ECサイト開設・運営のヒントが見つかるWebメディア

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新しい味を作るのは、地域の味を守るため。創業160年「光浦醸造」が貫く伝統と革新のものづくり

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
1865年創業の小さな醸造所。味噌や醤油などの伝統調味料を作り続けることで地元山口の食文化を支えながら、全国のセレクトショップでも人気の「フロートレモンティー」をはじめとした新商品の開発・製造にも取り組んでいます。今回は代表の光浦健太郎さんに、ECサイト開設のきっかけ、ものづくりへのこだわり、今後の展望などについて詳しく伺いました。

中身もパッケージもECも、すべて自分たちで作る

まずは光浦醸造さんについて教えてください。

山口県の防府市というところで味噌や醤油を作り続けて、今年で160年を迎えました。
とはいえ、つい20年ほど前までは業務用商品が中心でしたので、地元では「そんな会社あったんだ」って感じの知名度だったと思います。近年は少しずつ家庭用の商品ラインナップが増え、味噌や醤油だけでなくレモンティーや甘酒、パンなども作り始めたことで、徐々に県内外の一般消費者にも広まってきている状況ですね。

160年! 光浦さんで8代目とのことですから、かなり長い歴史ですよね。

いえいえ、この業界ではどこの会社もそれぐらいなんですよ。創業して日の浅い味噌屋さんなんてめったにないですからね。ほとんどは4代目以上なんじゃないかな。

光浦さんが家業を継ごうと決心したのはいつ頃ですか。

僕は醸造学科のある大学に入ったので、高校卒業前にはいずれ自分が継ぐだろうと覚悟はしていました。

この業界の大きな課題って「事業継承」なんです。赤字で倒産してしまうというよりは、みんな後継者がいないままやめていってしまう。僕がこの業界に入ってから数えても、県内だけでも20社くらいはそういう理由で廃業してしまいました。なのでうちの親父からすると、僕に継がせることが最大の目標だったようです。

業務用だけでなく家庭用の商品を作り始めたのは光浦さんの代に替わってからですよね。どういったきっかけで?

小さい会社がtoBをやると、どうしても特定の取引先への売上依存度が高くなりがちです。好景気の時期は、地域貢献の観点から地元企業を優先的に採用してくれる大手企業もありますが、不況で苦しくなるとそれも一変してしまいます。結果として、たとえば売上の10%を一気にドカンと失うことにもなりかねない状況だったので、リスク分散のため少しずつtoCの商品展開を進めることになりました。

手始めに、うちの会社のホームページ兼ECサイトを作ったのが2003~04年ごろでした。
「味噌づくりには手間暇がかかる」ってよく言われるじゃないですか。確かに手間はかかりますが、仕込み作業のあと麹が仕事してくれるのを待つ間は、暇なときもけっこうあるんですよね。暇つぶしに何かやってみようと思って電気屋さんを覗いたところ、ちょうど「ホームページビルダー7」が発売されていて、ついつい衝動買いしてしまいました。そしたら一気にのめり込んじゃって。

その当時は個人でホームページ作りにハマる人が多かったですよね。

画像や文字を上から降らせたりしてね(笑)。最初はテンプレートを使って「ここってこう動くんだ」とか試すうちにどんどんハマって、それでうちのホームページを作ってみたんですよ。

でも、いざ商品を並べてみると、最小でも「味噌20kg」、醤油なら「一升瓶6本セット」みたいなものしかなかったんです。せっかくホームページ作ってもこれじゃ買ってくれる人はいないだろうなと思って。

それで家庭用の商品作りに着手したんですね。

順番としてはそんな流れです。味噌や醤油の小さいサイズはもちろん、ポン酢とかも作るようになりました。

まさか商品よりもホームページのほうが先だったとは……。

(笑)。タグがたった1文字抜けてるせいでうまく動かなかったり、カラム落ちと格闘したり、みんなのホームページを見に行ったり、そんな時間が楽しかったし、ホームページを作る体験がすべての始まりになったのは間違いないですね。それが僕にとって“ものづくり”の原点になりました。

光浦醸造のECサイトって実は今でも自作なんですよ。最初はホームページビルダーに頼っていましたが、自分で作ってみて足りないものをどんどん加えていった結果、今のサイトになりました。

驚きました。売上規模が大きくなった今も外注せず、ご自身で制作しているのはなぜですか。

こんなに楽しい仕事、他の人に譲るのはもったいないなって。一度でも外部に委託したら二度と自分ではやらなくなっちゃうじゃないですか。パッケージデザインも「よく自分で作りますね」と驚かれますけど、楽しい仕事を誰かに任せて味噌だけ作れだなんて酷な話ですよね(笑)。

「ものづくり」って一体どこまで作ることなんだろう?とよく考えるんです。パッケージデザインを外部のデザイナーさんにお願いしたこともありますが、中身を自分たちで作っても見た目は誰かに任せちゃうことには違和感が拭えなくて。パッケージもプロモーションもホームページも、最後まで自分たちでこだわったものづくりを極めたいから、デザインの外注は一切しなくなりました。

憧れの存在や、参考にしているサイトはありますか。

「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムさんは昔から大好きな会社です。
シンプルで飾らない雰囲気や、暮らしとのつながりが感じられるサイト作りはうちでも大切にしていますし、パッケージデザインに関しても色数をできるだけ少なくしたり、あまり直接的なことは書かないといったところは「北欧~」さんに影響を受けました。

うちのレモンティーのパッケージも、でかでかと「レモン入ってます!」とは書かず、暗喩的な表現で「なんとなくいいな」と思ってもらえることを目指したデザインになっています。
まあ、もともとうちは本当にお金がなかったので、パッケージもできるだけ少ない色で作ったほうが安いからずっとそうしてきたんですけど、それがいつしか「光浦醸造らしさ」になりましたね。

「山口=麦味噌」の地域性を守りたい

味噌や醤油以外に、レモンティーやパンなどの新しい商品を作ったのはなぜでしょうか。

結論、自分たちの味噌を変えたくなかったからですね。
うちの味噌は正直すでに「ゴール」だと僕は思っているので、むやみに革新する必要はないし、すでにゴールしたものとしてこの先も真面目に作り続けたいんです。売上が落ちてきたから改良しなきゃ!とか、“ピザにつける味噌”を作ってみよう!とか、そんなことはしたくなくて。

毎日使ってもらえる価格で、とにかくうまい味噌汁が飲める味噌を作り続ける。それを会社として一番の目標に据えた上で、じゃあどうすればいいのか?と考えたら、必然的に会社を大きくしていく必要がある。だから「味噌以外のもの」を作らなきゃいけないわけです。

なるほど。

味噌と真剣に向き合えば向き合うほど、ダントツで最も大切なのは「地域性」だとわかってくるんですよ。全国でたった4%しか作られていない麦味噌も、山口県では約8割の人が使っている。これこそが地域性であり、その土地の文化と呼べるものじゃないですか。

国内で高いシェアを誇る大手メーカーの醤油がなかなか九州に入っていけないのは、九州の人たちが甘い醤油をずっと使い続けているからです。食の地域性を守ることは、小さなメーカーにとっては自己防衛にもなるんですよね。うちも今では東京が大きな商圏になりましたが、いくら売れるからといって東京に合わせた味噌を作りはじめたら、地元の麦味噌文化が変わってしまいかねないので、今後もあくまで麦味噌にこだわり続けます。

やはり時代とともに地域性が変わってしまうこともあるのでしょうか。

そうですね。かつては福岡県も麦味噌の文化圏でしたが、ほかの地域から人口が流入したことで徐々に米味噌の文化が進出し、今では合わせ味噌が主流になりつつあります。

ちなみに、味噌や醤油と同じように、昔は「お酢」にも地域性がありました。大手メーカーさんが安くていいものを大量生産したことで全国に広まり、だんだん個性が失われていったんですけど。

食文化って知らず知らずのうちに変化しているんですね……! 大人気の「フロートレモンティー」はどのようにして生まれた商品ですか。

たまたま高校の同級生だった友人が乾燥機メーカーを営んでいたので、「ちょっと一緒に何か作ってみようか」となって。その会社の試験室にたまたま輪切りの乾燥オレンジが置いてあったんですよね。大根や人参などの野菜を乾燥させてクシャクシャにしたやつは昔からありますけど、柑橘類を輪切りのままきれいに乾燥させてあるのは珍しいなと思って。「単純に紅茶と組み合わせたらいいんじゃないの?」と提案したのがはじまりです。

光浦醸造さんと同じようなレモンティーって、今でもあまり見かけませんよね。

いわゆるフリーズドライとは違う製法なんですよ。一時期いろんなメーカーさんが真似しようとしてたけど、結局どこも続いてないようです。なかなか簡単には真似できないと思いますよ。

AI活用で商品開発の速度が大幅アップ

商品を開発する上でのこだわりはありますか。

ググっても作り方が載ってないものを作りたいですね。検索したらレシピが出てきちゃう時点でモチベーションが上がらないんですよ。そのせいで商品開発がなかなか進まなかったり、途中で頓挫してしまったりするのが悩みでしたが、最近はAIを活用しながら商品開発を行っています。

商品開発にもAIが使えるんですね!

なんかね、AI使って考えるのが最近すごくおもしろいんですよ。

いろいろな分析値をAIに伝えながら「こういうものを作りたい」と相談してみると、向こうからどんどん指示してくれるんです。「最初はこの3つのパターンで作ってみてください」とかね。それで成功したら「じゃあ次はこのパターンでどうでしょう?」という感じでまた提案してくれる。
商品開発って本来非常に時間がかかりますが、AIを壁打ち相手として利用した結果、開発速度がかなり上がりました。この夏の新商品「スースーレモン」も、AIと一緒に作ったものの一つです。

スースーレモンとはどんな商品ですか。

天然ミントの香りと味わいをまとわせたドライレモンです。夏に売れる商品が少ないので、うちの商品ラインナップをAIにまるごと分析してもらった上で「新しくいいもの作れないかな?」っていう相談から始まって。そこで提案してもらった「スースーレモン」はまだ世の中にない、ググっても出てこないアイデアだったのでおもしろいなと思いました。

ミントの香りの付け方やその揮発具合など、科学的なアドバイスとともに製法を細かく検討・開発し、人間だけで進めたら年単位で時間がかかりそうなところをわずか2週間で商品化できました。

すごいスピード感ですね。今後も新商品開発には力を入れていく予定ですか。

そうですね。正直作ろうと思ったらいくらでも作れるような状況になりましたから。もちろん作ったからには売らなきゃいけないので、それも含めてもっと頑張らないとなと思います。

AIが台頭することによって、今後ものづくりのあり方、産業のあり方が根本から見直されていくのは間違いないでしょう。僕らは手触りのあるものを人の手でずっと作ってきましたが、これからの時代はものづくりとAIを上手に組み合わせられる会社が強くいられると確信しています。

地域の食文化を支える存在として

光浦醸造さんはカラーミーショップを長年使い続けてくださっていますが、その理由を教えてください。

やっぱり同じ「老舗」として共感できる部分が大きいことですね。老舗には老舗なりの努力と苦労があるっていうのが、僕自身とてもよくわかるんです。カラーミーショップは長年運営してきた積み重ねがサービスの随所に感じられるし、ユーザーとの向き合い方も温かみがあって真摯なので、そこに共感していますし、長く使い続けたいと思えるサービスだなと。

ありがとうございます。最近「プレミアムプラン」に切り替えたのはなぜですか。

ECサイトの受注処理や発送を行うスタッフは数名いますが、サイト運営は僕がメインなんですよね。気分が乗ったときだけ管理画面を触って、他のタスクに追われてるときは何か月も放ったらかしにすることも多くて。だけど社長の僕には誰も催促してくれないので(笑)、誰かに見ていてもらわなきゃなと思ったのが理由です。

ECアドバイザー(※)は、僕の代わりにグイグイやってくれるというよりは「僕を管理してくれる人」みたいな存在ですね。最初の数か月間、言われたことをとにかく全部やってみただけで一気にいろいろ改善されました。

※ カラーミーショップ「プレミアムプラン」限定のサービス。各ショップ専属のECアドバイザーが、ショップ運営の課題解決に向けた提案を行う。

今後、 ECサイトをどのように展開していきたいですか。

ECサイトの売上は上半期だけでも昨対比200%くらいまで伸びました。ここまでは想定の範囲内でしたが、ここからさらに成長していくのはなかなか大変だと思うんです。でも、他社事例を見てみると「できなくもない」という気がしてきたので、下半期でさらにもう200%上げるのを具体的な数値目標としています。

メルマガや広告施策は一切やってなかったけど最近始めてみて、その反響の大きさに驚いています。そういう「当然やるべき施策」をしっかり進めていくのも大切にしたいですね。

メルマガも広告もなしでここまでやってこられたんですね……!

僕自身がメルマガ届くの大っ嫌いだったから(笑)。だけど、もっと早くやればよかったです。
広告も出さないポリシーだった、というか単純にお金がないから出せなかったんですけど、昨年フロートレモンティーのインスタ広告を出してみたら、そこからの流入がすごくて。EC運営20年目にして「広告ってすごいんだ!」という発見がありました。これはお金払う価値あるなと。

まだまだ売上の伸びしろが大きそうですね!
今後の展望や目標についてもお聞かせください。「光浦醸造」としては今後どうありたいですか。

やっぱりある程度は会社としての規模感がないと、文化を守ることも影響を与えることもできないと思います。まったく影響力のない人が「文化を守る」と口で言っても説得力は生まれないじゃないですか。なので僕らが麦味噌文化の代表になるくらいの気持ちで事業を大きくしていきたいです。

作ってばかり、楽しいことをやってばかりの会社なので、今の現実的な目標としては、作ったものをきちんと売って収益にしていくことでしょうか。さっき僕は「最後まで自分たちでこだわったものづくりを極めたい」と言いましたが、突き詰めていくと、そうやって作った商品を収益化するところまでがものづくりなんですよね。

冒頭のお話にもありましたが、事業の継承という観点では今どのようにお考えですか。

今は自分たちのことで精一杯なので次世代のことまでは考えられないですが、地域性を守るという意味でも、そう簡単にはやめられないなという思いがあります。味噌屋は新規参入の極めて少ない業界ですから、地域の文化を支える存在として責任を果たさなくてはいけません。とにかく今は、魅力的な会社にすることでいつか誰かが継いでくれる形にしておきたいですね。

光浦醸造さんの歴史がさらに200年、300年と続いていくと思うとワクワクします。今日はすてきなお話をありがとうございました!