「よなよなエール」「水曜日のネコ」など、ユニークなネーミングのクラフトビールでおなじみのヤッホーブルーイング。熱狂的ファンが多く、イベントを開催すればチケットが即完売するほど人気を博しています。
今回は、ファンを大切にするヤッホーブルーイングの望月さん、塚田さんに、ファンを喜ばせるためにどんな取り組みをされているのか、「ファン作り」の極意について詳しく伺いました。
目次
自己紹介をお願いします
お二人の自己紹介をおねがいします。
望月さん:
ヤッホーブルーイングの望月と申します。当社はニックネーム文化で「もっちー」と呼ばれています。私は、当社のショップが2回目の「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー」を受賞した2009年に入社しました。
入社のきっかけは、楽天市場内の店舗ページに掲載されていた人材募集の告知です。店舗アドレス宛に履歴書を送るという人生初の体験をして、面接で「君おもしろいね、いつから来られる?」というような流れで入社しました。
入社後、代表からネットショップ店長を引き継ぎ、少しずつブランドの認知が広がって会社が拡大していく様子を目の当たりにしてきました。経営企画や一般管理、CSなどもひととおり経験し、現在はネットショップに加えてイベントやコンテンツなど、個人向けの活動全般を担当しています。
塚田さん:
ヤッホーブルーイング広報の塚田です。ぜひ「やさい」とニックネームで呼んでください。私は長野県出身で、地元で生まれたクラフトビール会社のユニークさに惚れ込み、新卒で入社しました。ワイワイたのしく仕事をしてきて今年で4年目になります。
ヤッホーブルーイングについて教えてください
知らない方はいないのではないかと思いますが、改めてヤッホーブルーイングさんについて教えていただけますか?
塚田さん:
私たちはクラフトビールの製造・販売を手がける会社で、「ビールに味を!人生に幸せを!」をミッションとして掲げています。創業から26年目となる今日まで、日本全国に多種多様なおいしいビールの味を広め、クラフトビール文化を根づかせたいという想いで社員一丸となって取り組んできました。
当社の創業者は星野リゾート代表の星野佳路です。アメリカ留学時代にパブで飲んだクラフトビール(エールビール)の味が忘れられず、帰国して数年後の1997年に現・代表の井手とビール事業をスタートさせました。
当社のビールはユニークなネーミングが特徴的ですが、創業当初から日本全国で流通させることを目標にしていたため、クラフトビール(地ビール)では珍しい缶入りなのも特徴のひとつとなっています。
確かに地ビールやクラフトビールは瓶のイメージが強いですよね。
望月さん:
地域に根ざしたビールを「地ビール」といい、地ビールはその地域で飲むことを前提に造られているので瓶入りが主流です。
私たちも軽井沢発のブランドで、初期の地ビールブームを牽引した会社のひとつですが、日本全国のたくさんの人に飲んでいただくことをめざしているため、流通させやすい缶にこだわっています。製品名にも地名は入れていません。
ちなみに、クラフトビールは小規模醸造所がつくる多様で個性的なビールを指しますが、地ビールも小規模醸造所が造っているので、呼び方はどちらでもOKですよ。
塚田さん:
私たちは「ビール製造サービス業」と自称していて、ビールづくりだけでなくファン向けのイベントにも力を入れています。目的は、ビールを飲んで幸せになる場を作り、ファンの皆さんとたのしい時間を共有すること。そのために数多くのファンイベントを開催しています。
望月さん:
嬉しいことに「ヤッホーブルーイングが好き」という熱心なお客様が全国にたくさんいてくださるのが強みで、イベント開催時には多くの方が参加してくださいます。
塚田さん:
2015年からビールを片手に非日常を味わう「よなよなエールの超宴」というイベントを開催しているのですが、コロナ前の2018年には1日約5000人のファンの方にお集まりいただきました。
「コロナ渦でリアルイベントはすべて中断していましたが、今年は少しずつ、醸造所見学や20人規模のイベントなどを再開しています。醸造に関わるメンバーだけでなく、スタッフみんなでイベントを盛り上げています。
望月さん:
「よなよなエール 大人の醸造所見学ツアー」は本当に人気です。アクセスしづらい場所にあるにも関わらず、ファンの方は遠方からでも足を運んでくださるんですね。せっかくなら思い切りたのしんでいただきたいので、準備万端でお迎えしています。
「大人の醸造所見学ツアー」、非常に魅力的ですね。
始まりは、熱い思いをのせたメルマガへの共感から
大変多くの熱狂的なファンがいらっしゃいますが、どういう意図や目的で、どのようにファン化を促していったのですか?
望月さん:
ファンの下地を作ったのは代表の井手です。創業間もないころ、製品は数アイテムしかありませんでした。メルマガでPRするにしても書くネタがあまりなかったんですね。そこで、自分語りやビール愛を熱く語るなど、代表のキャラクターを前面に押し出したメルマガを配信するようになったんです。
すると、自分たちの熱い思いに共感して、熱い思いを返してくださる方が増えていき、次第にファンが増えていきました。
ヤッホーブルーイングは楽天ショップ・オブ・ザ・イヤーを10年連続受賞していますが、最初に選ばれた理由は売上規模ではありませんでした。賞には楽天ユーザーの投票数も関係していて、レビューを書いて投票する形式なのですが、当社に投票してくださった方のレビューを見ると、熱い思いをたっぷり綴ったものが群を抜いて多かったそうです。
売上はそれほどではなくても、熱量の高いファンという強固なカスタマーベースがあり、成長し続けている点が大きく評価されて受賞につながりました。
なので、マーケティングの戦略として意図的にファン作りをしたわけではないんです。
共感からのファンというのは非常に強い絆があるように感じます。イベント等を開催していますが、開催するに至った経緯を教えてください。
望月さん:
商材がビールなので、お客様に一番喜んでいただけるものはなにかと考えたときに、すぐに浮かんだアイデアが「飲み会」でした。
お客様も店舗からの発信を面白がってくれており、直接お会いすると喜ばれそうだったため、「よなよなリアルエール」を発売したタイミングで、東京・恵比寿のイングリッシュパブ「THE FooTNiK(フットニック)」にご協力いただき新製品発表会を開きました。
このときは楽天のEC店舗でチケットを販売して、40席が20秒ほどで完売しました。
チケットを買えた方は本当にラッキーですね。
望月さん:
リアルイベントの開催は初めてだったので、万全に準備して、代表はじめ責任者フルメンバーでドキドキしながら臨んだのですが、「リアルエール持ってきました!」と伝えただけで「おー!!」と歓声をいただき、熱量の大きさに驚かされました。
お客様に嬉しい仕掛けを提供すると心から喜んでくださり、熱量が上がることを実体験したんですね。お客様と対面する大切さを実感して以来、ファン参加型の飲み会を続けています。
パブから始まったイベント「よなよなエールの宴(うたげ)」は「よなよなエールの超宴」に名を変え、イベントホール、キャンプ場、野外特設会場と規模を拡大してきました。ただ、今後はちょうどよい人数と距離感で交流をたのしめる、キャンプ場でのイベントがいい感じだなと思っています。
リアルイベント以外にも、さまざまなユニークな企画を打ち出されていますよね。
望月さん:
いろいろしていますね。過去には、「新年宝くじ」と称し、白いボードを持った代表の写真を高速コマ送りにして、当たり画像にある4桁の番号を入力すると販売ページに行けるという企画を実施しました。
ハイスピードで切り替わる15~20枚の画像の中から1枚の当たりを見つけるという高難度のゲームで、冷静に考えると、めでたいお正月向け商品なのにこれを突破しないと買えないという購買率を下げるような企画でしたが、お客様には「またやってるよ」と面白がっていただけました。
買っていただきたいけど買うハードルを上げる施策ですね笑。
望月さん:
私たちが得意とする「クスッと笑ってしまうような企画」と、「ビールというハッピーになれる商材」がうまくマッチして、お客様にも評価いただけているのだと思います笑。
もちろん、売上を上げたいとか、製品に愛着を感じていただきたいという想いはありますが、「好きになってください!」と強くアピールするよりも、自分たちらしさを打ち出すほうが当社の性に合っていますね。
イベントの成り立ちと特徴
そういったイベントや企画はどのように生まれ、リリースされるのですか?
望月さん:
ヤッホーブルーイングでは、ひとつの企画を実施するまでにものすごく長い時間をかけています。チームで動くことを大事にしていて、複数組織のスタッフが参加する8~10名ほどのプロジェクトチームで相談しながら進めています。
「隠れ節目祝い by よなよなエール」という現在進行中のプレゼント企画があるのですが、リリースするまでに半年くらいかけました。(※2023年10月30日時点)
この企画を立ち上げたきっかけは、ずっと定期購入をしてくださっているヘビーユーザーさんからのご連絡でした。「妊娠して、しばらくお酒を控えるので退会します」という内容でした。
「授乳が終わったら、戻ってきますね」という嬉しいお言葉もいただいて。「おめでとうございます」と手紙を送りつつ、それだけじゃなくて何かやりたいよねというところから始まりました。
何をやったら一番喜んでくれるかな?から、入学・卒業みたいな誰もが知っている行事として祝われるもの以外にその人にとって節目や隠れたお祝いってあるよねと発展し、そういういろんな節目をお祝いするのに、ビールメーカーとしてできることを何かというところを経て、半年くらいかけて作り上げていきました。
ヤッホーブルーイングはチームで働くのを大事にしているので、いろんな部署の人が集まって企画をやる時に目的はもちろんあるのですが『どういうお客さんがいるんだろう』とか『僕たちはこういう内容を伝えたいんだけど、それにはどういうメッセージとかやり方がビール会社としてはできるだろう』みたいな所に重きを置いて考えるところがヤッホーブルーイングの企画やイベントの特徴だと考えています。
塚田さん:
今年いっぱいの企画で、 「隠れ節目祝いセット」を合計5100名様にプレゼントする企画としてスタートしましたが、3月2日から3月15日までの期間で想定を大きく上回る約20,000件の応募をいただき、3月16日に4,000の追加を発表しました。熱いコメントもたくさんお寄せいただいたので、できる範囲で増産してプレゼントを続けています。
「ビール会社として何ができるんだろう」という所からぶれない企画がファンへの共感もぐっとつかむポイントですよね。
愛される製品をつくるためのこだわり
製品づくりへのこだわりもぜひ教えてください。新製品はどのように企画・生産されているのですか?
望月さん:
最近は昔よりも洗練されてきて、製品づくりの型ができてきました。とはいえ、アイデアの種はいろいろとあっても、1年間に開発できる新しいビールはせいぜい数種類です。
新製品開発の流れは、マーケティング部門と経営陣で来年はこのタイプを優先的にやろうと方針を決め、マーケ・製造・販売を担当するユニットが中心となってチームメンバーを募集し、ターゲットや発売時期、お題を決めて開発を進めるパターンが多いですね。
企画の最初の段階で、このビールは誰に一番飲んでもらいたいか、誰のためのビールならいいかと突き詰め、時間をかけてペルソナを設定しています。
塚田さん:
ネーミングにもこだわっていますね。ちなみに、「よなよなエール」は「夜な夜な飲んでほしい」という願いを込めて名づけられました。
望月さん:
最近「正気のサタン」という醸造系クラフトドリンク(ノンアルコール飲料)をリリースしたのですが、製品開発の経緯やネーミングの没案、裏話などをブランドサイトですべて明かしています。
公開している文字数は24955文字と驚異的ですが、製品に興味を持っていただける内容なので読んだら飲みたくなりますよ。ネーミングの没案もすべて載せているので、チェックしてみてくださいね。
ネットでの販売に力を入れてきた理由
メーカーでありながら早くからネットでの販売をされていますが、どういった理由があったのですか?
望月さん:
ネットでの販売に取り組まざるを得なかった、というのが理由です。
初期の地ビールブームの時期は全国的にも引く手あまたで、いろいろな販売店さんが当社製品を棚に置いてくれていました。ところが、ブームが去ると問屋さんにも小売店さんにも「地ビールは置いても売れないからいいよ」と、地元以外の地域では並べてもらえなくなりました。
最後の販路として残っていたのが楽天市場のEC店舗だったので、当時は代表一人で運営していたのですが、不退転の決意で取り組んだんですね。四苦八苦しながらも少しずつお客様が増えていき、軌道に乗り始めた時期とネット通販の利用者が拡大した時期が重なったのも追い風となって、ブランドの知名度が格段に向上しました。
ネット販売での知名度が上がったことで嬉しい波及効果もあり、再び実店舗に置いてもらえるようになったんですね。人気に火がつくと、それまでまったく取り合ってくれなかった一般流通先からも声がかかるようになって一気に裾野が広がっていきました。
本店(自社のネットショップ)はどういった経緯で開設にいたったのですか?
望月さん:
多店舗展開をめざして楽天市場の店舗を軸に、まず各種ショッピングモールへの出店・退店を繰り返していきました。
将来的に自社ドメインのお店を持つことを夢に描きながらも、リソースやスキルなどの制約があって実現できない時期が続いていたのですが、モールでの定期購入の会員が増えてきたことが突破口となって、本店を構えることができました。
当時は単品通販会社が採用していたシステムを使ってランディングページを作り、そこで売れるようになってから本店を発展させていきました。
当社の定期コース(サブスク)は特殊で、一般的な定期販売は1ケース24本、同じ銘柄で届きますが、当社は「毎回お好きなものを1本単位で自由に選択できるサブスク」というスタイルで販売しています。定番で値ごろ感ある「よなよなエール」だけでなく、300円台の限定ビールも選べます。
定期販売を始めた当時は「よなよなエール」24本分の価格で提供していて、限定ビールを選ぶほどお得になるということで、たくさんの年間契約の獲得につながりLTVを上げることができました。
ネットショップでのファン獲得施策は「コンテンツ発信」と「サプライズ」
定期販売での購入、かなりお得ですね。本店(自社ネットショップ)でファンに向けて注力していることはありますか?
望月さん:
コンテンツの発信では、ビールに合うおつまみや、ビールに関する深めのトリビア、ビール好きのスタッフがどういう風にビールを楽しんでいるかなど、いろんなコンテンツを織りまぜながら発信しています。
発送もこだわっていて、いろいろと工夫しています。
購入者には驚きも一緒にお届けしたいので、外装は一般的なダンボール箱なのに開けると内側に素敵な印刷が施されていたり、面白い情報誌が入っていたりと、さまざまなサプライズを用意してきました。
初めて購入される方向けの「クラフトビール はじめてセット」のパッケージも自信作です。
はじめてセットは、はじめ2本だったのが4本になったんですが、4本を立てて入れてしまうと、開けたときに缶の上(プルトップ)が並んで見えるだけの殺風景なものなんですよね。箱の大きさや重さとかを考えつつどうにか素敵な梱包ができないかと悩んでいたんです。
そんな時、あるスタッフが『4本を5本に増やし、増えた1本を寝かせて斜めにいれることで、箱の大きさも送料レンジのちょうどいいところに収まり、「よなよなエール」のラベルが目立つようにおさまる』という天才的な思いつきをしたんです。
その奇跡的なアイデアがあって、今でもうちのはじめてセットのパッケージは自信作ですね。
ファン作りのために、ヤッホーブルーイングが大切にしている「チームワーク」
ヤッホーブルーイングさんは、皆さん全員がお客様を喜ばせるような動きをされている印象を持っているのですが、組織作りにその秘密があるのでしょうか?
望月さん:
そうですね。「チームビルディング」を取り入れて、チームワークを大切にしています。
部署横断的なユニットを組んで各プロジェクトを進めているのですが、タスクはどれくらい達成できているか、成果を出せているか、相互協力できているか、信頼関係を築けているか、言いたいことを言える環境かといった、チームの「状態に関する」振り返りを何度も行なっています。
プロジェクトのメンバー集めは、社内公募の場合もあれば、必要な部署にお願いしてアサインしてもらうこともあります。業務的なプロジェクト以外にも、地元のお掃除や醸造所見学ツアーなどもプロジェクト制なので、基本的には手を挙げて取り組んでもらっていますね。
代表がチームビルディングを導入した理由は、いいチーム、いい会社で、みんなで成果を上げて喜びを分かち合いたいからなんです。地ビールブームが去って売上が低迷していた時期に、社内の雰囲気がギスギスしたこともあります。
そんなときに、強制ではなく社員の自主性に任せてチームビルディングの研修を始めて、最初は半信半疑の人が多かったのですが、業務で成果が出はじめると少しずつ参加者が増えていき、半数を超えたころには社内の雰囲気が変わったなと感じるようになりました。
今は、入社時にチームビルディングの大切さを伝えて、社風として根づかせています。創業当初からのストーリーやチームビルディングについては、代表の著書『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります』に詳述されています。
ヤッホーブルーイングが今後目指すもの
今後の発展に向け目指しているものをお伺いしてもいいですか?
望月さん:
日本中のビール好きな方に「よなよなエール」を覚えていただきたい、好きになっていただきたいと考えています。
ネットショップで言いますと、製品を探す方にはノーストレスで購入ができるように整え、買ってくれたお客様には最高の体験をしていただきたいと思っています。
ダイレクトに熱いファンを獲得しやすいチャネルがネットショップなので、今後は「おもしろい会社だな」と興味を持ってくれた方に向けて、熱量が上がる体験やビールの知識が深まるコンテンツを提供することによりいっそう力を入れていきたいです。
最後に、ネットショップをこれから始めたいと考えている方、すでに運営されているネットショップオーナーさんへ、エールをおねがいします!
望月さん:
インターネット上には膨大な量の情報が飛び交っているので、認知を獲得してお店に来てもらうのも簡単ではありません。最初のうちは、ネットショップをオープンしてもお客様が来ないことはざらにあります。
SNSを使ったPR方法など集客のテクニカルな情報があふれていますが、お店を始めたばかりとか、熱いファンを作りたいと考えているオーナーさんは、まずは購入履歴のあるお客様に注目してみてください。
どんな商材でも買ってくれた理由があるはずなので、「なぜ選んでくれたのか」という点に着目して深掘りしていくと自社やお店の強みが見えてきます。その強みに、どんなお店にしたいかといった目標を掛け合わせれば、成長ストーリーが明確になってくると思います。
当社もベンチャー企業として同じ状況を経験してきたので、中小のEC事業者様にはとてもシンパシーを感じています。ぜひ目の前のお客様にじっくりと目を向けて、自社なりのコミュニケーション方法を見つけてみてくださいね。
望月さん、塚田さん本日はありがとうございました。