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EC事業者の『勝てるカテゴリー』はこう見つける。顧客理解から始まる成長戦略を田岡さんに聞いてみた。

EC市場が成熟し、競合が増えるなかで、多くのEC事業者が直面するのが「どのカテゴリーで戦うべきか」という課題です。お客様が求める価値を正しくつかみ、自社が選ばれる理由を言語化することが、成長の分岐点になります。

今回は、カテゴリー戦略の専門家としてスタートアップから大企業まで数十社を支援する suswork株式会社 代表取締役・田岡凌さん に、勝てるカテゴリーの見つけ方や顧客理解のポイントを伺いました。

田岡 凌 さん
suswork株式会社 代表取締役
京都大学卒業後、ネスレにてネスカフェ、ミロのブランド担当。外資系企業のブランドマーケティング責任者、マーケティングスタートアップ CMOを歴任。現在、suswork株式会社にて、スタートアップから大企業まで数十社のマーケティング戦略支援を行う。カテゴリー戦略の専門家。ギャラップ社認定クリフトンストレングスコーチ。PIVOT、NewsPicks、Markezine、ITメディアなど多数出演。

susworkと田岡さんについて教えてください

まず「suswork」とはどんな会社なのか教えてください。

suswork株式会社の代表、田岡と申します。

susworkは「カテゴリー戦略ファーム」として、おもに急成長スタートアップや大手企業の新規事業・コア事業の成長戦略を支援しています。その起点となるのが「カテゴリー戦略」です。「誰に・どのカテゴリーで・どんな独自の価値を届けるのか」を明確にし、1〜2か月のプログラムを通じて戦略を策定。その後の実行フェーズまで伴走しています。

現在は約30社のスタートアップを中心に、成長戦略からブランディング・マーケティングの実装まで幅広く支援しています。最近では、AI時代におけるビジネスの在り方をテーマにした完全無料のeラーニング「グロースOS新時代のビジネススキル」をリリースしました。大手企業を中心に好評をいただいており、導入企業も増えています。

ありがとうございます。では、田岡さんご自身のご経歴についても教えてください。

はい。私はこれまで約15年間、マーケティングに携わってきました。最初はネスレに在籍し、カプセル式コーヒーマシン「ネスカフェ ドルチェグスト」やココア「ミロ」などのブランドマネージャーを担当していました。

その後、WeWorkに転職し、ブランドマーケティング責任者として、日本上陸初期から数多くの拠点立ち上げに携わりました。今も認知拡大や集客戦略など、ブランディング全般を担当しています。

それから、スタートアップでCMO(最高マーケティング責任者)を務めたのち、独立してsusworkを創業しました。現在、並行して3社ほどの外部顧問も務めており、グロース支援やブランディング・マーケティングの戦略設計を担当しています。

カテゴリー戦略とは「自社がNO.1になれる市場を作り事業成長をはかること」

「カテゴリー戦略」とはどのようなものなのか教えてください。「ポジショニング戦略」や「差別化戦略」と混同されがちですが、どんな違いがあるのでしょうか。

カテゴリー戦略とは、「自社がナンバーワンになれる市場(カテゴリー)をつくる」戦略のこと。顧客の潜在課題を解決する新たな市場を構築し、その市場でナンバーワンブランドとして成長していくことを指します。

これまで語られてきた「差別化戦略」や「ポジショニング戦略」は、既存のカテゴリーの中で自社がどう独自性を出すか、どんな立ち位置をとるかを考えるものでした。一方、カテゴリー戦略は「カテゴリー」自体を再定義・再分化し、場合によっては新たに創り出すことで市場を生み出すアプローチです。

なぜ今、そのカテゴリー戦略が注目されているのでしょうか?

一言でいえば、変化のスピードがかつてないほど速くなっているからです。
デジタルテクノロジーやAIの進化によって、「昨日まで存在しなかったものが、今日には実現している」世界になりました。

その結果、商品やサービスの数が爆発的に増え、新しいカテゴリーが次々と生まれては消えています。だからこそ、「このカテゴリーといえば○○」とすぐに思い浮かぶブランドが、生き残る時代になってきています。

実際、ブランド論の権威デービッド・アーカー氏も、「ブランド成長 の鍵はカテゴリーを創造すること」と述べており、今や世界的に“カテゴリーファースト”の時代が来ていると感じます。

田岡さんはどのようなきっかけで、カテゴリー戦略に出会ったのでしょうか?

カテゴリーという概念は以前からあります。私が好きなマーケティングの名著『マーケティング22の法則』では、第1章「一番手の法則」で先行者の有利性を謳っています。続く第2章「カテゴリーの法則」では、「一番手になれないならカテゴリーをつくれ」と説いています。

つまり、この考え方は30年前から存在していたんです。私自身も、新卒のころからマーケティングに携わるなかで、「カテゴリー」の重要性を感じていました。ただその本質に気づいたのはここ3年ほど。

スタートアップの成長支援に深く関わるなかで、「なぜ後発なのに非連続的な成長ができるのか」という問いをもつようになりました。その問いを突き詰めて考えたとき、答えが「カテゴリーにある」と実感したんです。

成長のカギはカテゴリーにあると。

はい。市場に新しい変化が起きるとき、そこには必ず新しいカテゴリーの誕生があります。そのカテゴリーを独占的に確立した企業が、急成長していく。カテゴリーは、ブランド名と同じくらい重要な「顧客との共通言語」です。とはいえ、もっとも重要でありながら、もっとも答えを出すのが難しいテーマだと思います。

スタートアップの話が出ましたが、大企業にも当てはまる部分はありますか?

むしろ、大企業こそカテゴリー戦略を重要視すべきです。世界のトップ企業を見ればそれは明らかで、NVIDIA、Apple、Google、Microsoft、いずれも独自のカテゴリーを生み出し、その市場でナンバーワンとして成長してきた企業です。

彼らは30年以上にわたり、自ら創り出したカテゴリーを広げ続けてきました。だからこそ、今の時代においても圧倒的な存在感を放っています。そうした意味でも、カテゴリー戦略はスタートアップだけでなく、大企業にも欠かせない手法だと言えます。

業界や業種はどうですか? やはり根本の考え方は同じでしょうか?

そうですね。業界も規模も関係ありません。私たちは、製造業から、セールス、マーケティング、セキュリティ、不動産、M&A企業まで幅広く支援していますが、手法はすべて同じです。

結局のところ、「だれに」「どんな価値を」「どんな文脈で」届けるかを、明確に定義できるかどうかが、戦略のすべてを左右します。

カテゴリーを見つけるために重要なのは「顧客とリアルで会うこと」

自社のカテゴリーを見つけるには、どのような手順を踏めばいいでしょうか?

カテゴリーは企業が一方的に決めるものではなく、最終的に顧客の頭の中に浮かぶものでなければなりません。大切なのはまず、顧客の課題を深く理解すること。「まだ解決されていない課題」に目を向けることがとても重要です。

「今この時代に、まだ満たされていない課題はなにか?」を掘り下げられる企業が、新しいカテゴリーを生み出します。

そこで必要となるのが、顧客とリアルに会うこと。「どんな環境で暮らし、どんな気持ちで、どんなシーンで使っているのか」を具体的に観察する。そうすると、課題が見えてきます。

EC事業者は、顧客が見えているようで見えていないケースが多いです。

「この1週間で顧客に会いましたか?」「この1年で何人に会いましたか?」この問いへの答えが、企業の顧客理解度を測る目安になると思います。

実情に即したニーズの把握が重要なのですね。

課題の把握には、リアルな観察が欠かせません。顧客の課題を理解できたら、「なぜ自社が選ばれているのか」を探り、「どんな独自の価値を提供できるのか」を見極めます。

その次に、「課題と価値」に合うカテゴリーキーワードを考えます。キーワードには、自社が提供できる価値を、1〜2秒で伝えられる言葉に落とし込むことがポイントです。

カテゴリー戦略の真髄は、課題と価値にラベルをつけること。人はラベルがないと語れませんし、記憶にも残りません。

例えば、「お米」のような既存カテゴリーの場合、どう考えればよいのでしょうか?白米や玄米、精白米に対する無洗米、新米に対する古古米、古古古米のように、「階層を一段下げて考える」イメージでしょうか?

下げる(細分化する)場合もあれば、横に広げる場合もありますね。

例として、日本ではコーヒー市場全体が縮小傾向にありますが、そのなかで生まれた新しいカテゴリーが「カプセル式コーヒーマシン」です。

単価は通常のインスタントコーヒーの5〜10倍。それでも「勤務中に買いに行く時間がない」「オフィスで手軽に本格コーヒーを飲みたい」という未充足の課題を解決することで、市場を創出しました。

ほかにも「カフェインレスコーヒー」「シングルオリジン」「オフィスコーヒーマシン」など、すべて顧客の具体的なシーンや課題から生まれています。

「妊娠中でも飲みたい」「産地にこだわりたい」「オフィスで手軽に美味しいコーヒーをたのしみたい」。そんなリアルな声が、新たな市場を生み出す種になったんです。

カテゴリーキーワードは「瞬時に想起できる言葉」

新しいカテゴリーを言葉にする際のコツはありますか?

「(顧客の)課題×価値(の提供)」をどうすれば多くの人に伝えられるか。これを徹底的に考えることです。

必要なのは、瞬発力のある言葉やラベル。瞬時に想起できる言葉は、新たな市場を広げます。
わかりやすい例でいえば、アルバイトの「スキマバイト」や掃除機の「ロボット掃除機」。どちらも、サービスや商品をすぐにイメージできますよね。

一方で注意してほしいのは、「自分たちのカテゴリーってなんだろう?」と社内で自問自答してしまうこと。実際の顧客の行動や課題を把握せずに言葉をひねり出しても、うまくいきません。これはよくある罠で、ブランド(事業)が伸び悩む大きな原因にもなります。

カテゴリーキーワードを最終決定するまでのプロセスも教えてください。

あらかじめ複数の候補を用意して、ABテストのように実際に顧客の反応を検証します。その言葉を伝えたとき、「相手にちゃんと伝わった」「すぐ理解された」。そうした反応が得られれば、よいキーワードの証拠です。

また、お客様が自らその言葉を発話するかどうかも重要な判断軸になります。

顧客以外の反応も参考にしますか?

しますね。私はあえて業界から遠い人、友人や子どもなどにも伝わるかどうかを検証しています。同業者やチーム内ではどんな言葉でも伝わりやすいですが、一般の人に届く言葉こそがカテゴリーを広げる力をもちます。

徹底して顧客目線が大切なんですね。

おっしゃるとおりです。重要なのは、お客様の頭の中に「言葉」を残せるか。カテゴリーキーワードは特別なスローガンではなく、「日常的に使われる言葉」であるべきです。

そのヒントになるのが、顧客の発話。とくにエクストリームユーザー、つまりその商品を心から愛している人の言葉が極めて重要です。彼らのリアルな体験談を観察すると、「あ、これはキーワードになりそうだ」と気づく瞬間があります。

うまいことを言おうとして狙いすぎず、新しいけれどなじみやすい言葉をつくる。それが、次の当たり前を生み出すカテゴリー戦略です。

susworkが手がけた成功事例、既存の成功事例

これまで支援されてきたなかで、とくに成果が大きかった事例を教えてください。

代表的なものを2つご紹介します。いずれもBtoBのケースです。ひとつは、先述したSales Marker社の事例です。

同社はWeb検索データを活用して、まさに「今」ニーズがある企業を特定し、営業活動を効率化する仕組みを提供しています。

法人営業では「どこにアプローチすべきかわからない」という新規開拓の課題が根強く、手当たり次第の“宝探し営業”になりがちでした。海外ではその解決策として「セールスインテリジェンス」が先行して活用されていましたが、日本ではまだ概念自体が浸透していませんでした。

そこで、スタートアップの現場が本当に抱える悩みをワークショップで徹底的に掘り下げ、「商談数は増やす必要があるのに、新しい営業チャネルがない」という核心課題を再定義。

インテントセールスを“営業開拓の新しいカテゴリー”として日本市場向けに位置づけ直した結果、指名検索数が急増し、認知向上と事業成長の両面で大きな成果につながりました。

もうひとつは、三菱UFJ信託銀行の新規事業「TRUSTART(トラスタート)」の事例です。

不動産会社が物件を仕入れる際、従来は役所や現地を何度も回って情報を集めていました。その煩雑なプロセスをデータベース上で一元化したのが、このサービスです。

地図上で「最近相続された土地」などの情報を瞬時に確認できる機能を、「不動産オーナーデータ」というカテゴリーで再定義。ビジネス系動画チャンネルやタクシー広告、対談イベントなどを通じて発信した結果、わずか半年で検索数6倍、売上2倍成長を実現しました。現在も年率2倍ペースで成長を続けています。

うまくいかないカテゴリー戦略の大半は「自社起点」

逆に、カテゴリー戦略がうまくいかないケースはありますか。

カテゴリー戦略は魔法ではないので、はまらないケースもあります。
世の中に「カテゴリー戦略っぽいもの」はあふれていますが、じつはその多くがうまくいっていません。

とはいえ、検索分析やキーワード分析をすれば、数か月で伸びるか伸びないか(跳ねるか跳ねないか)がわかります。当社の支援では、検証結果をもとにPDCAを回して、必ず当たるカテゴリーキーワードを見つけます。

失敗要因として多いのは、どんな点でしょうか?

失敗の大半は、カテゴリーキーワードが自社起点になっていることです。

企業が伝えたいことを詰め込んでも、顧客は「あなたの会社がどれほどすごいか」には興味がありません。関心があるのは、「自分たちの生活がどう良くなるか」です。

だからこそ、顧客が実際に使う言葉や、顧客が感じる価値を起点に考えることが欠かせません。

また、現場を見ずに社内だけで「自分たちのカテゴリーってなんだろう?」と自問自答してしまうのも要注意です。リアルな顧客像を把握せずに言葉をつくっても、共感を得られず、ブランドが伸び悩む要因になります。

もうひとつ、顧客の定義が弱いままカテゴリーを設定した場合も成功しにくいです。

「うちはこれが強みです」とアピールできても、「だれに売りたいのか」が曖昧だと失敗しがちです。コアターゲットを明確にできるか否かで、勝負の大半は決まります。

ECに目を向けると、カテゴリーは多様化していて、すでに幅広いニーズに対応しています。そのなかで勝てるカテゴリーを見つけるには、どうしたらいいですか。

一見飽和状態でも、まだ言語化できていない潜在課題はあるので、それを見つけることが一丁目一番地です。シンプルな課題に独自価値を提供すること。その道筋が見えたら、イメージがわく言葉を考えること。これが基本です。

私の本にも書きましたが、お客様の頭に浮かべばモノは売れます。想起されればされるほど市場が大きくなり、グロースを実現できます。逆に言えば、お客様の頭に浮かばなければ売れません。

「自分たちが何者か」を探るより、「どうすれば思い浮かべてもらえるか」を突き詰めて考えること。カテゴリー戦略の本質はそこにあり、多様化しているECでも有効な手段です。

ちなみに、ECに限らず、既存のカテゴリーで「これはうまい」という例はありますか?

私がよく話すのは「餃子の王将」の例です。

王将は中華料理店ですが、「中華の王将」ではなく「餃子の王将」を名乗っています。「餃子」に絞ったことで、ブランドの想起が圧倒的に強いんですね。訴求の入り口を明確にしたからこそ認知が伸びた好事例で、私はこれを「餃子の王将理論」と呼んでいます。

カテゴリー戦略の第一歩は「ホームビジット」がおすすめ

改めて、この記事を読んで「カテゴリー戦略を考えてみよう」と思ったEC事業者さんが、最初にすべきことはなんでしょうか。

やはり、顧客の実情を知ることから始めてください。どんな家に住み、どんな暮らしをしていて、なぜ、いつ、どこで商品を買ったのか。

EC、とくにD2C事業者の方は「自分たちはお客様とつながっている」と思いがちですが、実際には顧客像を想像で語っていることがよくあります。

実情を把握するには、やはり顧客と実際に会うことが必要でしょうか?

顧客理解には「ホームビジット(訪問調査)」が有効です。

想像で解像度を上げるのではなく、解像度100%のリアルな顧客を見に行く。そこからすべてが始まります。その商品をどこに置いているのか、いつ・どう使っているのか。現場にはお客様自身も気づいていないニーズが隠れています。

よく「探偵の現場調査」に例えるのですが、探偵が事件を解くときに現場へ行かないことはありませんよね。それと同じで、現場でしか得られない気づきがあります。

インタビューはオンラインでもできますが、オフラインで直接会うことの価値は大きいですよ。

訪問のメリットは絶大ですね。

アンケートなどのテキストだけで顧客を理解するには、限界があります。それなら、身近な友人にヒアリングしたほうが、よっぽど実りが大きい。

でもやはり、お客様の生の声や現場の空気感にはかなわないので、リアルな観察こそ顧客理解の最短ルートだと思います。

さらに、カテゴリーが「当たらない」と分かったとき、それを修正する際にも訪問は有効です。先ほどABテストのような検証を行うと言いましたが、当社ではなぜ当たらなかったかを分析し、次の一手を打つ前に、必要であれば再び訪問調査に立ち戻ります。

現場には必ずヒントが落ちているので、迷ったらもう一度訪問して話を聞くことが、もっとも確実です。

訪問のハードルを下げるコツはありますか?

誠実に、「より価値ある商品を届けたい、そのためにお話を伺いたい」とお願いすれば、協力してくれる方は多いです。ギフト券などの謝礼で、顧客訪問を実施している企業もあります。

最初はオンラインでの対話で関係を築き、「ぜひ次は実際の使い方を見せてください」とお願いする。そんな段階的なアプローチでも構いません。

直接訪問することで、360度顧客の世界に入り込めます。間接的な調査の何百倍もの情報量を得られるので、ぜひホームビジットを実践していただければと思います。

「想いを行動に変えること」からすべてが始まる

最後に、これからブランドを育てたい、事業を伸ばしたいと考えている方へメッセージをお願いします。

どんな商品・サービスでも、そこには必ずつくり手の強い想いがあると思います。

それが、「お客様に選ばれない」というだけで消えてしまうのは、もったいない。思い悩むくらいなら、行動に移して、どんどんお客様に会う。訪問すれば必ず、お客様目線で見た自分たち価値や、独自のカテゴリーが見えてきます。

答えは机の上にはなく、現場にある。その認識をもつことが、カテゴリー戦略の第一歩です。

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