ECサイト開設・運営のヒントが見つかるWebメディア

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心をくすぐる商品展開が大好評。ファンとの絆と愛着を深める「ラーメン山岡家」のEC戦略

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
全国各地のロードサイドを中心に190店舗を展開する人気ラーメンチェーン。「ガツンと来て、くせになる。」のキャッチフレーズのとおり、濃厚な豚骨スープをベースとした低価格なラーメンが人気を博しています。今回は、同店の公式ECサイト「山岡家商店」を運営する、株式会社丸千代山岡家の橋本 芳麿さん、萩原 素彦さんに、ECサイト開設のきっかけや人気商品、今後の目標などについて詳しく伺いました。

熱いファンに愛され続ける人気ラーメンチェーン

まず、山岡家さんについて教えてください。

橋本さん
私たち「ラーメン山岡家」は、1988年に茨城県で創業して以来、素材から炊き上げた濃厚豚骨スープをベースとしたラーメンを、ほぼ全店24時間年中無休で提供しています。
現在は全国各地に190店舗を展開しており、月間平均のべ150万人のお客さまにご来店いただいています。

開設から約9年間ECサイト運営に携わってきた橋本さん。現在は山岡家のラーメンの卸事業も手がける

山岡家さんのファンはどういった方が多いですか?

橋本さん
週に何度も通われるような、熱心なファンの方が多い印象ですね。

萩原さん
当店は基本的に駐車場のある郊外型店舗を展開しているので、建設作業員やトラック運転手など、体力仕事をされている30~50代男性の方が中心です。ただ最近は、YouTubeやSNSの効果で女性お一人のお客さまも非常に増えてきています。
公式アプリの利用者は20~30代男性が圧倒的に多く、かなり幅広い世代を取り込めているのを感じています。

橋本さんからEC事業を引き継いだ萩原さん。SNSや公式アプリの運用も担当している

熱心なファン作りに秘訣はありますか?

橋本さん
秘訣と呼べるものはありませんが、私たちは、山岡家の味を支持してくださる方をできる限り大切にすることをモットーとしています。創業者自身、「山岡家の味を好む方が数パーセントしかいない地域でも、その人たちのために出店する」という方針で店舗を増やしてきた経緯があり、それが各地でコアなファンが増えていった要因ではないかと思います。

また、多くの方に支持されている理由の一つには「安さ」もあるのかもしれません。山岡家ではスタンダードな醤油・味噌・塩味を690円で提供しています。手頃な価格で利用しやすいので、好きな方が長年通い続けてくださっているのだと思います。

ブランディングと認知拡大を目的にEC開設

ECサイト『山岡家商店』を立ち上げたきっかけについて教えてください。

橋本さん
新たな顧客との接点を店舗の外で模索する中で、もっとも近道だと考えられたのがECでした。そこで、自社ECの展開を目指すことになったと聞いています。

山岡家さんがECを立ち上げた背景には、どのような目的があったのでしょうか。

橋本さん
転勤などの事情で店舗のない地域へお引っ越しされる方にも、引き続き山岡家の味を楽しんでいただけるようにすること、そして未進出地域の方々にも山岡家の味を知っていただくこと。この2つを主な目的としていました。その結果として企業イメージが向上し、採用面でもプラスになればと考えていましたね。

自社ECは、ブランディングと認知拡大のために立ち上げたのですね。

橋本さん
当初はそうでしたが、今は一事業として、収益拡大も目標に掲げています。

ECサイトのオープン後、ファンの方の反応はいかがでしたか?

橋本さん
当初は「お店と同じ味が出せるわけがない」という厳しい声も上がりましたが、お店を愛してくださっているからこその温かいご意見として受け止めていました。
今ではコアなファンの方もECサイトを利用されているようで、「味の再現性が高い」とレビューをいただくこともあります。

最小限の人数でECサイトを運用

山岡家さんでは8年ほど前からカラーミーショップをご利用いただいておりますが、当サービスをお選びになった理由は何でしたか。

橋本さん
ECサイトを始める話が社内で持ち上がったとき、山岡家にはモールではなく自社ECが適していると考え、自社ECの構築サービスを探していました。

いくつかの他社サービスとも比較検討した中で、最もコスパに優れていたのがカラーミーショップでした。低予算でも機能を幅広く実装できる点が決め手になりましたね。

ありがとうございます。現在は何名で運用されていますか?

橋本さん
本社には約70名が所属していますが、ECの担当者は私1人だけでした。発注や原料の仕入れなどは、ほかのスタッフにも兼務で手伝ってもらっています。
ただ、最近部署異動が決まったので、今後のECサイトの運用は萩原に任せるつもりです。

萩原さんは、これまでどのような業務を担当されてきたのですか。

橋本さん
萩原はSNSでの情報発信をはじめ、山岡家全体の広報や販促活動を担ってきました。実はファンの間では有名人なんですよ。以前お客さまを招いて新メニューの試食会を開催した際、サインを求められてたよね?(笑)

萩原さん
SNSで「ヘルプで店頭に立ちます」と告知したところ、わざわざ私に会いに来てくださったファンの方もいました。山岡家には熱いファンの方が多いので、ありがたく思っています。

商品の配送体制についても教えていただけますか。

橋本さん
現在は3社に配送を委託しています。そのうち1社は、生麺の開発でもお付き合いのある新潟の麺工場さんです。当初は生麺とそれに付随する材料のセットアップと発送作業をお願いしていましたが、今では他の商品の発送もご厚意で対応してもらっています。ECサイト全体の受注のうち約9割は新潟から発送していますが、発送作業の精度が高く、梱包ミスも少なくて非常に助かっています。

再現性の高いラーメンと公式グッズが好評

味の再現性など、EC用の商品開発で苦労したことはありますか。

橋本さん
ご家庭向けの商品開発では、必ずしも人気順に商品化できるわけではありません。店の味を再現するのが難しいものもあるため、発売の順番を調整する必要がありました。
たとえば、山岡家の源流にして一番人気を誇るのは醤油味ですが、店舗で豚骨を丸3日間炊いて作る醤油だれを再現するのにはかなりの時間を要しました。そのため、2番目に人気で比較的味を再現しやすい特製味噌を先に開発し、ECサイトでの発売を始めました。

商品開発にはどのくらいの時間がかかりましたか。

橋本さん
生麺やチャーシューの開発には約3か月、乾麺は半年以上かかりました。とくに乾麺は一からの開発だったので、原料の配合から茹で時間まで細かい調整を要しましたね。
山岡家では、実店舗でもECサイトでも、創業者でもある会長のお墨付きを得られた食品だけが世に出せることになっています。当然、味の再現性が高くなければ発売の許可は下りませんので、商品開発にはかなり力を入れています。

ECではグッズも販売されていますね。

橋本さん
雑貨やアパレルなどの商品を扱っています。ダントツ人気は、店舗でも使用しているオリジナル丼で、取扱いを始めた約8年前から、月に250~300個はコンスタントに売れ続けています。

かなり売れていますね。丼はなぜ人気が高いのですか?

橋本さん
ラーメンもそうなのですが、想定以上にギフト需要が高く、大学生への入学祝いや、一人暮らしの方へのプレゼントなど、幅広い用途で重宝されています。
大きなラーメン丼って、あるといろいろ便利なんです。一般的に、蕎麦やうどん用の丼はあってもラーメン丼はなかなかお持ちでないことが多いので、もらえると嬉しいかもしれません。

ほかにはどんなグッズが人気でしょうか。

橋本さん
次に人気なのがスマホケースです。海苔やスープなどユニークで目を引く柄が好評で、安定的に注文が入っています。また、コロナ禍の2019年から販売を開始したパーカーやトレーナーも人気があります。
創業者の一言でグッズ販売を始めましたが、レア感のあるグッズはファン心をくすぐるようで、売れ行きも好調です。

山岡家さんのスマホケース、一度見たら忘れられないインパクトですよね。アパレルを展開し始めたきっかけについても教えていただけますか。

橋本さん
もともと山岡家では、来店してサービス券を50枚集めるとオリジナルTシャツと交換できるという特典を提供しています。そのTシャツが、過去最高で月に1,900枚交換されるほど人気だったため、アパレルへのニーズを感じ、取り扱いを始めました。

萩原さん
ちなみに、オリジナルTシャツはECで購入できないので、店頭での50枚交換を目標に、年間450杯のラーメンを召し上がっている熱烈なファンの方もいらっしゃいます。

Tシャツのために1日何杯も食べていらっしゃるんですね……! たくさんの商品を開発されていますが、自社EC以外にも販路はありますか?

橋本さん
外販事業として卸売の販路を広げており、昨年からは海外展開も始めました。ただ、海外向けの卸売では各国の規程に従う必要があるため、慎重に準備を進めています。
まだまだこれからですが、今後のさらなる販路拡大を目指して力を入れて取り組んでいます。

広告宣伝に頼らずSNSやアプリで地道に販売促進

ECサイトの集客手段について教えてください。

橋本さん
山岡家では実店舗の集客を優先しているため、ECの広告宣伝はほとんど行っていません。店舗の掲示物でECサイトの告知をすることもありますが、ラーメンを食べに来てくださっているお客さまには、ECよりも優先的に伝えるべきことが多いので、大々的にPRしづらいのが実情ですね。

では、ECサイトの認知拡大や顧客との接点を増やすために、どういった手法を活用されていますか?

萩原さん
基本的にはX、Instagram、FacebookなどのSNSでコツコツと認知拡大を図っています。以前は公式LINEも活用していました。カラーミーショップの機能を活用してメルマガを配信することもありますね。

いちばん反応がいいSNSはどれですか?

萩原さん
それぞれのSNSで、実店舗「ラーメン山岡家」とECサイト「山岡家商店」の2つのアカウントを運用しています。フォロワー数で比較すると、「山岡家商店」はXとInstagramで約1.1万人ずつ、Facebookは約5,000人。「ラーメン山岡家」は、Xが約5.2万人、Instagramが3.6万人、Facebookが約2万人です。どちらもXが比較的反応がよい印象です。

その他のチャネルの効果はいかがですか?

橋本さん
SNS以外では、お客さまとダイレクトにつながれる公式LINEも販促効果が高く、以前は店舗ごとに運用していました。現在は公式アプリを開発したので、『山岡家商店』以外のLINEアカウントはすべてクローズしています。

萩原さん
公式アプリは2024年10月にリリースして、約半年間で約127万ダウンロードを突破しました。今後は、配送体制などの環境が整い次第、アプリユーザーへの配信に積極的に取り組む方針です。

配送体制の強化を検討されているのは、どういった理由からですか?

橋本さん
いくら現状の配送体制が整っていると言っても、やみくもに販促を実施すればパンクしてしまいますからね。あらかじめ委託先や社内の人員を増やすなどの対策が不可欠になっています。

実際にパンクしたこともあったのでしょうか?

橋本さん
アプリでオリジナル丼について配信した際、月1,000個以上の注文が入ったことがあります。通常の在庫数の4倍以上もの反応をいただき、対応が追いつかないほどでした。

また、販促ではないのですが、『山岡家商店』の告知のためにトレーナーのイメージ画像を掲載したところ、瞬間風速で200着の注文が入って在庫不足になったこともあります。どちらもお届けまでに長くお時間をいただいてしまいました。

たった1枚の写真でも、アプリ会員からの反応はものすごく大きいんですね……!

橋本さん
特にグッズやノベルティーの告知に対する反応は、食品に関する告知よりも大きいと感じます。

萩原さん
ノベルティーでは非売品のカレンダーも人気ですね。

橋本さん
そうですね。毎年12月に、6,000円以上お買い上げいただいた希望者全員にオリジナルカレンダーをお送りしていまして、その月の注文単価は、通常月よりも1,000円前後高くなっています。

他にも反響の大きかった販促施策はありましたか?

橋本さん
当社の販促活動ではありませんが、インスタントラーメンマニアとして有名な方が、とある朝の情報番組で山岡家の特製味噌を紹介してくださったことがありました。このときも、午前中からスマホの受注通知が鳴り止みませんでしたね。

萩原さん
YouTuberの方々の紹介動画もインパクトが大きく、有名なラーメンYouTuberさんにご紹介いただいたことで、ラーメンの不動の人気順位が入れ替わったこともありました。

アプリの活用で売上10倍アップを目指したい

ECサイトを約9年間運営されてきて、いちばん嬉しかったことはどんなことでしょうか。

橋本さん
やはり最初の注文が入った瞬間が忘れられません。これは実店舗でも同じで、最初の一杯を提供する瞬間は何度経験しても嬉しいものです。

逆に、苦労されていることはありますか?

橋本さん
代引のご利用で、月に1~2件ほど受取拒否をされることがあります。理由はさまざまですが、ご本人以外がイタズラで注文するケースもあるようです。とはいえ代引にもニーズがあり、簡単にやめることはできないため、せめてもの対策として「連絡先を明記してください」「発送後の返品不可」などの注意書きを明記しています。

今後のECの運用方針として、どんなことをお考えでしょうか?

橋本さん
さらなる成長を実現するために、アプリの活用を最優先に考えています。
体力のある大企業なら、最初は赤字でも広告に投資し続けて数年で黒字化するという方法を選べますが、山岡家向きではありません。成長スピードはゆるやかかもしれませんが、熱いファンの方たちとの絆を深めていくほうが我々には合っていると感じます。

EC事業の将来的な目標について教えてください。

橋本さん
社長からは、「事業として成り立たせるために現状の10倍を目標に」と提示されています。社長は学生時代から30数年山岡家で働いて社長になった人物で、会長とは長年にわたり苦楽をともにしてきた仲です。その社長から大きな数値目標を提示されることは、EC事業への期待の現れだと受け止めています。

萩原さん
私がEC事業を引き継いだからには、売上目標達成に向けて努力を重ね、まずは3倍、5倍と段階的に実現させていきたいと思います!