ヒット商品に公式はある?新商品の「発想法」を今井裕平さんに聞いた。
「どうすれば、“選ばれる商品”は生まれるのか?」そう悩みながら、日々ものづくりやEC運営に向き合っている方も多いのではないでしょうか。
今回お話を伺ったのは、株式会社kenma代表であり、“ビジネスデザイナー”として数多くのヒット商品を生み出してきた今井裕平(いまい ゆうへい)さん。
ヒットの定義、アイデアを生み出すプロセス、PRとの向き合い方、そして実際の成功事例まで、「感覚」や「センス」に頼らず、再現性のあるかたちで商品を育てていくための考え方を、じっくり伺いました。
建築を学んだ後、設計事務所、経営コンサルティング会社を経て独立。新規事業や商品開発、ブランドづくりなどを、戦略とデザインの両面から支援している。「つくって終わりではなく、成果まで伴走する」ことを大切にし、独自性と市場性を両立させる商品・サービスづくりに取り組んでいる。2024年「ヒット商品を次々と生み出すデザイン会社」として、テレビ東京『カンブリア宮殿』に出演。2025年に初著書『すごいアイデア』(祥伝社)刊行。
目次
今井さんについて
最初に、今井さんの自己紹介と、ビジネスデザイナーとして活動するようになった経緯を教えてください。
もともとは建築学科出身で、大学卒業後は設計事務所に勤めていました。仕事自体は嫌いではなかったのですが、「この分野でいちばんにはなれない」と感じるようになり、経営コンサルティング会社へ転職しました。コンサルではデザインには一切関わらず、経営戦略の分野に専念しました。
結果的に3社経験し、最後は電通グループの電通コンサルティングに在籍していました。おもな仕事は、新規事業の立ち上げや既存事業の成長支援など、売上を伸ばすための戦略づくりでした。
会社を立ち上げたのは、いつごろですか?
コンサル時代に東京に出て、しばらくして会社をつくりました。大学時代の後輩たちと、デザインコンテストに出たり、知人宅のリノベーションや、近所のお店のショップカードを制作したり。
最初は趣味の延長でしたが、次第に仕事として成立し始めたんです。当時は副業が一般的ではなく、「やるならどちらか」という空気もあって、「戦略だけ」「デザインだけ」ではなく、その両方を使って課題解決ができないかと考ええて、会社設立に至りました。
そこから「ビジネスデザイナー」を名乗るようになったのですか?
はい。「ビジネスデザイナー」の私の定義は2つです。
ひとつは、つくって終わりではなく、立ち上げたあとに広げるところまで関わること。そのために、デザインに限らず、経営や戦略の領域まで含めて関わるようにしています。
もうひとつは、デザインの評価軸を完成度ではなく「成果」に置くことです。ビジネスである以上、結果がすべてだと思っています。

かなり明確な定義があるんですね。
そうですね、日本で唯一だと思いますが、「成果を数字で語るデザイン会社」を掲げています。
デザイナーはよく「課題を解決する仕事だ」と言いますが、本当に課題解決をするなら、完成度ではなく成果で判断すべきだと考えています。
ヒット商品とはなにか?今井さんが考える「ヒット」の定義
今井さんにとって「ヒット商品」とは、どのような状態を指すのでしょうか?
じつは、「これがヒットです」という共通の定義はありません。
クライアントによって、まったく違います。
多くの場合、売上や販売数量、顧客数といったKPIを設定します。細かい指標よりも、大きなところを見ますね。
いちばん大きなところとは?
損益分岐点です。
どれくらい売れれば、かけたコストを回収できるのか。そこは必ず押さえます。
新規事業ならではの視点ですね。
新規事業は、そもそも成功するほうが少ないので、「大成功するか」より、まずは「大失敗しない」ことのほうが重要だと思っています。そのラインを超えられるかを確認し、クリアしてはじめて次の目標を考えます。
なるほど。次に見るのは、どんな点でしょうか?
クライアントが、なぜ新規事業をやりたいのか、という背景です。
僕のクライアントには事業承継のタイミングの方も多くて、既存事業だけでは将来が不安だから、新しい柱をつくりたいというケースがよくあります。
かなり切実な背景ですね。
そうですね。だからこそ、本業と無関係なものより、既存事業とつながりがあるほうがいいですし、自分たちの強みや資産を活かせるなら、活かしたほうがいい。その前提で「成功のライン」を定義していきます。
売上以外の指標も含めて、ということですか?
はい。とくに多いのが、BtoBの企業がBtoCに挑戦するケースです。その場合、事業としての成果だけでなく、「認知されたか、メディアに取り上げられたか」といった点も重要になります。
認知もヒットの要素になるということですか?
なります。メディア露出が売上につながることもありますし、従業員の方が「自分の会社、すごいな」と感じたり、採用で「この記事を見て応募しました」と言われたりすることもあります。
そういった副次的な効果も含めて、ヒットと言えます。

アイデアを生み出す3つの手順
普段、商品デザインを考える際、どのようにアイデアを出していくのでしょうか?
いわゆるブレインストーミングのように、「短時間で一気にアイデアを出す」というやり方は取りません。前もってテーマや条件を共有し、各自が事前に考えたうえで持ち寄ります。「なぜそう考えたか」「どこが新しいのか」を説明できる状態で議論します。
天才のひらめきにすべてを委ねられるなら別ですが、ほとんどの人はそうではないので、再現性のあるやり方を選んでいます。
その前提の中で、今井さんが提唱しているのが、「①発想する→②定める→③見極める」というステップですね。
僕はヒットの条件を、「独自性と市場性が両立した状態」だと定義しています。
独自性は、競合とどれだけ違うか。市場性は、お客様の支持がどれだけあるか。この2つを満たすものがヒットする。
その状態に近づくためには、
「①発想する」で独自性をつくり、
「②定める」で市場性を要件化し、
「③見極める」で、その条件を満たす独自性を選ぶ。
この順番がいちばん合理的だと考えています。
なぜこの順番なのでしょうか?
先に独自性を考えないと、図でいう右上、つまり「独自性と市場性の両方が高い領域」に行けないからです。ヒット商品は、基本的にそこにしか存在しません。

ところが多くの人は、逆から考えます。先に市場調査をして、ニーズや競合を徹底的に調べる。
でも、これをやりすぎると、正しい情報が集まりすぎてしまうんです。正しい情報が集まりすぎてしまうと、独自性とは相性が悪いんです。
ユーザー調査をすると、「もう少し軽くしてほしい」「ここが使いにくい」といった改善案はたくさん出てきます。でも、それは既存商品の延長にすぎません。
有名な例をお話しすると、ロボット掃除機のルンバです。
ユーザーに聞いても、「勝手に動く掃除機がほしい」なんて答えはまず出てこない。せいぜい「コードを短くしてほしい」「充電が長い方がいい」「軽く・コンパクトにしてほしい」くらいです。それでは新しい市場は生まれません。
なるほど。その解答が上がってくることはアンケートを実施する前でも想像しやすいです。だから最初に市場調査をしすぎないほうがいいんですね。
そうです。まったく見ないわけではありませんが、順番が大切です。
アイデアは、センスではなくプロセス。という事でしょうか。
まさにそうです。
アイデアは確率です。この手順は、“すごいアイデア”が生まれる確率を上げるための方法。絶対にヒットするわけではありませんが、ヒットに近づく公式はある。そのための考え方です。

「着眼点」が最大のポイント!独自性の高いアイデア出しの公式
ここまで伺っていると、「独自性」がかなり重要なキーワードだと感じます。一方で、「独自性を出すのが苦手」というEC事業者さんも多い印象です。
そう感じている方は多いと思います。
そもそも「独自性の高いアイデアを出そう」という発想に至っていないケースも少なくありませんし、アイデアを出していても「今あるものをよくする」レベルで止まってしまうことが多くあります。もちろん改善は大切ですが、それだけでは独自性の高い商品にはなりにくいです。
独自性のあるアイデアを生むには、どうしたらいいのでしょうか。
そこでポイントになるのが「着眼点」です。
僕は、独自性の源泉となる着眼点を「新常識」と呼んでいます。
よく知られた商品ほど、着眼点で勝負する余地があります。
考え方としてはシンプルで、「常識」と「新常識」をセットで捉えること。世の中で当たり前になっている前提はなにか。それをひっくり返すと、どんな姿になるかを考えます。
既存商品という「常識」を裏返すことで、独自性の高い商品、つまり「新常識」が生まれる。書籍では、これを「A(常識)→B(新常識)」という公式として紹介しています。常識を疑うことがスタートで、B(新常識)が独自性になるイメージです。
具体例はありますか?
わかりやすいのが、先ほども出た掃除機の例ですね。
長い間、「掃除機は人が動かすもの」というのが常識でした。そこに「勝手に動く」という新常識を持ち込んだのが、ロボット掃除機の『ルンバ』です。
公式に当てはめるとこうなります。
「A(常識):手動 → B(新常識):自動」
このとき重要なのは、Bが対義語になっているかどうか。また、シンプルな単語で記述するのがポイントです。多くの人は「もっと軽くしよう」「音を小さくしよう」と考えますが、それは常識の中での改善にすぎません。ルンバはまさに、新常識を打ち出した商品です。
お伺いすると、私たちでも、できそうな気がしてきました。
そうなんです。着眼点はセンスではありません。
だれでもできるので、ぜひ練習してマスターしてみてください。
ヒット商品のアイデア出しでPR視点は重要?
ここまでのお話をお伺いして、PRの視点もかなり重要だと感じておりますが、今井さんはアイデア設計のどの段階でPRを意識しているのでしょうか
最初から「こうPRしよう」と考えることはありません。
「③見極める」の段階で、ゴールを達成するためにPRが必要だと判断した場合に、チェック軸としてPR視点を加えます。
PR視点は大きく3つの基準として「ユニークさ」「社会性」「時代性(トレンド)」があり、この3つを超えているかどうかを見ています。
ユニークさで言えば、「国内初」「業界初」「デザインの斬新さ」など。社会性は、社会課題の文脈に乗せて語れるかどうか。時代性は、今のトレンドと合っているかどうかですね。この3つが揃うと、メディアに取り上げられやすくなります。
狙っていたほど、メディア露出がうまくいかなかったケースはありますか?
ありません。と言うのも、メディア露出に関しては、そこまで期待しすぎないようにもしています。
それに、企画段階からPRプランナーと相談しているので、方向性が大きくズレることはないですね。
逆に、想定以上に取り上げられたケースはあります。
経営者の方がPRの必要性を感じていない場合は、どう考えますか?
それでも、PRの視点は外しません。
新商品を出す以上、認知を取らないと始まらない。広告費を多くかけられないなら、展示会やメディア露出が現実的な選択肢になります。とくに中小企業の場合、PRをやらない手はないと思っています。
商品開発の成功事例「サンサンウォッシュ」は、なぜヒットしたのか
ここまで理論のお話を伺ってきましたが、具体的な成功事例も教えてください。EC領域で「これは大きな成功だった」と言えるものはありますか?
はい。最近の例が、固形洗剤の「サンサンウォッシュ」です。

「サンサンスポンジ」を展開している会社さんと一緒に、既存商品に新しい視点を加えて開発しました。
チャレンジングに設定した目標販売数を既に達成しています。もともとは自社の固形洗剤に合うスポンジとして開発された商品ですが、使いやすさと耐久性が評価されて、スポンジ単体で爆発的に広がりました。
ただ、本来は固形洗剤の会社さんなので、洗剤をもう一度主役にしたい、という相談を受けたんです。そこで生まれたのがサンサンウォッシュです。こちらも売上は好調で、多くのメディアにも取り上げられています。
最初から勝算はあったのでしょうか?
僕は、いけると思っていました。サンサンスポンジのユーザーがすでに相当数いますし、勝てる条件が揃っていたからです。
食器用洗剤市場を見ると、ほとんどが液体で、固形は分が悪そうに見えますよね。でも、固形洗剤は成分が凝縮されていて、「少量で使える」のが強みです。さらに「長持ちする」という価値は、耐久性の高いサンサンスポンジの文脈とも、きれいにつながります。
たしかに。そこから、どう商品化を進めたのですか?
まずは液体洗剤と固形洗剤を比較して、違いを洗い出しました。
ロングセラー商品なので、愛用者の方のお手紙も拝見しながら、「少量」というキーワードに行き着いたんです。そこから、「タッチして使う洗剤」という新しい体験として、見た目や使い方も含めて設計しました。
洗剤は「たっぷり使ったほうが、汚れが落ちる」というイメージがありますよね。
そこをあえて、「ちょっと触るだけでいい」という新常識として打ち出しました。「少量で長持ちする」という点は、SDGsの観点でもポジティブに受け取られやすいと考えました。
PRや話題の広げ方はどんなことを意識したのでしょうか。
製品発表会、メディア露出、インフルエンサーの発信、広告など、複数の接点を組み合わせて広げていきました。とくにPRで効いたのは、機能やコンセプトだけでなく、目を引くビジュアルも大きかったと思います。
液体洗剤が主流の中で、しっかりヒットをつかんだ、これまでのお話が詰まった事例ですね。
そう言っていただけると嬉しいです。特別なことをしたというより、プロセスを踏み、勝てる条件をひとつずつ積み上げていった結果だと思っています。余談ですが、サンサンウォッシュの影響で、ほかの固形洗剤の売れ行きも伸びているようです。
固形洗剤ブームの兆しですね。
海外では、トレンドに敏感な人たちが固形シャンプーを使っていますよね。この「固形」という流れはいずれ日本にも来るだろうと思っていましたし、その最初の波にうまく乗れたのかなと感じています。
今日からできる最小の一歩、「A→B」トレーニング
この記事を読んだEC運営者や商品開発担当者が、「じゃあ今日から何をすればいいのか」と考えたとき、最初の一歩としておすすめしたいことはなんでしょうか?
「A(常識)→B(新常識)」の公式に当てはめて考えることです。
新しいアイデアを生み出そうと気合を入れる前に、まずは「当たり前」を疑ってみてください。「この商品はこう使うもの」「この価格帯がふつう」「この売り方しかない」。そうした前提=常識を、一度ぜんぶ裏返してみる。これだけです。特別なスキルはいらないので、ぜひ気軽に試してみてほしいです。
たしかに、それはすぐにでもできそうです。
この公式は、経営者の方が、部下のアイデアを判断する場面でも使えます。3つ案が出てきたときに「どれがいいか」を比較する前に、そもそも独自性のあるアイデアかどうかを、絶対評価で見極めることができます。
今井さんの公式は、新商品開発だけでなく、既存商品にも使えますか?
単なる改善には向いていませんが、既存商品をテコ入れしてリニューアルする場合には、十分使えます。
最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
ヒット商品を目指すというのは、看板商品を目指すということです。
そう意識するだけで、商品開発の向き合い方は変わると思います。
ぜひ、すべての商品開発で、看板商品をつくるつもりで取り組んでみてください。
今井さん本日はありがとうございました。
