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鍛冶職人の技を体感! 燕三条の庖丁メーカー・タダフサの工場を見学しました

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
鍛冶の町として有名な新潟県三条市にある株式会社タダフサさん。“基本の3本、次の1本”をコンセプトにしたブランド「庖丁工房タダフサ」で話題のメーカーです。人気の庖丁は、どんな場所でどんな人たちの手によってつくられているのか。気になる工場を見学させてもらいました。

こちらがタダフサさんの工場

昼間ですが、あまり明かりが入りませんね。

精密機械の工場なんかは明るいイメージですけど、うちは鍛冶工場。工程によっては金属や炎の色で加減を見極める必要があるので、あえて薄暗くしています。

案内してくれたのは番頭の大澤 真輝さん

鍛造と型抜き

鍛冶場というと日本刀みたいにハンマーでガンガン叩いてつくるイメージがありますが、庖丁のかたちづくりは、そうやってかたちづくる「自由鍛造(じゆうたんぞう)」とクッキーの型みたいにプレスする「型抜き」という方法があります。

鍛造でかたちづくられた庖丁

基本的にはこのどちらかでかたちをつくったあと「焼き入れ」という硬度を上げるための工程を経て、刃を研ぎ上げます。最後に「銘入れ(ないれ)」と「柄入れ(えいれ)」をしたら完成です。工程を細かく分ければ40~50ぐらいになるかもしれません。

細かい作業の連続だ…!

そうなんです。各作業にそれぞれ職人がいて、自分の作業が終わったら次の職人へ台車で庖丁を運んでいます。

ベルトコンベアとかではないんですね。

メドレーリレーみたいな感じでやっています。(笑) では鍛造からまわっていきますね。

熱と音が迫りくる 鍛造

今日は工場長が鍛造を担当しています。

よろしくおねがいします

めちゃくちゃ熱いですね、ここ!

ガス炉に火が入ってるんですけどこれが1000℃くらいかな。夏場は朝の早い時間だけやってます。

ではさっそく鍛造を見ていただきましょう。あっというまなのでシャッターチャンスを逃さないように。これが鉄と鋼がくっついている利器材と呼ばれるものなんですけど…

熱した利器材を炉から取り出して…

スプリングハンマーにセットしたら…



\ ガンガンガンガン!!!!!!! /

怒涛の勢いで叩かれる利器材

す、すごい勢い!!

足もとにあるペダルを踏むことでハンマーのスピードを調整しています。おおまかなかたちをつくりつつ厚みも調整していく作業なのでここが肝心要になります。

この工程を経ると四角い利器材が庖丁のかたちになる

 

焼入れと洗滌

かたちを整えたら「焼入れ」といって鋼を硬くする作業をします。焼入れすると、表面に黒肌が作られるので、刃になる部分を研ぐと黒と銀色の2色に分かれた絵に描いたような庖丁の見た目になります。ちなみに、この境目のことを“鎬(しのぎ)”と呼びます。「鎬を削る」という時の“しのぎ”ですね。

黒くなった刃の一部を磨くとこんなかんじではっきりと色が分かれる

歪取りと肉厚取り

ここでは焼入れで生じた金属の歪みを取っています。全行程のなかで何度か入ってくる作業になるんですけど。

さっきピアノの椅子に座っている職人さんを見かけましたがあちらは…

昔から工場にあるものだったり譲り受けたものだったり、みんなそれぞれ使いやすいものを使ってます。あそこにいる職人が座ってるのは三条のアウトドアメーカーの椅子ですね。(笑)

個性があっていいですね。あちらに海外の方もいらっしゃいますね。

今年入社した職人のひとりで、彼はオーストラリアの出身です。奥さんが燕市の方なので、マスオさん的な感じですね。
もともとものづくりがしたかったみたいで工場を見てもらって、それからしばらくして働くことになりましたね。

マスオさん…! いろんな方がいておもしろいなあ。次に見せていただく工程は何ですか?

次は「肉厚取り」と言って、庖丁の芯にあたるを残しながら左右から余計な金属の厚みを取る作業です。ここから、いよいよ切れ味をつくっていく作業になります。


 

空気を裂くような音が鳴る 研磨

ここではタイヤみたいに回転する機械に研磨材をセットして、粗いものから細かいものへと3~4工程に分けて研いでいます。

この段階だとまだ柄をつけていないので「研ぎづか」という道具に刃を固定して研磨していきます。

柄のついていない庖丁の刃に…

木枠のような「研ぎづか」をつけて研磨していきます。

事前にご連絡していた庖丁、お持ちですか…? せっかくなので研ぎ直ししますよ。

ありがとうございます! わたしの家に眠っていた庖丁なんですけど。

錆だらけのボロボロの庖丁。

おお。これ、錆も取っていいですか?

はい! お願いします。どうなるか楽しみです。

キイイイイイイイイン!!

それにしても…ここもすごい音ですね!

職人は全員耳栓をして作業しています。それでも鍛冶職人ならではの職業病といいますか、声が大きくなったり耳が遠くなったりはありますね。

 

最後は銘入れと柄入れ

庖丁を磨き終わったら、刻印などで銘をいれていきます。タダフサのロゴマークをいれるのもここです。

庖丁に刻まれたタダフサのロゴマーク

ちなみにこのヤットコ(つかみ箸)っていう道具がタダフサのロゴに使われているんですけど、これはどんどん変化するものづくりの中でもしっかりと道具を使って手仕事を継承していくぞという職人の覚悟の表れとして採用しています。

なのでこのロゴマークを捨てたときは、職人の魂を捨てたときだと思ってください。(笑)

あとは、今日はもう終わっちゃったんですけど柄入れをして検品したら出荷です。

 
そんなこんなであっというまに研ぎ直しが終わりました。

めちゃくちゃきれい…! 新品みたいです。

では切れ味拝見ということで、切ってみますか。
 

おもしろいくらいトマトが薄く切れる

いいんですか。

どうぞどうぞ。

きれいに線が入っています。

それが鋼の線ですね。

生まれ変わった庖丁

試しにトマトを切ってみてください。

では、いきます。

おおおおお。力をいれなくても、すとんと庖丁が通る!

逆にトマトが切りづらくなったら研ぎごろなんです。

薄いスライスもらくらく。

他には玉ねぎを切って涙がでるようになったら研ぎごろですね。定期的にメンテナンスしていくのが庖丁と長く付き合うコツです。

 

Uターンで気づいた製造業のおもしろさ

最後にひとつ質問を思い出しました。大澤さんはずっとここで働かれているんですか。

いやー、まだ3年ちょっとです。東京の印刷会社やNPOで働いて。いろんなことやってたんですけど、そのあとUターンで帰ってきて。

いわゆる製造業が嫌で嫌でたまらなくて東京へ出たんですけど、帰ってきてみたらここにはたくさんチャンスがあってなんでもチャレンジできるって気がついて。これまでやってきたこともタダフサでやっていることも、結局は「どうやってファンを増やすか?」という仕事なんですけどね

これからタダフサでやってみたいこと、何かありますか。

地域を超えたコラボレーションだったり、新しいものを販売してみたり、ポップアップイベントを企画してみたり…アイデアはいろいろありますね。インプットもアウトプットもこれからたくさんして、どんどんアイデアを実現していけたらと思ってます。