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めざせ注目度アップ! スイーツ専門メディアが語る魅力的な商品PR術

こんにちは、よむよむカラーミー編集部です。
今回は、2022年8月3日(水)に開催したオンラインセミナー「めざせ注目度アップ! スイーツ専門メディアが語る魅力的な商品PR術」のレポートをお届けします。

登壇者紹介

大坪 千夏 氏(株式会社柴田書店 『café-sweets』編集長)
アシェット婦人画報社(現社名:ハースト婦人画報社)を経て、2011年 柴田書店に入社。以来『café-sweets』編集部に在籍。2015年、人気パン店の連載をまとめた書籍『たま木亭 忘れられないパン』を編集。産休・育休を取得後、2019年4月から同誌の編集長を務める。

坂井 勇太朗 氏(株式会社風讃社 Webメディア『ufu.』編集長)
2011年、育児雑誌『ひよこクラブ』編集部を経て、ベネッセコーポレーション『サンキュ!』編集部へ。その後、2021年3月にスイーツメディア『ufu.』編集部を立ち上げ。トレンド情報だけではなく、洋菓子界の労働問題やジェンダー、女性シェフの働き方までシャープな切り口で情報を発信する。自ら撮影や動画ディレクターもつとめるほか、商品プロデュースからコンサルティング、お菓子のブランドの立ち上げまで幅広く洋菓子界に関わる。

吉林 美貴(GMOペパボ株式会社 カラーミーショップ マーケティングチーム) (司会)
カラーミーショップの公式SNSや、YouTubeチャンネル『カラーミーショップch.』での機能紹介動画を担当。2014年にカスタマーサポート担当として入社後、カスタマーサクセス担当を経てユーザーの成長支援・認知拡大に取り組む。ネットショップ実務士2級を取得している。

第1部: ネットを使った「商品PR」

なぜ商品PRにインターネットを使うのか

吉林
2022年現在のスマートフォン普及率は、なんと94%。ほぼすべての人がインターネットに触れられる時代、70歳を超える私の祖父母も日常的にスマホを使いこなしています。スマホ普及率の上昇にともない、ネットを通じて商品を売り買いする人も増えてきました。

私たちGMOペパボが提供するハンドメイドマーケット『minne (ミンネ)』も、それを実感できる一つの例です。CMなどでご存知の方もいるかもしれませんが、minneは自分で作ったアクセサリーや雑貨などを登録・販売できるサービスです。15年ほど前に同じことをやろうとすると、自分でサーバーを借りてホームページを構築したり、お客さまとやりとりするための銀行口座を用意したりと非常に手間がかかりましたが、今は商品画像をアップするだけで個人の方でも気軽に販売可能です。

minneのようにいろんな人が一つの場に集まって出品するサービスもあれば、『カラーミーショップ』のように独自のネットショップを作って販売できるサービスもあります。この2サービスの違いについてよく質問をいただくのですが、minneはショッピングモール、カラーミーショップは路面店をイメージするのがわかりやすいと思います。

【ショッピングモールと独自ショップの違い】

ショッピングモール(minneなど):
人が集まりやすい/お客さまにブランドを覚えてもらいにくい
独自ショップ(カラーミーショップなど):
自由度が高い/こだわりの世界観を表現できる/集客に工夫が必要

商品のPR方法

吉林
では、ネットショップでの商品PRにはどんな方法があるのでしょうか。
昔はテレビCMやチラシなどが一般的でしたが、スマホ普及率の上昇とともにSNSでの発信が一般的になり、継続的に発信すれば法人・個人を問わず結果が出やすくなってきました。さらに「SNSから得られる情報で商品購入の検討をしたことがある」という人も非常に増えています。つまり、商品はネットで販売してネットでPRするのが現代にマッチしたやり方だと言えるのではないでしょうか。

ショップオーナーの皆さんとお話していると、ネットでの発信がお上手な方から、もったいないなと感じる方までさまざまです。発信上手な方は売上につながるような投稿が多く、作り手の思い・背景を言語化したり写真で伝えたりしてファンを作っている印象です。本日はこのあとゲストのお二人を交えて、「上手な発信」のコツについて詳しくお話します。

第2部: ネットショップで買いたくなる商品の特徴

ネットショップで購入した中で特に印象に残ったスイーツ

吉林
魅力的な商品には魅力的なPRが欠かせないと思いますが、お二人がネットで購入した商品で特に印象に残ったものはありますか?

大坪さん
私たちが実際に取材したお店なのですが、京都にある『Nowhereman』という焼き菓子屋さんは、お菓子をモチーフにしたポエムが付いてくる珍しいお店です。写真を見ていただくとわかるのですが、焼き菓子のパッケージに小さく熨斗のように貼られていますよね。きちんとしたブランディングがお客さまにも受け入れられていて、通販だけでなく実店舗もオープンされたという点でも成功例だと思います。

『café-sweets vol.200』(柴田書店)より

2009年のオープン当時はSNSもそれほど発達しておらず、オーナーの長野さん自身、ブランディングの細やかなお菓子屋さんがまだ少ないと感じていたそうです。そこでお菓子と音楽、ポエムを融合することで、より立体的にイメージを持って食べていただけるんじゃないかと。
長野さんは「世の中のお菓子は“楽しく食べましょう”というポジティブなメッセージばかり。一方で音楽は、気持ちがネガティブなときに聴いて励まされたり心にしみるものがある。お菓子には感情が見えないと思った」とおっしゃっていました。この切り口はかなり斬新ですよね。悲しいときに寄り添ってくれる、癒されるために食べるという従来のお菓子にないストーリー性をもたせたのが印象的でした。

吉林
ポエムと聞いて、最初はけっこう長文なのかな?と思いましたけど、1~2行と短いのがいいですね。心にも残りやすそうです。坂井さんはいかがでしょうか。

坂井さん
僕が印象に残っているのは兵庫の山奥で作られているチーズケーキ屋さんです。自家農園で育てているニワトリの産卵ペースに合わせて予約販売していて、素材重視で商品を購入する方が増えている中、このフレッシュな販売方法はすごくおもしろいなと思いました。「〇〇産の素材を使っています」とただ謳うだけではない“ライブ感”が非常にいいですよね。自家農園をお持ちでないショップさんも、たとえば「この季節ならではのこんな食材を仕入れたので、こんなお菓子を作ります」などの発信をすると、より購入意欲をそそられそうですよね。

あと、ここのオーナーさまは奥さんと毎週のようにインスタライブをやっていて、僕も大好きなんです。視聴者さんにもけっこうマニアが多いので、お菓子にまつわるコアな質問のやりとりを通じてみんなで楽しんでいて、発信のしかたが上手な印象を受けましたね。

吉林
ニワトリさんのペースで作られていると思うと、それだけでキュンとしちゃいますね。
インスタライブって「私なんかができるのかな?」とためらうショップオーナーさまが多いですが、購入者側からすれば、商品にいちばん詳しいのは他でもなくオーナーさまなんですよね。ちょっとした知識をお話しするだけでもかなり喜ばれますので、迷っている方はぜひ一度トライしてみてください!

ネットショップの利用時に感動したサービス

大坪さん
以前、特集記事の撮影のためにさまざまなパティスリーのチーズケーキを一度にお取り寄せしたことがあって。届いた商品を開封する中で「こうやって解凍してください」「こうやって開けないと形が崩れてしまいます」といった説明書を一番上に載せてくれていたときは嬉しかったです。緩衝材に埋もれて説明書がどこに入っているのかわからないケースもありますからね。

吉林
わかります。商品を取り出してみて最後にやっと見つかることもありますね。

大坪さん
すごく心を込めて作られた商品でも、最後のひと手間で受け取られ方が大きく変わってしまうんですよね。丁寧な梱包からはお菓子作りへの誠実な姿勢まで感じられるので、通販って奥深いなと。簡単にできることではないですが、サラッと自然にそれができるお店にはグッときます。

吉林
ショップや商品に愛がないとなかなかできないですよね。ネットショップの梱包も、実店舗での接客も。

大坪さん
メールの返信の仕方にも表れますよね。もちろん過剰な細やかさでなくても全然いいんです。お客さまが何を欲しているのかを汲み取るような誠実さがあれば。

吉林
坂井さんはどうですか。

坂井さん
僕もお二人と同意見です。温かさや誠実さはお客さまにとても伝わりますよね。
ブランドやネットショップを立ち上げる際の成功メソッドの一つに「上手に距離を縮めること」が挙げられます。今や誰でも知っているような人気店さんも、立ち上げ初期のころはシェフ自ら商品にサインを入れたり、ネットショップのお客さま一人ひとりに手書きのメッセージを加えたりしていたそうです。もちろん大変だとは思うのですが、ファンを掴むのには大事な第一歩だと思います。

うちもネットショップで商品販売をしたことがありますが、たまたま顔見知りのシェフが購入してくれたので、発送時にメッセージを同梱してみたんです。後日ご本人から「すごく感動した、私もやってみます」とDMが届いたときは、なんとなくやったことがこんなに喜んでもらえるんだという発見が僕自身にもありましたね。

吉林
やっぱり手書きのメッセージって強いですよね。

インターネットで受けやすい商品ってどんなもの?

坂井さん
皆さんフルーツがすごく好きですよね。やっぱり季節を感じられる旬のフルーツを見ると、つい食べたくなります。チーズケーキのようなトレンド感だけでなく、流行りに左右されない季節感は大事だなと思います。

吉林
特に桃とかシャインマスカット、イチゴとかは写真映えしますよね。

坂井さん
フルーツって「昨年出ていたアレをまた食べたい」と思ってくれるお客さまも多いので、そういうファンも掴めますよ。

吉林
大坪さんはいかがですか。

大坪さん
見た目のインパクトはもちろん、世界観やストーリーが作り込まれているものは受けますよね。作り手の感動がそのまま伝わるものは強いなと思います。
実店舗だと、お客さまの前にシェフが出てきて事細かに説明することは難しいですが、ネットならそれが可能だからこそ重要で。お菓子ってそれ自体のおいしさだけでなく、雰囲気や世界観まで味わう商材ですから、きちんと打ち出していくことが肝心です。

吉林
モールに出品するとデザインや世界観がどうしてもモールらしくなってしまうんですよね。ショップや商品の性質によっては独自ショップで販売したほうが、よりファンになってもらいやすい場合もあります。
あと、店員さんに声かけられるのが苦手な人って意外と多いですよね。私自身、洋服屋さんでも静かに商品を選びたいタイプなんですけど……ネットショップでは1から10まで書いておけば、1だけ読んで買いたい人、10まで読んで買いたい人、それぞれの尺度に対応できるのでアウトプットは大事ですね。

編集長の2人がいま注目しているパン・スイーツ

坂井さん
先ほどもお話ししたような、季節のフルーツを使ったものに注目しています。最近は消費者側のリテラシーも上がってきて、産地や品種での訴求も昔に比べて刺さりやすくなっているので、そこにクローズアップした商品は注目してしまいますね。
それから、最近はスコーンやキャロットケーキをはじめとしたシンプルなイギリス菓子の人気が高まっていて、お店もどんどん増えています。カンノーリなどのイタリアのお菓子も、じわじわと人気が出てきていますね。

吉林
初めて知ったんですけど、カンノーリってどんなお菓子ですか?

大坪さん
筒状になったパイ生地の中にクリームが入ってるんです。イタリア南部のほうだとリコッタチーズが入っています。

吉林
絶対おいしいやつじゃないですか! 今度食べてみます。

坂井さん
専門店だけでなくデパートに入っているパン屋さんなんかでも見かけることが増えましたよね。ぜひ食べてみてください。

大坪さん
坂井さんがおっしゃったように、季節のフルーツが使われた商品は私も注目しています。
さらに言うと、最近は「直感的においしい」スイーツが増えてきたのを感じます。いろんな素材が層になって複雑な味がするというよりは、シンプルなケーキでも仕立てが繊細だったり、時期によって風味の異なるフルーツに合わせてシロップや生地を工夫していたり、そんなお菓子作りをされるシェフが増えているなと。乳製品や小麦粉などの品質向上や、SNSの普及で生産者さんに直接アクセスしやすくなったことも要因の一つかもしれませんね。

第3部: 魅力的な商品PR術

効果的な商品写真・訴求テキストのポイント

吉林
坂井さんが商品を紹介する際、写真やテキストで気をつけていることはありますか。

坂井さん
マーケティングの基本的なポイントではありますが、誰にどんな体験を届けるか?という軸をよく考えておくことです。そうしないと世界観や価格帯がチグハグになり、お客さま側もどんなシーンで買うべきか分からなくなっちゃうんですよね。写真や文章を磨くことも大切ですが、まずは「こういうものを届けたい」という自分の中の熱い思いを一度見直して、頭の中を整理してみるようにしています。

写真に関しては、お菓子がずらっと並んでいるような画が昨今のトレンドで、行動心理学的にも購買意欲をかき立てられやすいという話を聞きました。たしかにInstagramを見ていても、ずらっとスイーツが並んだ写真は一個だけの写真よりも目を引きますし、実店舗でもたくさん並んでるとつい買いたくなりますよね。
ただし、こういった流行は真似すればいいというものではなく、先ほどもお話ししたように、お菓子を通じて何を皆さんに届けたいのか(素材、技法、地元の魅力など)を見つめ直し、コンセプトに合わせて発信していくのが一番よいと感じます。

吉林
たくさんあって迷っちゃうような楽しいお店ってありますよね。そんな雰囲気が写真で伝わるのは素敵です。
どんな人に使ってもらいたいか?といったペルソナの想定は、私たちカラーミーショップでも機能開発をする中でよく取り組んでいます。「顧客が求めているのはメリットではなくベネフィットである」なんて名言もありますが、商品そのものの良さだけでなく、買ったあとの自分が想像できるショップは強いですね。洋服だったらマネキンだけでなく着画があるだけでも全然違いますよ。

坂井さん
でもマーケティングに寄りすぎると、だんだん商業的に作られた世界観になってしまうのが難しいですよね。自分の軸がブレないように繰り返し見つめ続けないと。それは私たちメディアも同じで、どういうメディアでありたいかを常に見つめ直していく必要があると思います。

吉林
ふむふむ。大坪さんはいかがですか。

大坪さん
坂井さんも今おっしゃったように、写真については「こんな雰囲気の中で食べられる」といった世界観やストーリーが重要です。アフタヌーンティーがわかりやすい例ですが、食べるシーンを強く想起させたいなら周囲のスタイリングにこだわって引きの写真を撮る。逆にたくさんナッツを使っていたりクリームにこだわりがあるといった場合には、ケーキの断面に寄った写真のほうがいいですよね。
ただ、なんでもかんでもシズル感を出せばいいのではなく、何を訴求したいかによってフォーカスのしかたが変わるという点がポイントです。それは坂井さんがおっしゃった「何をどういう人に向けて売りたいのか」をしっかり突き詰めた上での答えになると思います。

文章は、ブランドイメージを伝えるためにポエティックな言葉を使うとか、ほかにも作り手の表情は一切出さないやり方もあります。いずれにしても誠実さが伝わる言葉選びはマストですよね。私たちは専門誌なので、主観的に「これがおいしい」とはあえて言わないようにしていますが、作り手の方が語るおいしさには心を動かされます。

吉林
とあるショップオーナーさまは、ご自身の友人・知人に商品を食べてもらって、その感想をテキストで集めるんだそうです。第三者のキーワードをもとに商品紹介をするっていう方法をとっていて、それだと主観的になりすぎなくていいなと思いました。

大坪さん
もちろん主観も素敵なんですけどね。そこにパッションを感じて惹きつけられることもあるので。

吉林
それでいうと、各商品のページに“店長の一言メモ”を加えているショップさんは訴求が上手だなと思いました。「この商品はここがおすすめ(^_-)-☆」みたいな感じで、他の商品説明文と違ってそこだけ顔文字を入れていたりと口調がフランクなんですよ。おちゃめでかわいいなって。

大坪さん
それいいですね。同じショップの中でも口調が違えば、どういうニュアンスで聞いてほしいポイントなのかわかりやすいですからね。

スイーツメディアの編集長はどのように情報収集をしている?

吉林
たくさんのショップ・商品の情報の中から取捨選択をするのはとても大変だと思います。坂井さん、人気のショップや商品、消費者の傾向などの情報収集は普段どのようにされていますか。

坂井さん
いろいろな方法がありますが、SNSが一番わかりやすいですね。たとえばInstagramで「#桃スイーツ」って検索すると人気順に出てくるので、桃をまるごと使ったスイーツが流行ってるとか、どんなお店がそれをアップしているか、といった傾向がなんとなく掴めます。でもそれは表面的な情報でしかないので、本当にスイーツが好きな方、お菓子屋さん巡りが趣味の方をフォローしてみると、新メニュー情報などの発見が意外と多いです。
他の業務が多いので、実は僕たち編集者も毎日お店を巡ったりはできないんですよね。取材ばかりになってしまうことも多い中、スイーツ好きな方が普段どんなお店を回っているのかといった情報は、流行を掴む上でかなり参考になります。

あとは直接お話を聞いてみるのもすごく大事だなと思っていて。スイーツ好きの方に流行りのお店を聞くと、思っていたのとは違った答えが聞けたりしますね。お菓子のジャンルも実はさまざまで、パティスリー系に詳しい方、カフェにしか行かない方、ホテルスイーツやチョコに詳しい方とか、それぞれの分野で違った情報が引き出せるので、「編集長だからなんでも知ってる」とは思わず、各ジャンルに詳しい人から話を聞くのを大切にしています。

吉林
スイーツに詳しい方とは、どんなふうにつながることが多いですか。

坂井さん
スイーツ好きのライターさんの繋がりで紹介してもらったり、あとは僕自身もそういう人たちと一緒にスイーツ食べに行ったりするんですよ(笑)。シェフの皆さんだけからお話を聞くんじゃなくて、消費者側のリアルな体験や行動パターンを学びたくて丸一日行動を共にしたりもします。どんなふうにモノを買うのかも勉強になりますからね。

吉林
なるほど! ありがとうございます。

メディアが思わず注目したくなるPR方法とは

大坪さん
女性ファッション誌やグルメ雑誌などの一般的なメディアでは「売れてる」とか「SNSフォロワーが多い」「行列ができている」などが一つのわかりやすい物差しですよね。
その他にもSDGsや女性の活躍など、メディアの意図する特集テーマに沿うアウトプットがあれば取材対象になりうると思います。華やかな見た目だったり、特別な素材や希少性のあるものはキャッチーですから、メディアもピックアップしやすい印象です。

ちなみに、弊誌ではお店の経営がうまくいっていることも重視しています。華やかさというよりは実直さですね。店内の活気の有無、クレンリネスの徹底、接客態度、オペレーションの円滑さ、立地・商品構成・価格帯のバランスなどからお店全体の雰囲気を感じ取ります。優れたお店は、たとえ派手でなくても取材候補に上がります。

吉林
なるほど。

大坪さん
“いいお店”って一体何?と思いますよね。私が思うに「あれも欲しい、これも欲しい」と迷いながら、最後は山盛りのトレーをレジに持っていけるお店は、絶対いいお店なんですよ。陳列のしかたや店内動線にまで戦略と狙いがあってこそだと思うので、一般の人に伝えやすい目安はそこかなって。

吉林
動線までしっかりと考え込まれた結果、私もついつい乗せられてたんだ……(笑)。坂井さんは注目してしまうポイントはありますか。

坂井さん
うちはWebメディアとして複数のニュースアプリに配信していることもあって、いろんな人が見ることを想定した言葉選びをしなくてはなりません。個人的にはあまり好みではないですが、「即完売」とか「幻の」といった言葉をつけるとアクセス数がかなり伸びるので、そういった切り口で取材できそうな希少性のある商品には注目してしまいますね。
あとは大坪さんもおっしゃったように、SDGsや女性の活躍などといった社会課題に対して世間の感度が高まっているので、そういったお話を絡められると取り上げやすいですね。

単なる商品紹介だけでなく作り手の思いもできるだけ発信したいので、取材時はかならずシェフの顔写真を撮らせていただくのですが、たまに顔出しNGだったり、あまり多くは語りたくないという方もいらっしゃいます。それってすごくもったいないので、お客さまとの接点や親しみやすさは演出したほうがいいと思いますし、そういった意味でシェフが積極的な方だとメディアとしても取材がしやすいです。

吉林
人の顔が映ってるだけでも、受ける印象が全然違いますよね。

坂井さん
そうですね。これからの時代はシェフのキャラクターや、会いに行きたくなるような要素が大事だと思います。地域に密着してるお店って、やっぱりシェフが地元の人に愛されていることが多いんです。ちょっとした世間話をしたり、お子さま連れの方には「大きくなったね」と声をかけたり。そういった親しみやすさをネットでも出していくといいですね。

それから、うちで出しているSDGs関連のインタビュー記事、最初はあまり読まれないだろうなと思っていたんですけど、今では普通の記事より多くの方に読まれています。スイーツに興味がなくてもそういった取り組みには関心をもっている方が多いことを発見したので、ショップオーナーさま側でもそういった発信をしていくことが重要になってくるんじゃないかなと思いました。

吉林
皆さんが大事にしている価値観のアウトプットが、結果としてメディア取材にもつながっていくのかもしれませんね。

今日から使えるPR術

吉林
最後に、本セミナーを受講した方がさっそく実践できるようなPR方法についてお伺いしたいです。まずは大坪さんからお願いします。

大坪さん
これは難しいテーマです(笑)。先ほどのお話にもあったように、SNSをまだお持ちでない方は今日からでもぜひ始めてほしいなと思います。すでに始めている方もこれから始める方も、SNSで何を発信するのが効果的かというと「ご自身が感動した気持ち」なんですよね。その人の実体験や、そこで感じたパッションが伝わるコンテンツはとても強いです。ご自身のお菓子作りの原点となっているものや、過去に食べておいしいと感じたものは一人一人違うし、絶対に譲れない軸でしょうから、それを紹介すると伝わりやすいんじゃないかなと。

実はうちの雑誌でも、パティシエがどんな人生を歩んできたか紹介する連載をやっています。裏テーマは「どのお菓子が自分をパティシエにしたのか」。どんな有名パティシエでも名もなき始まりの時期は必ず全員にあって、その人に芽生えた感動や、師匠に言われて衝撃を受けたこととか、皆さんそういったものをしっかりと自分の糧にされているなと感じるんですよね。だからこそ自分の感性やキャッチ力を高めることがPR力の強化にもつながると思います。

吉林
どの業界でもアンテナを張ることは大事ですよね。
ちなみに、とあるショップオーナーさまがご自身の背景を紹介するコンテンツを作ってネットショップに載せたところ、そのページのアクセスが激増したそうなんです。作り手側の想像以上に、お客さまは作り手の背景が気になっていることがよくわかる例ですよね。しかも、その背景に共感して買ってくれたお客さまはファンになりやすい。いきなりページを作るのが難しければ、まずはInstagramのストーリーで発信したものをまとめるだけでもいいと思います。

大坪さん
自分のことをさらけ出すのに抵抗がある方がいらっしゃるのも当然わかります。経歴を全部さらけ出しましょうというわけではなく、自分が何を大事にしていてどんなものに感動するかが伝わるだけでもいいと思うんです。そこから始めてみるのがいいかもしれません。

吉林
それならハードルが低そうですね。自分のことを少し紹介するだけで変わるなら絶対やったほうがいいです。坂井さんはいかがでしょうか。

坂井さん
食材について発信していくことはすごく大事だと思います。「桃が届くかどうか心配だった。今年は天候が悪くてなかなか収穫できない中、これだけの桃を送ってくれました」という投稿を見れば、そんな大事な桃ならぜひ食べてみたいし、大切に食べたくもなりますよね。そういった情報を発信していただくとすごくいいかなって。

あとは具体的なお話になりますが、TwitterとInstagramのブランディングを分けていくのもいいですね。Instagramはスイーツ好きでおとなしめの方が多い一方、Twitterはとにかくありとあらゆる方の目に触れる特性があります。最近Twitterで人気があるのは近江屋洋菓子店さん。厨房でタルトを切る様子を動画に収め、みずみずしいフルーツも職人技でキレイに切れるという発信がおもしろかったです。Twitterでは職人技や雑学的な投稿がライトな層を引き込みやすいんですよね。チョコレートのテンパリング、ケーキ作りのナッペとか、そういう小ネタをぜひ発信してみてはどうでしょうか。パティシエの皆さんが持っている技術は本当にすごいので、見ているだけでもワクワクします。

大坪さん
近江屋洋菓子店さん、昔からブログも丁寧にアップされてますよね。文体にも独特の実直さがあって、伝えたいことがはっきりしている印象です。

吉林
自社製造のオリジナル商品を販売しているショップさんは、“作る工程”を発信できるのが大きな強みではないでしょうか。商品自体に興味がなくても、動画だと「こんなふうに作られてるんだ」とついつい見ちゃうんですよね。フルーツの皮をつるんと剥く様子がおもしろくてフォローされて、実際の来店やネットショップでの購入につながることもあります。製造工程にも需要があるので、自分で何か作られている方はぜひSNSで投稿してみてください。

質疑応答

Q1. お店のコンセプトや気遣い、世界観の伝え方が魅力的なショップがあれば教えてください。

吉林
私の印象に残っているのは、Twitterで知ったバターケーキのお店です。写真がすごくおいしそうで、しかも商品説明文が尖ってるんですよね。直球な長文に商品愛を感じて、つい買いたいなと思っちゃいました。

大坪さん
ネットショップの商品紹介文の長さって、セオリーはあるんですか。

吉林
カラーミーショップの中で売れているショップさんから算出した結果、平均は400文字くらいでした。これはあくまで平均で、商品への愛が深いと400文字にはとても収まらないですよね。逆に400文字を下回らないように書いていただくと、いい目安になるかなと思います。

大坪さん
おもしろい400字であるかどうかもありますよね(笑)。

吉林
そうですね。文章だけでなく合間に写真を入れてみたり、雑誌みたいな作り込み方をするとお客さまも読みやすいのでおすすめです。

Q2. ショップや商品の魅力を伝えるための改善、どこから手をつければいいか悩んでいます。

吉林
私なら、まずはページへのアクセス数や滞在時間を見てみますね。
アクセス数が少ない場合はどれだけ商品ページを厚くしていても意味がないので、SNSや広告での露出を増やします。逆にアクセスが多くても離脱されやすく、滞在時間が短い場合は、商品ページの魅力が足りないということ。そうしたらまず商品写真だけを変えてみて、どれくらい離脱が減るか試します。その次は商品紹介文といったように、繰り返しABテストをしていくことがネットショップではよく行われています。

坂井さん
個人的には自己分析が大事かなと思っていて。なぜお店を開いたのか、なぜこの商品なのか、自分に対して果てしない“なぜ”を問いかけていくのがいいと思います。そうすると「ここのコンセプトが甘い」とか、弱い部分が自ずと見えてくるので。何をしたらいいか迷っているときは自分の分析を一度してみてはいかがでしょうか。

吉林
「何をしたらいいかわからない」は、「自分が何をしたいかわからない」でもあり「何が問題かわからない」でもあると思います。自分の方針が定まっていないからアンサーが見つかっていない状態。なので自分がやりたいことのゴールを決めて、そこに向けてネットショップを作り込んでいくことが必要かなと思います。

Q3. 坂井さんのInstagramの写真がとても魅力的です。撮影にはどんな機材を使っていますか。

坂井さん
カメラはSonyの『α7 III』で、レンズはSIGMAを使っています。うちのメディアはカメラマンさんに依頼することもありますが、7割くらいは自社で撮影しているので、気になることがある方はぜひDMでご質問ください!

吉林
ありがとうございます!