ECサイト開設・運営のヒントが見つかるWebメディア

よむよむカラーミー

ECサイト開設・運営のヒントが見つかるWebメディア

日本初の“EC×包丁研ぎ”が大ヒット! 能登の鍛冶職人「ふくべ鍛冶」が見据える新たな市場展開

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
石川県能登半島で、包丁や農機具・漁具などをはじめとした刃物の製造・販売・修理を行う野鍛冶。地元の伝統的な商いと暮らしを支えるほか、近年では刃物研ぎの宅配サービス「ポチスパ」がヒットし、日本中の包丁のメンテナンスも手がけています。今回は、EC事業の展開と今後の目標について、代表の干場 健太朗さんにお話を伺いました。

地方公務員から家業の鍛冶屋へ転身

まずはECサイトを始めたきっかけを教えてください。

能登半島のほぼ先端に位置する当店は、10年ほど前まで、売上全体の約9割を地元のお客さまに支えられてきました。しかし能登の人口は年々減少しており、今後も減り続けるのは目に見えていましたから、やっぱりどうにか商圏を広げていかなくてはならないと考えたのがきっかけです。

ここ10年ほどでEC市場が徐々に活発化してきていたので、今この流れに乗っておかねばと思い、カラーミーショップでECサイトを開設しました。

開設にあたり、なぜカラーミーショップを選んでいただけたのでしょうか。

ECサイト運営は初めてでしたので、まずはどんなサービスがあるのか一通り調べました。石川県主催の講座も受講したのですが、その中でカラーミーショップが紹介されていましたね。
うちと付き合いのある他のショップさんでも導入されていましたし、国産サービスならではの使いやすさを感じたのが決め手となりました。何より費用面もそんなに高くないですからね。

ありがとうございます。従来はどういった業態で販売されていましたか。

僕自身は今から12年前に役場の職員をやめて家業に入ったのですが、その当時は移動販売で各集落を車で回って販売したり、金物修理を請け負ったりするのがメインでした。その4~5年後くらいにECサイトを始めたという流れですね。

地域密着の商売からECへと展開していったわけですね。

そうですね。地元のお客さまと密接に関わりながら商売をしてきましたので、なんとかこれをネット上でも再現できれば、うちにもチャンスがあるんじゃないかと思いました。

干場さんはなぜ家業の鍛冶屋を継ごうと思ったのでしょうか。

店は両親が営んでいたのですが、母が病気で亡くなったことで父1人になってしまい、それを機に父は家業を畳もうとしていたんです。この地域に鍛冶屋は当店1軒しかありませんので、うちがやめればみんな包丁が使えなくなってしまう。伝統的な漁法や農業で使われる特殊な道具が使えなくなれば、やっぱりみんなが困ってしまうわけです。


僕としては、公務員の定年退職が近くなったらいずれ継ごうかなと考えていました。でも、役場の仕事に替えはきいても、100年以上続くこの鍛冶屋を継げるのは僕しかいないということを痛感したので、予定を早める形で仕事を辞め、家業に入ることを決意しました。

もとから家業に入らず、一度公務員になったのはなぜですか。

鍛冶屋の商売でいろいろ苦労してきたであろう両親から「月給取りになれ」と言われて育ってきたこともあり、公務員なら彼らを安心させることができるだろうなと思いました。地区の祭礼が好きで、地域づくりを通して地元を盛り上げたい気持ちもあったので、そういう意味では役場が一番合っていましたね。

なるほど。家業を継ぐからには自分の代で実現したい、あるいは改善したいと思っていたことがあれば教えてください。

やりたいことはたくさんありましたね。まずは家族経営からの脱却です。先ほども言ったように人口の減り続ける地域ですから、なんとか雇用を増やして町に活気をもたらしたい。ECサイトを始めた当初は父と私、あともう一人くらいしかいませんでしたが、現在は私を含め17名のスタッフがおり、徐々に人手は増えてきています。


それから、公務員時代に中小企業の支援を担当していたからこそわかるのですが、国や県、町それぞれからいろいろな補助金事業が出ているんです。そういったものをうまく活用すればリスクも分散されるので、中小企業の方に「ぜひ使ってみませんか?」とお声がけするのですが、「申請書が大変だ」「そんな時間はないよ」と皆さんおっしゃるんです。それが非常にもったいないなと思っていたので、家業で挑戦してみたいことは資金面でも多かったですね。
もちろん、補助金が出ても自己負担は発生しますので、そこは僕が夜中に働いてでもなんとか食らいついて(笑)。やりたいことがあるおかげで、当初から今に至るまでずっとエネルギッシュにやってこれた気がします。

包丁研ぎの“ネガティブ”をなくす新サービス

包丁研ぎの宅配サービス「ポチスパ」を始めた経緯についても教えてください。

ECサイト開設後、月商10万円の壁をなかなか越えられなかったり、それを超えたと思えば40万円ぐらいの壁が続いたりと、いろいろなハードルがありました。その一方、移動販売ではモノを売るよりも修理するほうが喜ばれるのを肌で感じていたので、オフラインでうまくいっている施策をECでいかに再現できるか?とチャレンジ精神で始めた施策だったんです。

自宅に届いた専用ボックスに包丁を入れてポスト投函するだけとは、かなり斬新です。

首都圏在住の友人・知人に普段どうやって包丁を研いでいるのか聞いてみたところ、一番多かったのは自宅のシャープナーで済ませるパターンでした。「近所に研ぎ師が来てくれるのを待つ」という人もいましたが、自宅から包丁を持って出歩かなきゃいけないのは気が重いですよね。
包丁研ぎに関してはそういったネガティブな要素がたくさんあったので、それらをまとめて解決したいという思いでスタートしました。

確かに言われてみると、なかなかプロに研いでもらえる機会はないですね。

ご家庭のシャープナーだとどうしても刃の先端1ミリぐらいしか研げないので、すぐにまた切れなくなってしまうんですよ。うちの職人は砥石に対して包丁を寝かせるようにして研ぐので非常に鋭利になります。年に1~2回のプロの研ぎでストレスなく扱えるとご好評いただいてます。

宅配専用ボックスもスマートで、安心して発送できる工夫が詰まっていますよね。

そうですね。やっぱり梱包に関しては「安全な送り方がわからない」とか「包丁なんてポストに入れていいの?」といった不安の声が非常に多かったので、初めての方でも安心してご利用いただくために特に力を入れて開発したポイントです。

当初はどのようにしてサービスを世に広めていったのでしょうか。

「包丁研ぎ×宅配」は国内でも初めての取り組みで、それも地方発の新しいビジネスモデルだったこともあり、地元紙、全国紙、テレビ局など多くのメディアに取り上げていただき、実質無料で宣伝することができました。

リスティング広告の効果も大きかったですね。最初は闇雲に何万円もかけたのにあっという間に予算がなくなってしまったりと大変な思いをしたのですが、AIが賢くなったことで投資に見合った効果が感じられるようになり、競合もあまりいなかったので相当獲れましたね。ポチスパのお客さまが他の商品の購入に至るケースも多く、ショップの会員数も順調に伸ばせています。

メディアリレーションはどのように行いましたか?

役場ではPRの業務もしていたので、その当時から親交のあった記者の方々にメールやFAXでプレスリリースを送りました。他にないサービスということで、もし1社でも取り上げてもらえれば、今度はその記事を「〇〇で取り上げられました」と添付してまた送るのを繰り返すうちに、雪だるま式にどんどん増えていきました。

公務員時代のいろいろなご経験が家業に活かされているんですね。

「ポチスパ」の輪を拡げ、伝統技術をつないでいく

ECサイトの顧客層としては、どういった方が多いですか。

首都圏の方が多いですね。当店には「刃物作り」と「修理」の大きな2つの軸があり、鍛造商品(叩いて造る包丁類)に関しては30~50代の男性が多いです。一方、ポチスパは逆に30~50代の女性が多いですね。幅広い顧客層に支えていただけているのは非常にありがたい反面、サービスによってターゲットが明確に異なるのは、ECサイト運営の難しいポイントでもあります。

なぜそこまで明確に顧客層が分かれたのでしょうか。

鍛冶屋の包丁は、趣味やこだわりの一品として男性から好まれる傾向があるようです。スペックを重視したい方がロマンをくすぐられるのか、当店で作った商品を購入されるのは9割以上が男性のお客さまです。一方、普段から包丁をお使いになるのは女性のほうが多いので、日常使いのための研ぎや修理のニーズに当店がうまく応えられているのかなと思います。

ちなみに、プロの料理人さんがポチスパを利用することも?

当初の予想と違って、今は一般の方が8~9割ですね。日本の料理人さんは刃物の自己管理を徹底しているので、よほどおかしなことにならない限りは自分でメンテナンスする方ばかりです。自分で研ぎ続けたことで歪んできたり、持ち手がおかしくなったときは料理人さんも時々うちに修理を依頼してきますよ。

自社の包丁でなくても修理依頼を受けられているんですね。

海外製も含め、断ったことはほとんどないですね。
大手のメーカーさんも小売店さんも、「うちで作った(買った)ものしか研がない」とか、そうでなくても他社製は料金割り増しだとか、いろいろ面倒なことがたくさんありますが、消費者の立場からするとそんなしがらみは不便でしかありません。


お客さまにとっては思い入れの深い大切な一本を預けていただくことも多いので、自社製/他社製のボーダーは一切取り払い、いかにストレスを軽減してもらうかを第一にサービスを設計しました。

どこで買ったものでもケアしていただけるのはすごくありがたいです。今後、ECサイトを通じて事業をどのように伸ばしていきたいですか。

まず一つは、刃物商品の売上成長を図ると同時に、まな板など関連商品のラインナップも徐々に今後増やしていけたらと考えています。そしてもう一つ、つい先日「DAIJINI (ダイジニ)」というサービスを新たに立ち上げたので、こちらも少しずつ拡大していく予定です。

DAIJINIはどういったサービスなんですか。

あらゆる道具とそれぞれの専門職人をつなぐ「修理」のプラットフォームです。
包丁だけでなく、輪島塗りの漆の塗り直し、まな板削り、美容バサミのメンテナンスなどを得意とするそれぞれの職人さんたちと提携し、宅配修理を受け付けます。


ポチスパと同じく、まずはECサイト上での受注後、当店から専用ボックスをお送りします。漆器・まな板それぞれの専用ボックスをご用意しているので、お客さまにはそれを使って指定の工場へ依頼品を発送してもらい、各工場での修理後に返送するというシステムになっています。

ポチスパのサービスを応用して、できることの幅をさらに拡げたんですね。

はい。うちで修理を請け負ったお客さまが新しい商品を買ってくださることが非常に多いので、伝統工芸や技術のある職人・メーカーさんと提携して、どんどん修理を受けることでお客さまとの関係をつなぎ、新しいものを売っていこうという取り組みです。ポチスパのために開発した受注管理システムを他の職人の皆さんにも展開し、一緒に売上を伸ばしていきたいなと思っています。

素晴らしい取り組みですね。職人さんの雇用の維持・創出にもつながりそうです。

今後さらに職人さんの輪を広げ、対応可能なサービスを増やせたらと考えているところです。

公務員を辞めて家業に入ったときから、いずれは日本や世界で活躍できるような鍛冶屋を目指していろいろなことに取り組んできました。今はまだまだ道半ばですが、一つひとつ芽が出てきているので、ここからまた将来に向けて新たな施策を試していきたいですね。

今日は貴重なお話をありがとうございました!