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返品マーケティングってなに?顧客満足度を上げる方法をRecustomer辻野さんに聞いてみた。

返品マーケティングは、返品を活用して売上を向上させる新しいマーケティング手法で、LTV向上や向上に役立つことから注目されています。

今回は、返品マーケティングと購入体験プラットフォーム「Recustomer」について、Recustomer株式会社の辻野さんに詳しくお話を伺いました。

Recustomer株式会社 取締役COO 辻野翔大さん
Recustomer株式会社 取締役COO 辻野翔大さん
Apple Japanにてテクニカルサポート業務を経験後、株式会社リクルートマーケティングパートナーズへ入社し、営業に従事。2017年、在籍中に代表・柴田とともにANVIE株式会社を創業。ANVIE株式会社では受託開発のセールス・ディレクション・Shopify事業におけるマーケティングを担当。2021年よりEC事業者向け購入体験プラットフォーム「Recustomer」を開発し、同年8月に社名をRecustomer(リカスタマー)株式会社へ変更。現在は戦略構築とプロダクトをメインに担当している。

自己紹介をおねがいします

辻野さんの自己紹介をおねがいします。

Recustomer株式会社COOの辻野と申します。Apple Japanでカスタマーサポート(テクニカルサービス)業務を経験後、リクルートが発行する結婚情報誌『ゼクシィ』の営業に従事し、在職中の2017年に代表の柴田と一緒に会社を立ち上げました。

リクルートでは副業が認められているので、退職までの約1年間は副業の形でECの構築やマーケティング業務を請け負っていました。退職後も同業務を継続していましたが、コロナ渦になって事業に危うさを感じるようになり、コロナ渦でも伸びる市場はどこかとリサーチした結果、「返品」を軸とした事業に辿り着きました。

2年前に購入体験プラットフォーム「Recustomer(リカスタマー)」を開発したのを機に社名をRecustomer株式会社に変更し、今はCOOの立場で、「Recustomer」事業のマーケティングやセールス、CSなどを管掌しています。

ありがとうございます。Recustomerについても教えていただけますか?

当社は購入体験を高めるための「SaaS」の仕組みをEC事業者さんに提供しています。もっとも注目されているのは返品・交換・キャンセル業務を自動化する「Recustomer返品・キャンセル」サービスですが、ほかにも商品の配送状況を提示できる「Recustomer配送追跡」や、お試し購入を可能にする「Recustomer自宅で試着」などのサービスもあり、「Recustomer」を導入することで購入後の体験を向上することができます。

Amazon利用者さんはイメージしやすいと思いますが、Amazonでは条件を満たしていれば注文履歴からキャンセルや返品手続きができ、商品の配送状況も確認できますよね。「Recustomer返品・キャンセル」「Recustomer配送追跡」を活用すれば、Amazonと同じようなサービスをお客様に提供できるようになります。

また、「Recustomer自宅で試着」は、試着したい商品を0円で決済し、試着後購入するものは本決済、購入しないものは返送できるというサービスで、Amazonの「Prime Try Before You Buy(プライム・トライ・ビフォー・ユー・バイ)」と似たような仕組みを導入していただけます。

これまで「0円で決済して注文を立てるのは難しい」といわれてきましたが、「Recustomer」でもAmazonのような0円決済の仕組みを構築したことで、試着サービスを提供できるようになりました。

「返品」に着目したのはなぜですか?現事業を開始するまでの経緯を教えてください

アメリカのECにおける返品率は約25%、アパレルに限ると約40%以上もあるのに対して、日本のECにおける返品率のボリュームゾーンは5~10%程度と低くなっています。

海外と日本のECの実態を比べると返品の差分だけが大きいことに気がついて、「返品できないからEC化率が上がらないのではないか」という仮説が浮かんだので、返品について調べることにしたのが始まりです。

リサーチを進めると、日本ではクーリングオフが適用されないので返品を受ける義務はないのですが、EC事業者さんは「受けたくても受けられない状態」にあることがわかりました。なぜ返品を受けられないかというと、金銭的な負担が大きいこともさることながら、多大な工数がかかるのがネックだからだったんですね。

では、そこを解決すればEC事業者さんは返品を受けられてユーザーも買いやすくなるのではないか、業務の効率化が叶い、かつ特別な購入体験をユーザーに与えられるシステムをつくれば、将来的に日本のEC化率が上がるはずだとひらめいて、「Recustomer」を開発して事業をスタートさせた、というのがかんたんな経緯となります。

返品マーケティングとは?

返品マーケティングとはどういったものなのか、教えていただけますか?

「返品マーケティング」とは、「返品無料」や「試着キャンペーン」などの返品ポリシーを活用することで購入のハードルを下げ、ECサイトでの購入率やLTVを向上させるマーケティング手法です。私たちが生み出した造語なので、一般的なマーケティング用語ではありません。

ECではKPIを設定していると思いますが、当社は「返品送料無料」を施策のひとつとして活用することを提案しています。

返品マーケティングの例をいくつか挙げると、「LTVを上げるために会員ランクが一定以上の人を返品送料無料にする」とか、「初回購入を増やすために初回購入者限定で返品送料無料にする」とか、「購入単価を上げるために何点以上購入した人を返品送料無料にする」などの方法があり、返品送料無料を武器にして売上向上を狙うことができます。

D2Cでは実店舗を持たない業態も多いですが、商品を触ったことがない、見たこともない状態だと購入しづらいですよね。とくにアパレル商材では、サイズやカラー、肌触り、素材が分からないと手を出しにくいので、返品やキャンセル、試着可能なことを打ち出して、まずは手に取ってもらうことを考えたほうがいいと思います。

もし気に入らなければ返品してもらって、その理由をデータとして蓄積すれば商品開発チームにもフィードバックできますし、試着してその商品を本当にいいと評価した人は2回目以降も購入してくれるはずです。EC事業者さんには、購入後のユーザー行動も考えたうえで、ぜひ返品を売上拡大の戦略に取り入れてもらえればと思います。

一般的な返品・交換業務の流れと、「Recustomer」を導入することで得られるメリットについて教えてください

一般的な返品の流れは、電話などでお問い合わせいただいてから、返品対象かどうかを確認して、「返品できます」または「できません」と回答し、返品可能な場合は返送先や返送方法を伝えます。

商品が返送されたらいろいろな手続きを踏んで検品に進み、棚に戻せる状態かどうかを確認して、返品条件が揃っている場合は返金もしくは交換品を発送します。返品にはこれだけのフローが発生するので、対応に1~2週間はかかります。

具体的な数字に落として説明すると、300件の返品があれば1人のCS担当者が丸々1カ月間その対応だけに追われるほどの負担になります。物流にも影響し、倉庫に返送された商品の返品処理をして検品して棚に戻す作業も含めると1.5~2人/月くらいは必要です。

さらに、返金や棄損した商品の処理などバックオフィスの会計処理も絡んでくるので、一人あたり40万円とすると実質80~100万円のコストがかかると考えられます。

返品対応にはCS、物流、バックオフィスの連携が不可欠ですが、多くのEC事業者さんは返品業務のためだけに人員を割けず、通常業務もこなしながらの対応となるため、手が回らないのが実情です。CSや物流、会計処理などの業務をアウトソースしている場合はさらにフローが複雑化します。

外注同士で直接連絡を取ることは個人情報保護の観点からもよろしくないため、ディレクションを行なう社内メンバーを置かなければならず、人的にも金銭的にも時間的にもコストがかかってしまいます。

返品・交換業務はそんなに工数が発生するんですね。では「Recustomer」を導入するとその課題解決につながるということでしょうか?

「Recustomer」を導入すると返品フローを自動化できるので、基本的には人を介す必要がなくなります。極端な話、CS担当者がいなくても管理画面を見れば物流倉庫とバックオフィスだけで返品手続きを進められます。

また、返品に関わる情報共有もスムーズになり、通常はChatworkやSlack、Excelのスプレッドシートを利用するケースが多いですが、これらを一切なくして「Recustomer」の管理画面だけで一元管理できるようになります。管理画面に表示される情報は承認されたデータだけなので、関係各所それぞれで見られる情報に制限をかけることも可能です。

「Recustomer」の導入効果としては、「300%成長したけれどCSを1人も増やさずに対応できています」や「コールセンターの席を1席分=40~50万円相当を削れました」、「1席開いた分、別の対応に人員を回せました」といった声が寄せられています。

業務効率化以外にもメリットがあります。ブランド立ち上げ時は自社サイトだけで販売していても、規模が大きくなるとモールに出店するのが一般的ですよね。AmazonやZOZOでは返品・返金が規約で定められていることもあって、ユーザーはボタンひとつで返品手続きができます。

一方で、自社サイトでは返品不可なら、自社サイトだけがサービスレベルが低い状態になってしまいます。本来は利益率の高い自社サイトで買ってくれるお客さんを大切にすべきなのに、もったいないですよね。

ユーザーのなかには、「返品不可ならAmazonやZOZOで買おう」と判断する人も少なからずいると考えられるので、そういった機会損失を防ぐ意味でも、「Recustomer」を導入する価値は十分にあると思います。

返品マーケティングに合う商材・合わない商材はある?

ECで販売されている商材は非常に幅広いですが、返品マーケティングを取り入れると考えた場合、合う商材、合わない商材を教えてください

食品はハードルが高いですが、基本的には返品率が低くてLTVが高い収益構造なら、返品を受けたほうがいいと思います。

返品マーケティングに合うのは、アパレル商材のように再販しやすいものです。アパレル業界では基本的に、ユーザーが利用していない商品や、タグが切られていなくて匂いも汚れもない、一度も外で着用した形跡がない商品に関しては再販しています。

もちろん、必要であればプレスをかけ、キレイに再梱包するための手間はかかりますが、原価も含めて商品自体がなくなるわけではないので、試着の感覚で気軽に買ってもらって何らかの理由で返品されたとしても痛手を負いにくいんですね。

アパレルのなかでも靴はとくに再販しやすい商材で、ナイキやZARA、SHEIN(シーイン)、allbirds(オールバーズ)など、海外勢が返品送料無料を打ち出しているので、それに合わせる形で、日本のフットウェア事業者さんから「返品無料にしたい」とお問い合わせいただくことがよくあります。

アパレル以外では、物量にもよりますが、小型家具などは返品マーケティングが可能な場合もあります。大型家具では、配送段階でどうしても不良品が出てしまうため、返品マーケティングというより業務効率化を図るほうでニーズがあります。

ただ、大型家具のなかでもマットレスは別で、コアラマットレスやNELL(ネル)、昭和西川などで何日間返品無料という施策が実施されていることを見ると、返品マーケティングが可能な商材といえます。

また、定期販売のコンプレックス商材も返品マーケティングに向いていて、売り手には、とにかく一度使ってみてほしいという思いがあるので、返品送料無料を実施することが多いですね。

一方で、食品は一度開封すると再販できないため、返品マーケティングを行なうのは不可能に近いです。定期購入が条件の健康食品などでは初回返品無料サービスを実施している場合もありますが、単発購入では、キャンセルは受けられても返品マーケティングは難しいと思います。

返品を受け付ける、受け付けないでLTVに差があるとお聞きしましたがどのような差があるのでしょうか?

あくまで仮説ですが、一度返品できた体験のあるユーザーは、次に買って万一失敗しても大丈夫だという安心感を持てるため、LTVが上がるのではないかと考えられます。

「Recustomer」を導入していれば、返品のための煩わしい手続きはほとんど不要で、ユーザーとショップ間での直接のやり取りも発生せず、サイトのボタンひとつで返品が承認されて、集荷にきた物流業者に商品を渡すだけで返品が完了します。返品フローがシンプルで難しくないので、よい印象を与えられます。

心理面でも効果があり、ブランドロイヤルティを高めるのに役立ちます。海外では返品を受けることが法律で定められているので気兼ねなく返品できますが、日本では法的な縛りはありません。

EC事業者さんはサービスとして返品を受けているので、ユーザーには若干の申し訳なさがあり、「次回またここで買おう」という心理が働きやすいんですね。それがブランドロイヤルティ向上につながっているのだと考えられます。3カ月以内のリピート率を見ると、返品した人が40%以上だったという実例もあります。

日本のユーザーは返品したくて買っているわけではなく、本当に買いたくて買ったのに今回は失敗した、でもまた買おうという気持ちの人が多いので離反しないんですよね。せっかく好きなブランドなのに返品できず残念な思いをしたとなれば離反につながりますが、返品を受ければ残念な思いをさせることはないので、結果的にLTVが上がっていくのではないかと思われます。

一例を紹介すると、実店舗を持つECでは両方で購入してもらう、いわゆるクロスユースを増やすという施策を打つことがありますが、片方しか使っていない人よりも両方を使っている人のほうが、LTVが3~5倍高いというデータがあるんですね。

なので、実店舗しか使ったことのないお客さんに「今なら返品無料です」とメルマガを打って、クロスユースにつなげてLTVを上げることも可能だと思います。

ほかにも、先述のとおり、KPIに合わせて多様な施策を考えられると思うので、いろいろと試してみて、自社に合うやり方を見つけてください。

返品マーケティングを具体的に実施していきたい人(EC事業者)はどんな準備が必要ですか?

特別な準備は要りません。強いて言うなら、返品マーケティングをやると決めたら覚悟を持つとか、経営層に「返品マーケティングでこういう成果が上がるという仮説があるので、一時的には返品率が上がりますがやってみたいです」と伝えてコンセンサスを取ることが必要なくらいで、すぐにでもスタートできます。

費用を捻出できないという場合は、たとえば一旦送料無料をやめて、返品マーケティングを試してみるという手もあります。利益率や初回ユーザーのコンバージョン率を比較したうえで、どちらを継続させるかを判断してもいいかもしれません。

ECにおける理想の顧客体験とは?

最後に辻野さんが考えるECにおける理想の顧客体験とはどういうものだと考えますか?

かつては購入前の購入体験だけを意識して、どこでブランド接点を持つか、どこでコンバージョンするかを考え、コンバージョンに必要な情報をサイト内に盛り込んで、購入されたらそこで終わりという施策が多かったように思います。

それが、ロイヤルティプログラムやポイントカードのような施策が普及していることからもわかるように、ここ10~20年でLTVやロイヤルティが重視されるようになり、購入後も含めた策を講じないとユーザーの購入体験を高めることはできなくなっています。

ECが成長するうえでは購入されたら終わりではなく、お客さんの手元に商品が届き使うところまでを想像してサービスを提供することが大切です。購入前だけでなく購入後の顧客体験を設計するうえでも返品マーケティングは有効な手段なので、ぜひ「Recustomer」を活用して成果につなげていただければと思います。