資金5万円から年商17億へ。ハンドメイド材料店「隠れ工房 Green Ocean」が広げる自分らしい生き方の可能性
6畳の部屋からこっそり始まった「隠れ工房」
まずは、ショップを立ち上げた経緯を教えてください。
身もふたもない話なんですけど……私、離婚がしたかったんですよ(笑)。
当時のパートナーが家にお金を入れない人だったので、自分の貯金がどんどん減っていって、気付けば残り5万円。でも、外に働きに行くことも許してもらえなくて。
「離婚したいけどお金がない、どうしよう」っていうピンチから始まったお店なんです。

こちらはオーナーの赤星さん……ではなく、社猫の「まさる」さん
残り5万円からのスタートとは、なかなか切実な状況ですね……!
女性ってどうしても経済的に立場が弱くなりやすいじゃないですか。
お金がなければ引っ越し先の敷金・礼金も払えないし生活が成り立たないけど、資金もなかなか貯まらず、もう生きるか死ぬかって感じでしたね。
副業が禁じられていた中、ECサイト運営にたどり着いたのはなぜですか。
家でこっそりできることって何だろう?と考えたとき、「ネットで何かを売るしかない」と思ったんです。これなら誰にも気付かれずに隠れてやれるなって。
屋号の「隠れ工房」もそれが由来なんですよ。今ではもう全然隠れてないってみんなに言われますけど(笑)、当時は自宅の6畳の部屋で、本当にコソコソやっていたお店なので。
当時、ECについての知識はお持ちだったんですか。
いや、まったくなかったですね。友達に聞いてもわからないし、私自身、メールアドレスを作るのに3日かかったほどの機械音痴ですから(笑)。
当時住んでいた家の近くに24時間営業の書店があったので、家族が寝たあとこっそり通い、どうしたらいいんだろう?と少しずつ調べる毎日でした。
深夜の本屋さんで一人、独学で身につけたんですね。
その後、「簡単 ECサイト 開設」みたいなキーワードで検索しまくって、たどり着いたのがカラーミーショップでした。
決め手は、とにかく直感的に操作できたこと。
難しいことが本当に苦手な直感タイプの人間なので、テンプレートを選ぶだけでショップが作れて、見た目もかわいいカラーミーショップなら、私でもできそうだって思えたんですよね。

アクセサリー販売をやめて、材料の販売へ
最初からハンドメイド資材を売ろうと決めていたんですか。
いえ、何を売るかも決めていませんでした。もともとものづくりが好きだったので、最初は自分で作ったアクセサリーを売っていました。
でも、私ひとりで作れる数なんてたかが知れているし、お客さまの好みに売れ行きが左右されやすい。「これじゃ生活できないし、いつまでも離婚できない!」と気付いて。そこで資材を安く仕入れて売る方向にシフトしたんです。
当時、海外から少量で取り寄せられるサービスがあったのですが、街の手芸洋品店で1個180円くらいのパーツが、そこなら1個30円くらいで仕入れられることがわかりました。
それなら、自分自身がそうだったように、「安く材料を手に入れて作りたい」という作り手のための材料屋さんになろうと思い、5万円の予算で5種類のハンドメイド材料を買ってみたんです。
ご自身が作り手だったからこその視点だったんですね。
そうですね。ランチとか行っても、いろんな種類を少しずつ食べるのって楽しいじゃないですか。
なので、仕入れた材料をそのまま売るのではなく、何種類かセットにしてちょっとお得にしたり、おまけを付けたり、いろいろ工夫しながら販売していました。
ECサイトは開いただけではなかなか売れないものですが、お客さまの認知はどのように集めていったのでしょうか。
当時はインスタもなかったので、ブログでコツコツ宣伝してショップに誘導していました。それがうまくハマって、最初に仕入れた5万円分の商品がブログ経由で売れていったんです。
その売上を全部仕入れに回して10万円分にして、それを20万円、40万円……と増やしていきながら、少しずつ売上と商品を増やしていきました。
ECサイトを始めたのは2010年12月で、最初の月商は22,000円ほど。それが数か月で10万円を超えて、半年で60万円、1年経つ頃には、調子のいい月で150万円くらいまで伸びました。
ちなみに、もともとの目的だった離婚は無事に叶ったのでしょうか。
はい、おかげさまで(笑)。お店を始めて1年半くらい経った頃でしたね。
売上が立ってもそのお金をすべて仕入れに回していたので、なかなか手元にお金が残らず焦りましたが、仕入れと売上のバランスが取れてきて、ようやく自分の足で立てるようになって。
私にとっては、それが初めての「自立」でした。

お店が軌道に乗っていく中で、転機のようなものはありましたか。
私、お店は開いたけど、何かがすごくできたわけじゃなくて、ただ「やる」って決めただけなんですよ。解像度なんて知らないからサイトのバナーもガビガビで(笑)。ブログを見てくれた近所の方から「私、手伝いますよ」って、求人もしていないのにメールをいただいたりもしました。
そうやって手伝ってくれる人が増えるたびに、自分にはできなかったことができるようになって、お店の見た目もどんどん整っていったんです。
赤星さんのところに、人が自然と集まってきたんですね。
そうなんです。いいご縁が多かったんだと思います。
ひとつのお店にこれだけの人が集まってきてくれて、そこからまた新しいものが生まれていって。今は社員やパート・アルバイトのほか、内職で検品をしてくださっている方も含めると、従業員が200名を超えるまでになりました。
なのに私は今でもパソコンが苦手。ただ商品と企画を考えるのが好きなだけの人なんです(笑)。

届けたいのは「ハッピーの連鎖」
ショップ運営で大切にしているキーワードはありますか。
「遊び心」ですね。お客さまが悲しい思いをしない限りは、ある程度なんでも自由に挑戦してみることにしています。作り手側の私たちが楽しんでいれば、それがお客さまにも伝わっていくと思うので。
それと、創業当初からずっと大切にしているのが「ハッピーの連鎖」という理念です。
たとえば、かわいいサイトを見て楽しい気分で注文して、届いた梱包も丁寧だったら、それだけでちょっと嬉しいですよね。気分がいいから家族にもう一品作ってあげようかな?と思えたりする。
そうすると家族の機嫌もよくなって、まわりにも優しくできる。そんなふうに、小さな嬉しさは巡り巡って、最後はまたお客さまや私たちのところに返ってくると思うんです。
なのでスタッフたちにも、日頃から「やったことは、ちゃんと返ってくるよ」と伝えています。
丁寧にやればその丁寧さが伝わるし、逆に適当にやればそれも伝わってしまう。だからみんな手を抜かないし、「AかBか」ではなく「Cもあるんじゃない?」と、常に工夫の余地を探してくれています。

その姿勢は、商品やサービスにも表れていそうですね。
そうですね。たとえば、仕入れた材料に不良品が混じってしまうことって、正直けっこうあるんですよ。そういうものは通常価格では販売せず、あくまで「練習用になら使えます、それで納得いただける方はどうぞ」という形でお出しすることにしています。
自分がもらって嫌なものは売らない。そこはできる限り誠実でありたいです。
毎年恒例の福袋も、ファンの方に人気だと伺いました。
福袋の販売は創業まもない頃から続けていて、最初は10個くらいだったのが、20個、100個、1000個と販売数が増えていきました。
中身が見えないまま買ってくださるのは信頼の積み重ねあってこそ。そこで数年前から、「福袋をもっと本気でやろう」と。
既製品を詰めて売るのではなく、今や福袋のために1年かけて新しい商品企画を進める一大プロジェクトになりました。買って損したと思わせたくないですからね。
力の入れ方がすごいですね。
SNSのフォロワーさんもたくさんいらっしゃいますが、情報発信の面ではいかがでしょうか。
今はInstagram運用に一番力を入れていて、2年ほど前に専門のチームをつくりました。
うちは手芸材料のお店なので、お客さまを巻き込みやすいんですよ。「Green Oceanのレジンを使いました」「こんなの作りました」って一緒に楽しんでくれるので。
ただモノを売って終わりではなく、それをきっかけにお客さまが楽しめる空間をつくれるのがSNSの強みですよね。
売上の99%がECサイト。それでも実店舗を立ち上げた理由

2026年3月には、名古屋・栄に実店舗もオープンされましたね。99%がECサイトという会社が実店舗を開いたのは、どんな理由からだったんですか。
ECサイトってどれだけ大きくなっても、結局ネットの中でしか知ってもらえない。それがちょっと寂しいなと思って。実店舗があれば、これまで知らなかった人にも気付いてもらえますし。
「実店舗で売る」というより、「知ってもらう場所」という位置づけなんですね。
そうなんです。実店舗に置いている商品数は、ECサイトの1割もないくらいですからね。
なので店頭に足を運んでいただいた方には、「ほかの商品はECサイトにもっとたくさんありますよ」と知ってもらうのが理想。いわゆるアンテナショップのようなイメージで立ち上げました。
世間では「実店舗から始めてECも始める」という流れが多いですが、うちはその逆なんですよね。
実際にオープンしてみていかがでしたか。

思っていた以上に反響が大きく、福岡や東京から来てくださる方もいて驚きました。
当店をまだ知らない方だけでなく、もともと知ってくださっていた方が、「実物を見てみたい」と思って来てくれたんですよね。
ECサイトだと手に取れないものを店頭で実際に確かめて、それでまたECサイトに戻ってきてくださる方も多く、実店舗とECの両方で買ってくださる方が増えました。
ECサイトと実店舗、そしてECモールにも出店されていますが、それぞれの役割の違いについてはどのように意識されていますか。
カラーミーショップで運営している「本店」は、当店の顔ですね。最初に作ったお店ということもあって、スタッフみんなで大事にしています。
ECモールはある程度形が決まっているので個性が出しづらい反面、本店(独自ECサイト)は私たちならではの雰囲気をまるごと伝えられます。なので本店のお客さまは、商品というより「お店そのもの」のファンでいてくださっている印象ですね。
複数のモールに出店している現在も本店の売上は伸び続けていて、全体の約1/4を占めています。
自分の人生は、自分で選べる
ECサイトやハンドメイドがもたらす効果について、思うところはありますか。
私自身、ECをやっていて本当によかったなと思うんですよ。
子どもが生まれると、女性はなかなか家から出られなくなりますよね。働きにも行けないし、ずっと家にいれば気持ちもふさいでしまいます。
でも、ハンドメイドなら自分で材料を取り寄せて、子どもが寝ている間に好きなものを作れるし、SNSにあげれば「かわいい」って言ってもらえる。それだけで社会とつながれるんですよ。

ものづくりが、外の世界との接点になるんですね。
そうなんです。お金ももちろん大事ですが、それ以上に「認められること」がすごく大きいと思っていて。「私の作品でも買ってもらえた」っていうのが自己肯定感につながるんですよね。
うちは材料を扱うお店ですが、「作家になって、お店に置いてもらえるようになりました」とお客さまから手紙をいただくこともあって。世の中にそういうきっかけを作れていることが嬉しいんですよね。
作り手の方の活躍の場が、どんどん広がっているんですね。
カラーミーショップや「minne(※)」のようなサービスが広まってくれたおかげで、みんなが「作って売る」場所を持てるようになりましたよね。
ハンドメイド作品って、昔はどうしても価値が低く見られがちだったんです。でも、きちんと売買できる場が生まれたことで価値がグッと高まって、始める人も増えた。私たちもその入口のお手伝いができているのが嬉しいなって思います。
※ GMOペパボが運営する国内最大級のハンドメイドマーケットで、カラーミーショップの姉妹サービス
赤星さんご自身が、まさにその先頭を走ってこられた存在ですよね。
そうですね。我慢しながら、不満を抱えながら…ではなく、自分自身が本当に「こうしたい」と思える生き方のほうが健全じゃないですか。
自分の人生は自分で選べます。私の場合はそれがたまたまECサイトだったんです。
あのときカラーミーショップでのECサイトづくりに挫折していたら、私は今ここにいなかったと思います。周囲の誰にも相談できなかったですし。

本当によかったです……! ご自身の実感だからこそ響く言葉ですね。最後に、今後の展望を教えてください。
パソコンが大の苦手な私でも、5万円で始めたお店が気付けば年商17億円になりました。
正直あまり実感はないですし、私自身は何も変わっていません。キーボードも未だに指2本だけで打ってるんですけど(笑)、それでも誰かのお役に立てているので、今のこの輪をみんなと一緒にもっと楽しく広げていきたいです。
実店舗からECサイトに来てもらえる仕組みもさらに強化したいですし、ずっと家にいる人や、海外にいる人でも、自分らしく生きるためにものづくりの場を活用しやすい世界をつくっていけたらなって。
ちょっと壮大な夢ですが、勢いで始めてみたお店が今こうなっているんだから、考える前にまずはやってみることにしています。それがここまで突き進んでこられた理由なのかなって最近思うので。
6畳の部屋から始まったお話が、こんなにも大きな景色につながっていることにグッときました。今日はすてきなお話をありがとうございました!

