はもちろん、販売する場所のデザインも。
そうそう。ここもね、建てるつもりなかったんですけど、建ててよかったですもん。
なぜギャラリーを建てることに?
ちゃんと販売できる場所が必要だったから。というのも、毎年夏に自宅の座敷に花火を広げて販売していたんですね。夏のたった2カ月くらいのために工場からいっぱい花火を持ち帰っては撤去して…そんなやりかたをしていたんですよ。(笑)
建物にデザインをガッツリいれるつもりはなかったんですけど、うちの商品をデザインしてくださった方が「ぜひやらせてください!」と言ってくれたので依頼することになって。費用面ですごく悩んだけど、今考えればすごく安い金額で実現してくれた。ものすごく感謝しています。しっかりデザインしてもらったおかげで、こんなふうに取材が増えて、新しいつながりが生まれたと思うので。
今の状態は、商品だけでなく建物の力も大きいと。
はい。この建物の影響は大きいです。私たちの仕事は、建築の世界と直接的には関係ないんですけど、業界誌で紹介してもらって建築関係の方たちがここに来てくれるようになりました。そういう人たちが、私たちの活動に注目してくれるきっかけになるんだから、やっぱりデザインって重要です。
自分たちがやる意味を考える。
ここでは販売のほかに、イベントもされてますね。
最近だと10月に「玩具祭」っていう、なかなかふれる機会のない郷土玩具のワークショップを企画しました。人形の絵付けとかコマ回しとか。古くからあるものの良さを繋いでいくお祭りにしたくて今年初めてやってみた試みです。
ユニークなコンセプトですね。
だって今ってどこのイベントもワークショップも似ているでしょ。筒井時正玩具花火製造所でやる意味をちゃんと考えないと。
そうそう。他にも今イベントで計画していることがあって、「スボ手牡丹」っていう日本ではうちしかつくってない花火があるんですけど…
これは芯が紙じゃなくてお米からできているんですけど、素材である稲わらの芯が不足していて。なので最近原料からつくりはじめたんです。
原料というと…お米からつくっている?
そう。このために新規就農したんですよ。田んぼを手に入れたので、来年6月からは年間を通したワークショップを考えていて。1回目が田植え。2回目で新米と田舎料理を食べて、3回目で花火をつくって、後日花火が家に届く。
田植えからはじめる花火づくり、めちゃくちゃおもしろそうです。
参加してください! こういう企画は組み立てられるけど、私たちは告知が苦手なんです。(笑) あとね、このギャラリーの横にワイナリーをはじめたい計画もあるんですよ。
ワイン?! 花火と関係ないように思えますが…
これもね、ちゃんと共通点は持ってる。ワインって熟成するでしょ? 線香花火も熟成すると火がやわらかくなって味わいがでてくるものなんです。だから「熟成」がキーワード。このあたりは全部ブドウ畑だから、農家さんたちと一緒に組んでできたらおもしろいかなって思ってる。今、ワインにくわしい人たちといろいろ進めているんですよ。
何もかも、しっかりとしたコンセプトがあるんですね。
そう。意味のないことはしたくないから。
インタビューの後編ではなぜここまでデザインにこだわるようになったのか、その経緯と今後の展開について詳しく伺っています。
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