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三宿にある実店舗でお話を伺います
このお店はいつ頃から始まったんですか。
2016年の3月からなので、もうすぐ1年半になります。
おだしというと「料理に使うもの」というイメージですが、それを「のむ」という発想に至ったのは…?
料理って、おだしの上に食材や調味料をいろいろ足しながら完成させるものですよね。
でも料理の土台であるはずのおだしって、なかなかそのままで味わう機会がないなと思ったんです。
たしかに。わたしもせいぜい味見程度で、ゴクゴク飲むことはなかったです。
ないですよね。
わたし自身も、とある料理人さんのもとで初めておだしを飲んだとき「素材だけなのに、こんなにも旨味が出るんだ!」とかなり衝撃を受けまして。
香ばしいうえに味が濃すぎないので、大人も子どもも絶対好きになりますね。
おだしって素材のいいところだけを抽出しているすごく贅沢なものなので、そのすばらしさをもっと皆さんに知ってもらいたくて、このお店をはじめたんです。
なるほど!…おっ、なんだかカウンターからいい匂いがしてきましたね。
自然の素材だけで作った特製おだし。そのお味は…?
ドリッパーを使っておだしをとるんですね!
はい! ドリップすると香りがよく上がりますし、雑味も出にくいんです。
ティーパックや煮出しなど色々な方法を試してみましたが、香りと旨味のバランスはこれが一番よかったので、当店のおだしはすべてドリップ専用でお作りしています。
さあ、こちらが当店のオリジナル「鹿児島ブレンド」です。ぜひ飲んでみてください!
いただきます!
おだしってこんなに味がするんだ! 見た目よりもずっと満足感があります。
ありがとうございます。使っている素材はかつお節と昆布と椎茸だけなんですよ。香料や化学調味料などはいっさい加えていなくて、本当に素材の力だけ。
なるほど! お茶みたいな感覚ですいすい飲めちゃいます。
本当に良い素材じゃないと臭みが出てしまうので、こんなふうにおいしく飲むことはできないんです。
お好みで藻塩(もしお)をひとつまみ加えていただいてもおいしいですよ!
おだしと一緒に楽しむなら、どういった食べ物が合いますか?
スタンダードなのはやっぱり日本食です。おにぎりとか。あとは、こちらにあるもち米のおこげもよく合いますね。
おいしそう! 黒米を入れているんですね。
はい。国産のもち米と黒米を丁寧に蒸したあと、成形して揚げているため、サクサクの中にも少しモチッとした食感が楽しめるようになっています。
そのままおやつとして食べてもいいですし、おだしに浮かべて少しふやかしてから食べるのもおすすめです!
食感がすごく軽い! お米自体の味がしっかりしていて、後味までおいしい…。
これにも添加物が入っていないので、舌にイヤな感じがまったく残らないんです。
おこげってちょっと渋い食べ物ですけど、意外にお子さま人気も高くって。
お母さんがおだしを選んでいるときに横から「おせんべいほしい~」みたいな(笑)みんなおいしそうにポリポリ食べてます。
香ばしいうえに味が濃すぎないので、大人も子どもも絶対好きになりますね。
究極にシンプル。だからこそむずかしいおだし作り
せっかくですから、今日は他のおだしも試飲していってください!
次は玉ねぎブレンドなんていかがでしょう。
玉ねぎ…! 洋風のスープを想像しちゃいますね。
そうです、まさに洋風をイメージして作ったものなんです。藻塩を加えればちょっとした玉ねぎスープのような感覚で召し上がることもできますよ。
先ほどいただいた「鹿児島ブレンド」と比べると、おだしの色が非常に濃いですね。
これは玉ねぎならではの色です。
京都産の鰆(さわら)をベースとしたおだしなので、先ほどのかつおよりも力強い魚の風味が楽しめると思います。
…本当だ! さっきより魚の味がしっかりする。玉ねぎの香りも。
野菜を使ったおだしって意外と珍しいですよね。
そうですね。
現在販売しているのは玉ねぎブレンドと椎茸ブレンドの2種類ですが、ありとあらゆる野菜で試作はしています。トマトやゴーヤなんかも使ったりして。
ゴーヤのおだし!? まったく想像がつきません。
お蔵入りした商品もいくつかあります(笑)
香料や添加物を入れてしまえば松茸の味などもかんたんに再現できますが、100 %自然の素材だけで作るのって非常にむずかしいので。
素材の組み合わせなどに失敗してしまうこともあるんですか。
やっぱりありますよね。
料理にしても複雑なもののほうが案外簡単だったりするんです。いろいろ足しても最後に調節すればいいだけですから。
逆におだしは、余計なものを引いていった究極にシンプルなものなので、最後はやっぱり素材の良し悪しですべてが決まるんですよね。
身近すぎて誰も気づかない「日本のおだし」のすごさって?
海外にもおだしの文化はあると思いますが、日本のおだしとはどんな違いがあるんでしょう。
フランス料理のフォンドヴォー、アメリカで最近流行りのブロススープなどありますが、こちらは牛骨や野菜などを煮込んで旨みを出していくタイプのおだしです。
それに対して、かつお節はお湯をサッと通すだけでこれだけの旨味が一瞬にして出る。そんな食材、世界中どこを探しても絶対にないと思います。
当たり前すぎて考えたこともなかった…! かつお節ってすごいんですね。
そうなんです、みんな気づかないんですよ、あまりに身近すぎて。
でも本当はすごく大切だし、忘れちゃいけないところですよね。
日本食って奥が深いぶん、ちょっとハードルが高いじゃないですか。お茶の世界とかもしきたりが多すぎますし。
たしかに、なかなか近寄りがたいイメージです。
ね。あんまり小むずかしいこと言われたってやらないでしょう。
家でかつお節を削るにも今は皆さん忙しいし。確かに削りたてはおいしいですが、手間がかかりますしね…(笑)
なのでわたしたちは皆さんのハードルをなるべく下げて、もっとラフな感じでアレンジして楽しめるようにして。
ルールや型にはめるんじゃなくてまずは入り口から開けてみましょうよ、と(笑)
なるほど! 誰でも気軽に楽しめる位置に、このお店があるんですね。
そう。肩肘張ることなく、日本の食文化の素晴らしさを再認識するきっかけが作れればいいなって思いますね。
疲れたときに一息つける “おだしスタンド” を作りたい
これから、阿部さんがやってみたい取り組みはありますか。
今までにないようなかたちで、おだしの楽しみ方を提案してみたいです。たとえば街中のコーヒースタンドのようにおだしスタンドを作れないかな、とか。
おだしスタンド! あったらおもしろいですね。
うん、きっとおもしろいですよね。
丸の内とかのオフィス街で、お茶やコーヒー以外の選択肢としておだしを楽しんでもらえたらいいなって。
おだしスタンド、実現したらぜひお邪魔したいです! 今日は素敵なお話をありがとうございました。