心を動かし、共感を生む。SNSフォロワー数日本一の花屋が語る、大人気ショート動画の裏側
今回は、動画コンテンツ人気の立役者でもある店長・森 俊弥さんに、MORIYA創業の経緯やSNSにおける「共感」の作り方、今後の目標などについてお話を伺いました。
目次
スーパーの駐車場で立ち上げた小さな花屋が大繁盛
まずは起業の経緯からお伺いできればと思います。そもそも、なぜ花屋だったのでしょうか。
もともと花屋をやろうと思って始めたというよりは、ホテルやレストランなど「おもてなしのできる空間」を作って起業したいと思っていたんです。ただ当時の僕はまだ大学3年生で、お金も人脈もありません。そこで“おもてなし”や“空間”に通じるものとして思い浮かんだのが「花」でした。

ちょうど家の近くにスーパーの提携駐車場があって、ここなら人通りも多いし、ここにテント建てて販売してみたら町の雰囲気にも合うんじゃないかなって。花だったらイニシャルコストもあまりかからないよな、とか考えた末、軽いノリで駐車場の管理会社に連絡してみたら、「やってみたらいいじゃん」と快く許可していただいて。じゃあやってみよう、と。
大学生らしい気軽な勢いでのスタートだったんですね!
そうなんです(笑)。偶然、僕の父が花の流通に携わる仕事をしていたので、仕入れ先を紹介してもらって、切り花とバケツだけ用意して駐車場でそのまま売るっていう露店みたいなスタイルでした。
一応お花屋さんらしく陳列しましたが、いわゆる街のお花屋さんとは違って、仕入れてきたお花を当日~翌日にかけて売り切るような業態でしたね。

花の知識やフラワーアレンジメントの技術はもともとお持ちだったんですか。
最初は全然なかったですね。花の名前もわからないし、部屋に飾ったこともありませんでした。
自分で仕入れて売って、検索して、本を読んで、お客さまにも教えてもらって。花屋やってると必ず「花束作ってください」とオーダーをいただくので、とにかく見よう見まねで練習しながら独学で覚えていきましたね。
当時はどういったお客さまが多かったのでしょうか。
「大学生が花屋やってる」と地元でちょっとした噂が広まり、いろんな人が来てくれました。誰でも入りやすい雰囲気の店だったので、子どもだけで来るお客さんもいれば、ファミリー層とか、おじいちゃんおばあちゃんもよく来てましたね。
ただ、大学を卒業する少し前に、その駐車場からは立ち退きせざるを得なくなってしまって。
それまでの立地がよかったのもありますが、移転先では全然売れなくなってしまったんですよね。店頭販売の厳しさを痛感し、ECに本腰を入れることになりました。
「比べられる」違和感を抱えながらECモールに進出
ECでも花を販売することは当初から計画されていたんですか。
そうですね。
スーパーの駐車場と同じような規模のテントの花屋さんを大阪中に広げるつもりでいたのですが、ギフト注文もけっこう増えてきたので、ECでも販路を拡げてみたいなと考えるようになりました。
実は大学在学中にも、とある大手ECモールに出店の問い合わせをしたのですが、学生のうちは出店できないという規約があったので、卒業を待ってから始めました。
オンラインで生花を売るのは難しそうに見えますが、大手ECモールに出店してみての手応えはいかがでしたか。
今ほど主流ではありませんでしたが、花のECサイトは徐々に増え始めていた時期だったので、「他の人がやってるんやったらいけるやろ」という感覚でした(笑)。
細やかな接客スタイルが合っていたのか、当時出店していた1,500店舗の中でもレビューの高評価率はトップクラス。手応えはかなり感じられましたね。
ECモールでの評価と売上を順調に伸ばす中、さらに自社ECサイトも立ち上げたのはなぜでしょうか。
ECモールにはつい最近まで出店していたのですが、当初からなんとなく「嫌だなあ」という思いがずっと拭えなくて。金額もコスパもとにかく他社と比べられてしまうけれど、僕は比較されるのが嫌だったんですよね。
一口に花屋と言ってもいろいろな店がある中で、「安くて品質がいいならどこでもいい」という方よりは、せっかくなら「MORIYAで注文したい」と言ってくださる方にお届けしたかった。そこで、いずれはモールを卒業するつもりで、モールと並行して自社ECサイトの運営も始めました。
自社ECサイトの立ち上げにカラーミーショップをお選びになった決め手は?
いろいろ検索してみて、一番しっかりしてそうだと思ったんですよね。サポート内容やWebサイトの雰囲気を見て、ここなら安心そうだなって思えたのが一番大きな基準でした。
「プロポーズ専門の花屋」にシフト、TikTokで大人気に
モールに加え自社ECサイトの運営も始めた中、どのような戦略で売上成長を図りましたか。
コロナ禍前後の2019~20年ごろから、TikTokをはじめとしたSNS運用を強化し始めました。
それまではいわゆる普通の花屋として、花から観葉植物までどんなシーンにも対応できるようなラインナップを展開していましたが、あえて用途とターゲットを絞り、「プロポーズ専門の花屋」としての情報発信に注力したんです。それに合わせて、商品ラインナップと価格帯も変えていきました。

「プロポーズ専門の花屋」というコンセプトは何がきっかけで生まれたのでしょうか。
誰かにとって「人生のターニングポイントになる」「この瞬間があったから未来がちょっとよくなった」と感じてもらえる仕事がしたいなと頭の片隅でずっと思っていて。
どんな用途の花束もそれぞれ特別なのですが、やっぱりプロポーズは一生に一度の忘れられない瞬間なので、そこに特化した仕事をしてみたかったんです。
なるほど。「花を買う人」と「プロポーズをする人」では後者のほうが少ない中、あえてニッチな用途にシフトしていくのは、かなり勇気の要る決断だったのではないでしょうか。
そうですね。最初にSNSを始めたとき、「花屋の中で日本一になる」には競争相手があまりに多すぎることに気付きました。でも「プロポーズに特化した花屋」としてなら、一生懸命頑張れば日本一になれるんじゃないか?と思って。
先ほども言ったように僕は他と比較されるのが嫌なので、独自性を打ち出す戦略は勝負でもあり、賭けのような感覚がありましたね。
ですが、あえてターゲットや用途を狭めたことで「プロポーズの花束=MORIYA」以外の選択肢を寄せつけず、他の花屋さんの存在感が霞むくらい自分たちを知ってもらえるチャンスを作れたと思います。結果として、日本で一番フォロワーの多い花屋になることができました。
今や本当に「日本一」なんですね! 始めた当初、SNSでの反応はいかがでしたか。
TikTokで投稿した最初の数本は「普通にちょこちょこ再生された」くらいの感じでした。
その後、クリスマスの時期に投稿したバラの花束作りの動画が一気に再生されて。思えば割と早い段階でバズりましたね。
@moriyahana プロポーズに贈る108本のバラを作る動画です🌹part③ 〜ラッピング〜 #プロポーズ #薔薇 #バラ #ばら #花束 #ラッピング #ラッピング動画 #花束プレゼント #贈る #プレゼント #ギフト #gift #花 #flower #flowers #作る動画 ♬ オリジナル楽曲 – MORIYA – MORIYAの店長🤓💐
ECの売上もその頃から徐々に伸び始めましたが、SNSを見て「いつかMORIYAでプロポーズの花束を」と憧れてくださっていた世代のフォロワーが、ちょうど2023年ごろから結婚の時期を迎えたことで、ここ数年さらに伸びてきたのを実感しています。
プロポーズ用の花束は、一般的な花屋と同様、相談をしながら購入される方が多いのでしょうか。
事前相談は購入者全体の1~2割程度です。電話やメール、SNSのDM、あとはショップのお問い合わせフォームからご相談いただくことが多いです。
というのも、当店のお客さまの多くは男性なのですが、SNSフォロワーは約9割が女性なんです。
普段SNSを見てくださっている方が「いつかMORIYAの花束でプロポーズされたいな」とパートナーにそれとなくリクエストしたり、リンクを共有したりするので、お目当ての商品が最初から決まっていることが多いんですよね。
なるほど。プレゼントはサプライズではないんですね。
花束を渡すというよりはプロポーズすること自体がサプライズなので、いざそのときが来て「あっ、MORIYAの花束だ!」と驚いて喜ばれるみたいですね。
ちなみに、うちは購入者ではなく花束を受け取った側から感想をいただくことが多いんですよ。「プロポーズされました! ありがとうございます」とか。
贈られる側がお店を見つけて感想を寄せてくださるというのは、他店にない珍しい流れですね。
バズるのは、「人の心に引っかかる」コンテンツ
他のショップオーナーさまのお話を聞くと、「どんな動画を撮ればいいのかわからない」「自分が出るのは恥ずかしい」という方も少なくないのですが、森さんにもそういった迷いの時期はありましたか。
僕は全然抵抗なかったです(笑)。最初からプロポーズ訴求をやるつもりでいましたね。
「花束を作る」という作業動画は、見た目にも華やかで飽きないし、視聴者にも「この人が作ってくれるなら」と安心してもらえそうなので、とにかくやってみようという気持ちだけで特段難しく考えずに始めました。考えれば考えるほど「やらない理由」を作っちゃいそうだし、やってみてアカンかったらやめたらええし。
こういう投稿をしたら伸びるんじゃないか、自分だったらできそうだ、といった予感もありましたか。
想像以上にうまくいったことには我ながら驚きましたが、振り返ってみるとかなり自分に合っていましたね。
「こうすればバズりそう」という嗅覚はバズった人でないとわからないものなので、再生数を伸ばしながら、撮影や編集技術とともに、少しずつ自分なりに掴んでいきました。

また、TikTokの運営会社(バイトダンス社)が主催するクリエイター向けアカデミーに入って、インフルエンサーの人たちと一緒に勉強したり、情報交換をしていた時期もあります。自分に合った環境で、仲間と切磋琢磨しながらコンテンツ作りに注力できたのはとても運がよかったと思います。
難しいリクエストですが、まだバズった経験のない方へヒントをお願いします。
感覚的な話なのでお伝えしづらいですが、結局「共感される」ことをどう捉えるかだと思います。
人間の喜怒哀楽、それ以外にも「嬉しい」や「懐かしい」などで見る人の感情を動かしたり、その人の人生経験に響くところにスポットライトが当たっているコンテンツは、バズる傾向にあります。
見る人の心のどこに引っかかるか、自分たちの感覚で見定めてからアップした動画は、次の日見てみるとバズっていることが多いですね。
なるほど。心のどこかに引っかかるコンテンツ。
はい。視聴者の心がどう動くかまでは作り手には操作できないので、まずはそのままの自分たちを出してみて、実際やってみてどうだったかを後日検証しながら考えるほうが結果はついてくる気がしますね。情報発信をしたい事業者の方は、けっこうそこで苦労したり失敗してしまうことが多いので。
「狙った投稿ほど失敗する」という話は、よく聞きます。
事業者がSNSをやるには「言語化」がすごく重要だと思うんです。
自分たちをとことん掘り下げて言語化して、社会の中での希少性を見出して、それをどう投稿フォーマットに落とし込んでコンテンツ化していくか。そこまで追求できれば、「バズり」にも再現性はあるんじゃないかなと思います。
「プロポーズ=MORIYAの花束」が当たり前の世界へ
最後に、今後のECサイトでの目標についてお伺いしたいです。
現状の売上はほとんどSNS経由なので、概ね「SNSでの認知はされている」段階だと捉えています。
でも極端な話、僕は「日本中でプロポーズする人たち全員MORIYAで花束買えばいいのに」と思っているし、それが当たり前になるような文化を作っていきたいんですよね。
そのためにも今後は、より多くの人の目に触れるための施策を進めることで、事業を拡大したいです。検索などから流入してきた人が「そういえばこの花屋さん、SNSで見たことある」と気付いてくれれば、購入率も上がると思うので。
一昨年から昨年にかけては売上が約2倍くらいに推移しているので、今後も同じように成長を続けるには、SNSだけでなく一般的なECのセオリーも取り入れる必要があるので、これまで以上に頑張りたいなと。
事業全体の展開としてはいかがでしょうか。
今はスタジオの移転先を探している最中です。自分たちの世界観を表現しながら、動画や写真などのコンテンツのクオリティを高められる「撮影スタジオ兼研究所」を作りたいと考えています。

実は僕、子どもの頃から「ビルを建てたい」という夢があって、花屋になった今もその夢は「理想の空間を作りたい」という形でずっと残っているんです。
花屋にレストランが併設されていて、そこにみんなが集まってきて、素敵な雰囲気を味わえて、プロポーズもできるし、なんなら結婚式も挙げられる。プロポーズしたい人にとって憧れとなるような「おもてなしの空間」をいつか作りたいですね。
まさに大学生の頃にも構想されていた「おもてなし」に通ずる話ですね。
そうですね。MORIYAは「人の心を動かしたい」という思いから始まった事業ですし、プロポーズに焦点を絞ったことで、よりビジョンが具体化できるようになった気がします。
「プロポーズといえばMORIYA」が日本中の誰にでも思い浮かべられる未来の先で、いろいろなビジネスを展開できたら嬉しいです。
MORIYAさんの今後の展開を楽しみにしています。今日は素敵なお話をありがとうございました!
