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自分たちが心から楽しみ続けることが、圧倒的な結果に繋がる「クアトロガッツ」の話

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
大阪府茨木市で「小さいふ。」など革製品を製造販売している「クアトロガッツ」さん。製造から販売まで、すべてを自分たちの手で行うことにこだわる理由にせまるべく、代表の中辻大也さん、弟でネットショップ店長の中辻晃生さん、デザイナーの楠戸達也さんの3人にお話を伺います。

秘密基地(工房)にやってきました。

クアトロガッツの商品は、全てこの建物でつくられているんですか。

はい。1階から3階まで全て工房です。じつは昨年まで3階に住んでいたんですけど、僕の子どもが2人になったので引越しすることにしたんですよ。

代表の中辻大也さん。

では、さっそく中を案内しますね。

1階では、縫製や皮を磨く作業をしています。

すべてが手作業!

1日にいくつ財布をつくられるんですか?

1日で70個くらいです。

1点1点、ていねいにつくられているんですね。

2階は色合わせの作業場です。iPadを使いながら、バランスを見て組み合わせを決定しています。

で、3階がデザインや事務作業、ネットショップの発送作業をするスペースです。

案内ありがとうございます。ではさっそくお店について教えてください!

「つくる」も「売る」もやるのがプロ

まずは先日の「カラーミーショップ大賞」優秀賞の受賞、おめでとうございます。

中辻兄
ありがとうございます!

デザイナーの楠戸さんがステージで喜ばれている姿を見たとき、社長さんかと思いました。(笑)

ステージでトロフィーを掲げる楠戸さん。

楠戸
あんなに目立ってしまって、ほかの受賞者さんに怒られないかハラハラしました!(笑) でもみんなが努力した結果いただけた賞だから、少しでも目立ちたかったんです。

楠戸さんは、これまでずっとクアトロガッツさんで働かれてきたんですか?

楠戸
それが…数年前に、社長に拾われたんですよね、公園で。(笑)

ええ?!

中辻兄
イベント出店の帰り道で、車を誘導してるお兄さんのおしゃれなネームカードが目にはいったんです。話しかけたら「自分でつくったんです」って言うもんだから「うちでデザインやらない?」って声かけたんです。
楠戸
そうそう。そこから「カタログつくれる?」「ネットショップつくれる?」ってどんどん聞かれて。でも僕、素人なんですよ。必死に勉強してつくって、今に至ります(笑)

中辻さんは、そもそもなぜクアトロガッツをはじめることに?

中辻兄
2003年頃、奥さんが靴の専門学校に通っていて、靴を作るのに必要だから中古のミシンを一緒に買いにいったんですよ。そしたら、その店のおじちゃんが「もう閉店するから、余ってる皮いるか?」って言うんです。1枚か2枚もらえるのかなと思って「欲しいです!」って答えたら、軽トラいっぱいの山積みの皮をもらえることになって。思いがけず大量にもらったので、遊びの延長感覚で、アクセサリーをつくって道頓堀の路上で売りはじめたんです。

ビジネスとしてやっていこうと決めたのは?

中辻兄
1日3万円くらい売れることもあったので「好きなことで稼げるならもっと頑張ってみるか」と思ったのがきっかけです。2005年頃から、全国のフリーマーケットやデザインフェスタなどに出店するようになって、そのときにネットショップを開店しました。ただ写真を並べただけの簡素なページなんですけど、イベントで知り合った人たちへ案内する場所としては十分でした。

実店舗を出そうとは思わなかった?

中辻兄
性に合わないんですよね。(笑) 同じ場所にずっといないといけないじゃないですか。それよりもいろんな場所を旅がてら周るほうが好きなんです。

どこかの会社で働いて経験を積むことは?

中辻兄
それもなかったです。やりたいことを追求していくうちに、いつのまにかプロになっていました。

いつのまにかプロですか!

中辻兄
でもうちの会社では、みんなそうかもしれません。僕は、営業と催事と経理と総務を兼務、楠戸は広報とデザインとライティングと催事の搬入搬出担当…職人さんも売り場に立ちますし、みんながつくるところから売るところまで担当します。一流のデザイナーが絵を描くだけじゃなくて、パターンから販売もできるように、かたちにして売るところまでできてこそプロだと思うんです。

財布を持ち歩かない人がつくった財布

革製品のなかでもとくに「財布」に特化した理由は?

中辻兄
もともと僕は財布を持ち歩かない主義で、右ポケットにお札、左ポケットに小銭をいれて歩いてました。そうすると夏は汗でお札がビチャビチャになるし、車を運転すると小銭がポロポロ落ちる。2008年頃、それを見かねた奥さんがこの「小さいふ。」の原型をつくってくれたんです。

中辻兄
使ってみるとめちゃくちゃよかったので、試しに売ってみたらけっこう売れて。そこからカードが入るタイプやひとまわり小さいサイズもつくったりして。コラボ商品の開発もはじめました。

SOU・SOUさんともコラボされていましたよね。

楠戸
SOU・SOUさんとの出会いは京都の百貨店でのポップアップイベントで、百貨店の提案でコラボ財布をつくったんです。200個ちょっとつくって、2日半で完売しました。ほかにも、自分たちの好きなことである「旅、アート、音楽」と関連した人とコラボしようって決めて。

楠戸
缶ビールの『水曜日のネコ』のイラストを描いてるイラストレーター・デナリさんとのコラボレーションとか。

楠戸
手塚治先生に、楳図かずお先生も。あとは、お客さんデザインの財布もありますね。


お客さんもデザインできるんですか。

中辻兄
『キン肉マン』知ってます? あの漫画のすばらしいところは、読者の描いた超人が、実際に超人になって漫画に登場するところなんですよ。それと同じで、お客さんのデザインしたものが商品になったらおもしろいかなと思って企画したんです。

お客さんデザインの小さいふ。

オンライン⇄オフラインのいい循環

通販とイベントで並べる商品を分けていますか?

中辻弟
分けています。たとえば、1点ものの商品は、ネットでは「今日の小さいふ。」という企画で1日1点ずつ掲載していますが、イベント出店のときは500点以上をまとめて店頭に並べます。

ネットショップ担当の中辻晃生さん。

中辻弟
ネットショップに全てを掲載するのは手間ですし、こうすることで双方に付加価値が生まれます。たとえばネットショップでは「誕生日の財布を買いたい!」という人がでてきたり、逆に「たくさんある中から選びたい!」とイベントに来訪してもらうきっかけも生まれます。

毎日ちがう財布が並んでいる。

中辻兄
そうそう。商売の秘訣というか、僕たちはオンラインだけでもオフラインだけでもダメと考えています。うちは実店舗がないので、リアルで知ってもらう機会をつくるために月2回はイベント出店するんです。イベントに出れば、新しいお客さんの流入も増えるし、ネットショップで企画を立てて、イベントのことを案内したらイベント来てくれるし、いい循環をつくれます。

企画がもりだくさんのネットショップ。

ネットショップ上での工夫について、詳しく教えてください。

中辻弟
最初は商品を並べていただけでしたが、僕が『ほぼ日刊イトイ新聞』が好きで毎日読んでいたので、同じように毎日訪れたくなるようにしたらどうしたらいいか、ちょっとずつ工夫をするようになりました。たとえば、SNSが流行する前に、毎日僕らの近況を報告するコーナーをつくったり、買ってもらって終わりではなく「財布が小さくなる」という購入者の体験から『旅財布』って企画をつくったり。

『旅財布』ですか?

中辻弟
全国各地で撮影した「小さいふ。」の写真を地図にマッピングしていく企画です。ちょこちょこ更新していたんですけど、あるときお客さんから旅行先で撮った写真が50枚くらい送られてきたんです。インターネット上で、お会いしたこともない人でしたが、すごく楽しんでくれて喜んでくれているのが伝わって嬉しかったエピソードです。

中辻弟
そのほかにも、皮を育てる体験をプロモーションするために『エイジング写真コンテスト』って企画を立てたんですけど、これも盛り上がりました。お客さんを巻き込んで、もっとクアトロガッツのファンになってもらえるにはどうしたらいいか?日々、新しいことを企画しています。

お客さんから届いた写真

自分との戦いが圧倒的な結果に繋がる

成功談が多かったですが、今まで失敗はありましたか?

楠戸
いやいや!たくさん失敗してますよ!
中辻兄
むしろ、ほぼほぼ失敗です。(笑) 魚の皮をつかって人面魚のキーホルダーつくったけど、ぜんぜん売れなかったこともあったな。
中辻弟
ネットショップもトライ&エラーの数がめちゃくちゃ多いです。企画してみてダメだったら改善しての繰り返し。

楠戸
うちはこのスピード感が当たり前だけど、デザインや企画を制作会社さんにおねがいしているお店は、大変だろうなと思います。やりたい表現がなかなか叶わないなと。僕らの場合は、どんなに大変でも、文章も写真もイベントも、自分たちのつくったものを伝えるための大事な仕事とわかっているからこそ、全てやる。ワクワク感を自分たちの手で伝えたいんです。
中辻兄
最近のネットショップって、日々情報発信して動きをつくらなくちゃいけないでしょう。お客さんから受けとったものをどれだけ早く企画として返せるかが重要だと思っていて。どんどん新しい企画を投げ込んでいくとか製造の裏側を毎日届けるとか、そういうことを自分たちの裁量で発信できるのは僕らの強みだと思いますね。

ブランディングについて、どう思われますか?

中辻兄
うーん。よくセミナーでブランディングの話をしてください、って言われるんですけど、ブランディングのことを学んだこともないし、している意識もないです。そもそもメーカーっていう意識もないですしね。(笑) 最初から今まで変わらず、ただつくって、売ってる。

競合と比較することは?

中辻兄
それもあまりないですね。こんなにいろいろやってると、比べる人がいないんですよ。だから比べるのはあくまで昨日の自分であり、1カ月前の自分。商売の師匠もいないので、そこからどれだけ成長できたかどうか。それしか比べるものがないんです。昨日の自分との戦いが、圧倒的な結果になってきたと思います。
中辻弟
ネットショップなら、僕たちくらいの小さなお店でも、アクセスのめちゃくちゃいい銀座の一等地並みの成果をあげられる可能性がある。ただそのためには、誰でもできることを、誰にもできないくらいやり続けなくちゃいけない。続けたら最終的には誰にも追いつけない場所にいけると信じています。例えばブログを書き続けることは、飲食店でいうトイレをきれいにし続けることと同じで、それは商売のうえであたりまえのこと。当たり前のようにやり続けるしか近道はないと思ってます。これは僕たちにネットショップのことを教えていただいた師匠であり、WEBマーケティングの著書も執筆されている道端俊彦さんがいつも言われていたことで、今でもこの言葉を運営の指標にしています。

自分たちが心から楽しめることにトライする

中辻兄
昔は小さい財布ってだけで「これなに?!財布なの?」って反応だったんですけど、今は似たようなプロダクトをいろんなブランドさんが作っていて、珍しくないんですよね。だから今後は、僕らだけが主役じゃなくて「小さいふ。」をキャンバスにさまざまなアーティストさんたちの世界を広げていってもらいたい。コンバースのように、若いお兄ちゃんお姉ちゃんでも買えるような存在を目指したいです。

受注に対応できるよう、もっと生産体制を強化したいですか?

中辻兄
コラボがいきすぎて完全に下請けになっちゃうと、つくりたいものをつくれなくなっちゃうから、それはちょっと違うと思ってます。それよりも続けるためには、自分たちが心から楽しめることにトライする。やること・やらないことを決めて、ビジネスをハンドリングしていけば、みんながしあわせになれるんじゃないでしょうか。

心から楽しみ続けることが、みんなの幸せにつながる。今日はすてきなお話をありがとうございました。