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つくるのは得意、アピールは苦手。だからこそ挑む繊維メーカー発のブランド「つもりプロジェクト」の話

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
新潟県の繊維メーカー5社が共同で起ち上げたブランド「つもりプロジェクト」。メーカーならではの視点でユニークな商品開発に挑戦しています。メーカーだからこその商品の強みやこれまでの歩みについてお話を伺いました。

最大の強みは、技術ありきのデザイン

 つもりプロジェクトの商品はいくつくらいありますか?

2012年からつくりはじめて、現在47点あります。

これまでにつくってきた商品

どんなアイテムがありますか?

バッグやポーチ、ルームシューズ、クッション…いろいろありますね。

プロジェクトの発起人のひとり・有限会社・白倉ニットの白倉 龍典さん

先ほど見学させていただいた工場では、主に洋服をつくっていましたが。

プロジェクトに参加している5社ともアパレルに強みをもったメーカーですが、得意としている領域とは違った新しい可能性をみつけるために、あえてインテリアや雑貨の開発をしています。

カラフルなアイテムが多いですね!

くもりの多い新潟の空に映える元気な色のアイテムをつくっています。

どうやって商品開発を進めているんですか。

だいたい5社から1人ずつ担当が集まって、次は何をつくろうか?と話をしますね。

他のメーカーと協力して商品を開発した経験は?

白倉さん: まったくなかったです。

近藤さん: 協力してつくることもそうですし、ふだんはアパレルブランドさんから注文をもらって商品をつくることがほとんどなので、商品をゼロから考えてつくることも初めてでした。

第一ニットマーケティング株式会社の近藤 友紀子さん

どんな商品を開発されているんですか。

白倉さん: アパレルさんからいただくデザインは、テキスタイルや形から着想を得たデザインが多いんですけど、つもりプロジェクトでは「この技法を使ったらおもしろいものができるんじゃないか?」という技術ありきの商品開発をしています。

たとえばこの生地はボコボコと穴があいているんですけど、これは水溶性の特殊な糸で編んだ部分を水で溶かす珍しい技法でつくっています。

こっちは野球のユニフォームに使われる生地なんですけど、ふつうは使われない配色にしてみたり…

新潟で100年以上続く「亀田縞」というもんぺなんかに使われる生地を、ポップな色柄にリバイバルしてバッグにしたり。ほかには1社だけじゃ実現できないようなコラボアイテムも多いです。

このバッグはリバーシブルなんですけど、持ち手は布帛、裏の生地は野球のユニフォームの生地と、すべて別のメーカーの生地なんです。

技術とコラボで生まれた商品が、つもりプロジェクトを形成しているんですね。

近藤さん: こういったわたしたちのアイテムをきっかけに、新潟に息づいているすごい技術を広く知ってもらうことを目指しています。

自らの技術を、自らの手で届ける

つもりプロジェクトをはじめたきっかけを教えてください。

近藤さん: わたしたちが集まったきっかけは、新潟県の事業でして。2011年に、県が主体となって県内の繊維企業を集めて製品発表する展示会を開催したんですけど、その事業に「つもり」という名前がついていました。

「つもり」には、雪の積もる新潟の風土・積み重なった時間・人がもつあそび心・未来への意思がこめられている

ただこの展示会では、今のようなコラボアイテムの開発も販売もしていなくて…。

なぜ販売をすることに?

白倉さん: 展示会を見たバイヤーさんたちから「販売はないのか?」とお声かけいただいたんです。県が主導で販売をするわけにもいかないですし「メーカーで協力して始めてみよう」ということで、今の5社が集まって「つもりプロジェクト」がスタートしました。

まずはどういったところで販売を?

大きいところですと三越伊勢丹さん。期間限定でしたが全国各地で1~2週間のポップアップショップをやりました。

全国で! すごいですね。

常設店をつくる話もいただいたんですが、メーカーである以上、販売だけに注力できない事情もあったので、現在はイベントやネットショップでの販売を中心におこなっています。

何年にもわたって商品企画や販売を継続するのは、とても大変なことかと思いますが…。

白倉さん: たしかに継続するのは大変です。

ただ右肩下がりな日本の繊維産業に危機感があって、だからこそ他人まかせにするのではなく自分たちの技術を自分たちの手で伝え続けないとダメだ!と考えてます。

作り手が店頭に立って分かったこと

「つもりプロジェクト」をやってよかったなと思うことはありますか?

白倉さん: いちばんは、自分たちのつくった生地が最終的にどんな商品になるか・どんな人の手にわたるか自分たちの目で確かめられたことです。

というのも、ほとんどの繊維メーカーは分業体制なので、自分たちのつくった生地がシャツになるのかワンピースになるのか、どんな人の手にわたるかも分からないことが多いんです。

近藤さん: そうしたこともあったので三越伊勢丹のポップアップショップをするとなったとき、わたしたちメーカーの人間が、全国の売り場に立って接客をしてみたんです。

イベント出展時の様子

おふたりが、接客をされたんですか!

そうです。わたしたちもそうですし、ふだんは工場で働いているおじさんたちが、かわいいバッグを一生懸命販売したんですよ。(笑)

白倉さん: みんな接客なんて初めてなので、ものすごく下手くそでした。(笑)

初めて接客をしてみて、何か気づいたことはありますか。

やっぱりなかなか売れないんですよね。技術のことなんて知ったこっちゃないお客さんたちへ、そのすごさを伝えるのがむずかしい。僕たち、つくるのはプロなんですけど、伝えることに関しては素人なんですよね。

近藤さん: ね。いくらでもモノはつくれるんですけど…とにかくアピール下手だから。(笑)

つくるのは得意だけど、アピールは苦手。

はい。(笑) それでも一生懸命「どうやってつくられているか」を伝えると「おもしろいね!」と興味をもって買ってくださる方もいて。そういう瞬間は、つくってる人と使ってくれる人がつながったようなかんじがして感動しました。

今まで見えづらかった、使う人のリアクションが見えた瞬間ですね。

そうですね。こういった接客をつうじて得られたリアクションを、工場で働いている現場の人たちにフィードバックできるのは、今までにない喜びで。 販売はこれからもできるだけ自分たちでやっていきたいですね。

 

ゴールは、ブランドとしての独立

これからやってみたいことはありますか?

白倉さん: なんとなく僕たちみたいに、つくるのは得意だけどアピールは苦手というメーカーが、新潟には多いような気がしていて。そういうメーカーさんと、もっとコラボしてみたいです。

近藤さん: 繊維だけじゃなく、農業や酒造と共同で商品開発したりワークショップを開催できたらおもしろいかもしれません。

「つもりプロジェクト」のゴールは?

白倉さん: 独立して、会社をつくれたらゴールですね。

近藤さん: そのときは白倉さんが社長でおねがいします。(笑)

夢が広がりますね! 今日はすてきなお話をありがとうございました。