ECサイト開設・運営のヒントが見つかるWebメディア

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バリスタ世界チャンピオン・粕谷哲氏が語る「EC×実店舗」のシナジーを生み出す運営戦略

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
コーヒー抽出の世界大会「World Brewers Cup」で、アジア人初の世界チャンピオンに輝いたバリスタ・粕谷 哲氏が運営するスペシャルティコーヒー専門店。“あらゆるところにコーヒーを届ける”を理念として、千葉・東京の実店舗のほか、ECサイトでの販売も行っています。今回は創業経緯、売上成長のきっかけとなったYouTube、今後の目標について詳しく伺いました。

突然の病気をきっかけにコーヒーの世界へ

まずは粕谷さんについて教えてください。これまでの経歴とコーヒーの世界に進んだ理由をお聞かせください。

もともとはITコンサルだったのですが、2012年に1型糖尿病を発症したことをきっかけにコーヒーの世界にのめり込み、1年後に会社を辞めてバリスタになりました。その後、2016年の世界大会で優勝したのを機に会社を立ち上げました。

もともとコーヒーはお好きだったんですか。

いや、全然。ただのカフェインとしてしか見てなかったし、コーヒー屋に行くこともほとんどありませんでした。

でも病気で入院することになって、それまで激務だったのに何もやることがなくなって暇で仕方なかったので、自分でコーヒーでも淹れてみようかなと。コーヒーなら糖質がないから飲んでもいいということで病室で淹れてみたのが始まりで、そこから一気にハマりましたね。

病室でコーヒーを淹れていたんですね。

そうです。外出許可は出ていたので、右も左もわからないまま近くのコーヒー屋さんで道具一式買い揃えてきました。教わった通りに淹れてみたんだけどなかなかうまくいかなくて、でもそれが僕にとってはなんかおもしろかったんですよね。基本的に何でも人並みくらいにはこなせるつもりでいたけど、コーヒーだけはなぜかうまくできなかったんです。

もともと負けず嫌いだったり、凝り性なタイプですか。

幼少期から間違いなく負けず嫌いではありますね。凝り性かと言われると、どうなんだろう……あんまり自分ではそう思わないかな。けっこう飽きっぽいほうなんですけど、コーヒーは意外と続けられてますね。

ITコンサルからバリスタへの転身は大きな決断だったのではないでしょうか。

1型糖尿病は完治の難しい病だと知って、「本当にこのままITコンサルを続けていいのか?」と将来を考えたとき、突然こんな病気になることもあるんだから、好きなことでもやって生きてみたいなと思って、それでバリスタになったんですよね。

ホンジュラスやグアテマラといった海外のコーヒー農園にも足を運び、現地の人たちのエネルギーや工夫、苦労を知ってからはいっそう本腰を入れるようになって、今に至ります。

「穴場」だったYouTubeを通じて顧客獲得に成功

開業後、ECサイトでコーヒーを販売することはいつ頃から構想されていましたか。

ECは最初から立ち上げるつもりでしたね。自分たちの商圏だけでは成り立たないだろうなと思ったし、僕らの掲げる「あらゆるところにコーヒー体験を届ける」というミッションを実現する意味でも、EC展開は必須でしたから。

ECサイトの開設時、カラーミーショップをお選びいただいたのはなぜでしょうか。

当時、確かカラーミーショップと無料カートサービスのどちらを選ぶか迷ってたんですよね。実際に触ってみて、カラーミーショップのほうが使い勝手がいいなと。

ありがとうございます。開店当初の売上と比較すると、ここ数年で大幅な成長を遂げていらっしゃいますね。特に注力された施策はありますか。

当時は年間40万くらいでしたけど、今は1日でそれくらい売れるようになりましたね。

ここ3~4年の成長要因として一番大きいのはYouTubeだと思います。2022年の春ごろにチャンネルを開設して約1年で登録者数5万人、2025年に入って15万人を突破しました。

着実に登録者数が増えていますね! YouTubeはなぜ始められたのですか。

最大の目的は露出を高めてPHILOCOFFEAの認知につなげることでした。
ECサイトって、お店を知ってくれた人のうち数%が来訪して、さらにその中の数%だけが購買にたどり着くような世界じゃないですか。CVRを100%にすることは不可能だからこそ、より多くの顧客を獲得するには入口の母数を増やすしかない。ならば自分自身のバリスタとしてのキャリアと知名度をフル活用すべきだと判断しました。

あとは自分自身がメディアとなって情報発信できる場所がほしかったことも理由の一つです。メディアに発言を切り取られることなく、思ったことをそのまま発信できる場所があればいいなと。

それと、コーヒーのYouTubeって「穴場」だったんですよ。

穴場、ですか。

コーヒー系のYouTuberは世の中にたくさんいるし、いろんな方が動画を配信してるんですけど、競技の最前線に立つバリスタが自ら発信してるチャンネルってほとんどなかったんですよね。
ここでなら自分の経験と知識を活かして一人勝ちできるかもしれないと気付いて、僕とスタッフの2名体制で、手探りのまま動画作りを始めました。

撮影・編集クルーが何人もいるのを想像していました……! 2名だけで運営されているんですね。

スタッフが撮影・編集、僕は企画・出演という分担で、大変ですけど頑張ってやってます(笑)。

YouTubeのほかにも、メディア露出を強化したり戦略的に催事出店を行うことで、これまで触れる機会のなかった方々にもうちの味を知っていただいたことが売上アップに寄与しています。さらにその方たちがSNSなどで言及してくださることで、さらなる認知獲得にもつながっているようです。

YouTubeを見たり、お店や催事に来る方が増えて、ECサイトの売上にも波及していったのですね。

そうですね。実店舗とECサイトの間ではできるだけ相乗効果を生み出したいと思っています。
実店舗には頻繁に来れない方のほうがどうしても多いですから、また飲みたくなったときにECで買っていただけるような接客を極めたいですし、逆にECのほうでも、よりよい購入体験を追求することで「いつか実店舗へ行ってみたい」と思ってもらえるのが理想です。

コーヒーの社会を幸せと感動で満たす

粕谷さん、そしてPHILOCOFFEAの今後の展望についてお伺いしたいです。

僕個人としては、これからもYouTubeやSNSを通じて、あるいはPHILOCOFFEAを通じてコーヒーの魅力や楽しさをより広く伝え、価値を高めていける存在になれればと思っています。

PHILOCOFFEAとしては常に「日本で一番のコーヒー屋になる」っていうのを目標として掲げています。売上規模で言えばいずれは50億円以上を目指したいと思うし、日本国内にとどまらず、世界に向けてもどうアプローチできるかを考えているところです。

僕らの見据えるビジョンは「コーヒーの社会を幸せと感動で満たす」こと。生産者と消費者、そして僕ら自身、この三者がより豊かになれる未来を目指して、今後の事業活動に集中していきます。

ECサイトを通じて叶えていきたい目標はありますか。

実店舗になかなか来れない方に対しても、実店舗で得られるような体験をECサイト上で表現したいので、今はそのためのリニューアル準備を進めているところです。

売上規模としては、今後2~3年以内に3億円以上をECだけで叩き出せるようにはしたいですね。そのための準備として、発送場所も兼ねた焙煎所の移設計画を進めていて、現状の4倍以上もの広いスペースを確保できる予定なので、これまでとは全く違ったスピード感で事業を加速させていくつもりです。

今後のPHILOCOFFEAさんのさらなる成長が楽しみです。本日は貴重なお話をありがとうございました!