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商品の独自性で勝負!グラフィックデザイナーが職人と戦いながらつくる新しい”野菜菓子”の誕生秘話

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
麻布十番に路面店を構える『麻布野菜菓子』のネットショップ。オーナーの花崎 年秀さんは、グラフィックデザイナーとして20年以上キャリアを積まれていました。なぜ、デザイナーがお菓子作りを始めることになったのか? 商品の開発秘話はもちろん、麻布十番に出店するまでの試行錯誤などについてもたっぷりお伺いしました。

野菜はもっとおもしろくできる。可能性を見つけたきっかけは“野菜寿司”

まずは、お店の紹介をお願いします。

「野菜で作ったちょっとだけ贅沢なお菓子」というキャッチフレーズで、野菜菓子を販売しています。

花崎さんはもともとグラフィックデザイナーだそうですが、どういったきっかけで野菜菓子を作ろうと思われたんですか。

デザイナーとして野菜の懐石料理屋さんの立ち上げをお手伝いしたときに、「野菜寿司」という魚の代わりに野菜がのったお寿司に出会ったことがきっかけです。

野菜寿司は見た目もきれいだし斬新で、食べてもおいしくて。「野菜ってすごくおもしろい。野菜を使ったらいろんなことができるんじゃないか?」と考えるようになりました。

花崎 年秀さん

既存の野菜スイーツよりも、野菜寿司のように野菜の形や食感を残して、形も見た目も味も完成されたお菓子を作ったらおもしろいんじゃないかと。
そこで、野菜の懐石料理屋のオーナーさんに「次は野菜菓子をやりましょうよ」と提案したんです。

オーナーもすごく乗り気でしたが、いろいろあって最終的にはお蔵入りになってしまいました。
その後、三年ほどアイデアは寝かせていたのですが、他の誰かが始めてしまったら悔しいなと思い自分で始めることにしたんです。

すごい行動力ですね!

自分で簡単にできると思ったんですよね(笑)。日持ちするようなお菓子なら、今はオンラインがあるからいけるだろうという甘い考えでスタートしたんですよ。

あとは、デザインの仕事って何歳までできるんだろうという不安もあったので、年を取ってもずっとできるようなお店をやりたかったんです。

セオリーは無視。未経験で始めた商品開発は、職人との戦い!

商品はご自分で作られているんですか。

基本的には全部自分で試作して、これだと思ったものを職人さんに作ってもらいます。焼き菓子は難しいですが、ゼリー、水羊羹、ジャム、あんこなどは、試作したレシピをそのまま職人さんに渡します。

ただ、試作したレシピのままだと量産が難しかったりするので、商品化までに幾度となく、職人さんとのせめぎ合いがあります。

職人さんが今までやったことがないようなものをイメージだけで伝えても、なかなか相手にしてくれません。ましてやこっちはグラフィックデザイナーで、製菓の実績もないですから、これは戦いなんです。

これまで、どのような商品でせめぎ合いがあったのですか?

最初に販売したどら焼きのオリジナル餡は、かなりせめぎ合いましたね。

紫いもやかぼちゃを使用した餡は既製品でもあるんですが、どれもあんまりおいしくないんです。ほとんどのものは白餡がベースで、野菜の風味と色をちょっとつけただけの残念な感じで。

単純に素材をもっと入れたいと職人さんにお願いすると、「それはできない。最低でも半分以上白餡を入れないとだめ」と言われました。和菓子のプロの間では常識のようで、ベースの白餡の割合が少なくなればなるほど、焦げ付きのリスクが大きくなると言われたんです。

でも、「試しに1回だけやってみてください」とお願いしたら、「あれ! なんかできましたね」って言われて(笑)。

すごい! できちゃったんですね。

あんこのセオリーは無視で、コスト的にも高くなっちゃうんですけど、できちゃったんです。だいたいがそんな感じで、無理を聞いてもらっています。「それはないですよ!」ってよく言われてしまいます。

でも、どら焼きは販売当初からすごく人気で、新しいお客さまには「おいしいどら焼き屋さんができたって聞いて来たんですけど」なんて言われるんですよ。

看板商品になったんですね。こちらの最中は見た目もすごくきれいですよね。

最中の皮に本物の野菜がのっているのは、うちにしかないオリジナルです。

生の素材を最中の皮にのせて焼くのはすごく難しいんです。データをとりながら何回も試作を重ねて、やっと量産にこぎつけました。
これも、職人さんから「やったことがないからできない」と言われて、作るのに苦労しました。このような前例のない難しい注文はメーカーとしては職人さんが嫌がるし、うまくいく保証もないのでかなり大変だそうです。でも、最終的に製品として仕上がると「こんなこともできるんだ」と職人さんの意識が変わって、奮闘してくれた営業さんからは感謝されたりして。新しいことへの挑戦って、メーカー内からはなかなかできないようで、外部のクライアントからお願いされて初めて実現するそうです。
そのぶん、職人さんとの信頼関係は大切になりますし、初めてやることにトラブルはつきものですね。

開店PRは大成功!自宅ガレージから麻布十番へのステップアップ

実店舗とネットショップを始められたのは2012年ぐらいですよね?

そうです。実店舗は自宅のガレージで始めました。

自宅のガレージにどうやってお客さまを集めたんですか?

職業柄、メディア関係には知り合いがいるので、まず出版関係を中心にプレスリリースを出しました。それで、ウェブ媒体の六本木経済新聞がいち早く情報を掲載してくれました。それを見た他の媒体からさらに依頼がきて、またそれを情報源にしているところから、と芋づる式にという感じです。
お菓子好きの人たちのあいだで話題になって、初日はかなりの数のお客さまがいらっしゃいました。

すごいですね!

1〜2ヵ月はある程度来てくれたんですけど、駅から遠くてアクセスも悪いので頻繁には来れるところじゃなくて。たまに雑誌に載ると、また来るの繰り返しで、とにかく場所が問題でした。
そこで、思い切って麻布十番に移転しました。麻布十番で手ごろな物件を見つけるのはすごく大変なんですが、たまたま歩いていたら出たばかりの空き店舗の張り紙を見つけて、その日のうちに申し込みました。こういうのって縁なんですよね。

ちなみに、ネットショップはどういった経緯で作られたんですか。

住宅街の隠れ家のような場所で始めたので、ネットショップはやらなきゃと思って知り合いに聞いたところ、みんながよく使っているのがカラーミーショップだと言われたんです。他を探すこともなく契約しました(笑)。実際使ってみたら、すごく使いやすかったです。

想像以上に利益がない。それでも、野菜菓子販売を始めてよかった

デザイナーからの転身で、戸惑うことも多かったのではないでしょうか。

お菓子を1つずつ売るのは原価がかかるので、たくさん売っていかないと利益になりません。物販自体もしたことがない素人だから、想像以上に手間もかかります。
デザインの仕事でのギャランティの感覚と比べると、手間がかかるわりに利益は簡単に上がらないということがわかりました。始めちゃったので後戻りはできないんですけど、最初はちょっとやばいかなぁと思いました。
でもね、BtoBのデザインの仕事ってクライアントを喜ばせることはできても、その先がわからないんです。
ですから、一般消費者に直で売って喜んでもらうという経験はとても新鮮でした。

お客さまから「贈った先ですごく喜んでもらえた」とか「貰っておいしかったから買いにきた」と言ってもらえると、あぁ、いいなぁって思いますね。

もちろん、売上が上がらないと困りますけど、売上が上がるだけでは張り合いがないです。お客さまの反応があってこそ、数字的にすごく苦しいときも、がんばっていこうと思えますよね。今では、この仕事を始めてよかったなと思っています。

今後の展望を聞かせてください。

ネットショップはもっと拡充して、売上の割合を大きくできるようにブラッシュアップしたいですね。お客さまのニーズがだんだん見えてきたので、それに対応していくことが課題です。

ネットショップをこれから始める方に、一言いただけますか?

みなさんがいろいろ出されているなかで注目してもらうには、商品自体のクオリティーが高いことはもちろんですが、同じようなものが他にないということと、商品の世界観がしっかり作られていること、いわゆるブランディングがすごく重要だと思います。

自分のこだわりや趣味を突き詰めていけば、自然と世界観は出るし、同じような嗜好の人の目に自然と留まると思います。今はみんなすごく調べてくれるから、きっと見つけてくれます(笑)。気に入ればネームバリューに関係なく、全国から注文してくれます。

こだわりをしっかりもって、世界観を出していくのが大切なんですね。
では最後に、あなたにとってネットショップとは?

もうひとつのお店ですね。実店舗はいくつも出せないので、全国に対応できるお店。それがあることで、買ってくれなくてもいいから知ってもらう、窓口になる存在です。