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「日本一予約がとれないラーメン店」飯田商店が語る、15年間の軌跡とECへの挑戦

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
神奈川県湯河原のラーメン店。化学調味料は一切使用せず、日本全国から集めたこだわりの食材で生み出される洗練された味わいが有名です。数々のアワードやグルメレビューサイトでも常に上位入りするほどの人気で、「日本一予約がとれないラーメン店」とも評されています。今回は店主の飯田 将太さんに、ECサイト開設のきっかけや反響、商品に込めた思いなどを詳しく伺いました。

ラーメンが人との出会いを生んだ15年間

改めて15周年おめでとうございます。まずは飯田商店の立ち上げの経緯について教えていただけますか。

もともと実家が干物屋を営んでいたのですが、多額の借金を抱えて倒産寸前になってしまっていて。それを支援してくれた親戚から、あるときラーメンチェーン店の店長を任されることになったんです。

借金返済のために店を運営しているうちに、かねてから料理人志望だった僕は、麺もスープも一から仕込むことへの憧れがどうしても抑えられなくなって。店の定休日を使ってつけ麺屋をやっていたのですが、そのうちやっぱり「つけ麺よりラーメンだな」と。自分でやっていくための拠点を探す中で、お金もなかったので、もともと干物屋だった倉庫みたいな場所を簡単に改装したのが始まりでした。

いま15年間の歩みを振り返ってみて、一番大変だったことは何でしょうか。

とにかくお金がなかったことですかね(苦笑)。今日明日にも支払うべきお金が用意できないような状態が続いていました。借りのある相手が知り合いだとなおさら気まずいじゃないですか。その人の店の前を歩かないように遠回りしたりとか、そういうみっともない時期が一番キツかったですね。人と正面から向き合って話すことから逃げてしまっていたので。

そんな中で、逆にすごく嬉しかったことはありますか。

やっぱり自分が作ったラーメンを食べてくれた方に「おいしい」と言っていただけたことですね。それが何よりの喜びです。麺もスープも自分で作ったラーメンの味でお客さまが増えていって、気付いたらたくさんの人に囲まれて。人との出会いがラーメンから広がっていったことも嬉しかったです。

コロナ禍でEC開設、わずか2分で完売

苦しい時代を経て、今や「日本一予約がとれない」と評される飯田商店さんが、ECサイトを開設することにしたきっかけを教えてください。

コロナ禍で実店舗が営業できなくなったことがきっかけです。 ちょうどその直前、実店舗で販売するお土産用のラーメンを開発していて、スープをパックにしたり麺を冷凍したりといった準備を進めていたところだったんです。そんな矢先のコロナ禍でしたから、売る準備ができていたという意味では不幸中の幸いだったのかもしれません。


当時ららぽーと沼津店にも出店したばかりで、それまで以上に多くのスタッフを抱えていました。湯河原の本店も沼津店も営業できず頭を抱えていたとき、知人に「ネット通販をやってみてはどうか」と助言され、カラーミーショップを見つけてもらって。すごいスピードで構築してくれたので、やろうと決めてから2日くらいで開店できたんじゃなかったかな。

たった2日間でECサイトをオープンしたんですね!

そうなんですよ。本当にカラーミーショップには助けられました。

ちなみに、過去にECサイトの開設を検討したことはありましたか。

コロナ禍以前はECの必要性をそこまで認識できていなかったのが正直なところです。日々の営業だけでもいっぱいいっぱいなのに、ECにまで手を広げても追いつかないんじゃないかなって。

開店後の反響はいかがでしょうか。初めて商品が売れたときのことは覚えていますか?

覚えてます、覚えてます。
最初は50セットか100セットくらいの在庫だったと思うんですけど、1個2個と少しずつ売れていくのではなく、Twitter(当時)で宣伝してから2分くらいで完売してしまったんです。ある意味怖かったですね、こんなに売れるの?って。

実店舗で何百セット分もお土産を販売するのなんてかなり時間がかかるじゃないですか。それと同じくらいの金額が数分で動いてしまったので、正直めちゃくちゃ怖かったですよ。

初受注で瞬く間に完売してしまったんですね……! 確かに嬉しい反面、ちょっと不安にもなりそうです。

そういえば、あのころ同時期にECサイトを始めたラーメン屋さんはけっこう多くて。
同業者たちの話を聞いてみると、表示とか決済がうまくいかないことがたくさんあったみたいなんですよ。でもカラーミーさんはオーダーが集中しても一切パンクしなかったですよね。うちは不具合が非常に少なかった。そういう点でもありがたかったです。

安定稼働に力を入れているので、そう言っていただけて安心しました。

一番すごかったのは土曜昼の人気番組で紹介していただいたときでした。当時もコロナ禍真っ只中だったので、放送から4時間で700万円分くらいの注文が入っちゃって。僕らとしても損失をできるだけ取り戻さなきゃいけないからあえて在庫に上限を設けなかったのですが、受注通知がピコピコ鳴り止まなくなって……あのときは引くくらい売れましたね。

4時間で700万円! そのぶん発送作業が過酷だったのでは?

もう地獄でしたよ(笑)。変な話ですが、パンデミック前より忙しくなってしまいました。沼津店のスタッフにも湯河原本店へ来てもらい、みんなで製造・発送作業をしてました。

スタッフの数は多いからバンバン作れちゃうんですけど、当時のうちの設備では冷凍が間に合わなかったり、資材が足りなくなったりもして、とても大変だったのを覚えています。

ECサイトの開店や通販商品について、お客さまからの反響はいかがでしたか。

「お店の味にかなり近い」「休業期間中もこれがあれば我慢できる」といった励ましの言葉がたくさん寄せられて、かなり喜んでいただけましたね。

先にECサイトで購入して、後から実店舗に来られるお客さまも?

よくいらっしゃいます。「ネットで買ったことはあるけど、やっとお店に来れました」と。こちらからお尋ねしているわけではないのですが、今でも週1組くらいには言っていただけますね。


うちの店も含め、やっぱりどこの飲食店でも席数には限りがありますけど、通販だったら無限にやれるじゃないですか。そこでいい商品を作れれば、そのぶんまた盤石な商売につながっていくのがECの利点ですよね。全国が商圏になりますから。

特に飯田商店さんの場合、なかなか予約がとれない方や遠くて行けない方も多いですよね。

本当は、食べたくても食べられない方たちにこそラーメンを作りたいんです。僕は食べてほしいし、相手も食べたいと思ってくれているのに、なかなか会えない皆さんに食べてもらいたい。


僕らは以前から近隣の老人ホームに出張したり、最近ではウクライナ避難民の方々にも召し上がっていただく機会がありましたが、お店に来れなくなってしまった方、食べに行きたいと思ってもそうするのが難しい方は世の中にたくさんいます。だからこそ今、ECを通じてうちの商品を全国へお送りできるのは、すごく素敵だし、嬉しいことなんですよね。

徹底したこだわりが生む「お店の味」の再現

ECで商品を販売するにあたり、飯田さんがこだわったポイントを教えてください。

スープを入れる袋のクオリティにはこだわり、最高級のものを使っています。
開発途中で気付いたのですが、これって実はすごく大事なポイントなんですよ。最初は冷凍スープ用ならできるだけ厚手で丈夫な袋がいいと思っていたけど、本当は「香り」を閉じ込められる袋でなければいけなかったんです。

袋の素材の重要性に気付いたのはなぜですか?

自宅でカレーを作ったとき、業務用マシンで真空パックを作って冷凍しておいたんです。3週間ほど経ってからいざ解凍してみると、作ったときの香りが消えていることに驚きました。マズくはないけどスパイス感が失われて、ビーフシチューみたいな味になってしまってて……真空状態で冷凍して、二重の厚手袋に入れているのに、あの香りはどこへ行っちゃったの?と。

詳しく調べてみたところ、実は香り成分って袋に入れても揮発してしまうものだったんですよ。作りたての香りはどうしても抜けていっちゃうから、ある食品メーカーでは100%の香りを届けるために、あらかじめ抜ける分まで見越して130%の香りを詰め込む工夫をしていると聞きました。

普段何気なく食べているレトルト食品にも、そんな工夫がつまっていたとは……。

レトルトカレーってアルミパウチが主流ですよね。あれはなぜアルミかというと、優れた保存性に加え、香り成分が最も抜けづらいからなんですよ。
でもラーメンのスープでアルミってどうなんだろう? なんとなく味が変わりそうだなと思っていたとき、アルミのバリア性能に限りなく近い透明袋を見つけました。ちゃんとした袋を使うと、鍋にスープを入れたときも香りがふわっと上がり、まるで店で食べているかのような感じが再現できるんです。

お店のスープの香りをできるだけ残せるようにしたんですね。

他にもショックフリーズ(急速冷凍)の設備を取り入れて、できるだけ短時間で具材・麺・スープを凍らせています。ECサイト開設直後は、ただ作って冷凍庫に入れるだけでしたが、凍る時間が早ければ早いほど、特にチャーシューはタンパク質の凝固が早いほど、解凍時に元の状態に近づけられるので。

たくさん研究されてきたんですね。

コロナ禍のときは家でさんざん食べ比べてましたね。あれがいいとかこの袋のほうがいいとか。

ECサイトって、実店舗のように「いらっしゃいませ」とか「ありがとうございます」とか、お客さまの目を見て「お待たせいたしました」とか言えないじゃないですか。だからこそ自分たちが最大限やれることが小さな袋ひとつにも隠されているし、まだまだ見つけられていない工夫も多いはずなんですよ。

面と向かって「いらっしゃいませ」を言えないかわりに、ラーメンの包装をいいものにしたり、ここぞというときにお渡しする木箱入りラーメンの特別なおもてなし感にこだわったり。それって逆に実店舗ではできない部分だと思っています。

そういったこだわりの一つひとつが、お客さまの喜びにつながっているのかもしれません。

本当は、商品を買ってくれたすべてのお客さまのもとへ僕が出向いて作るのが一番いいんですけどね。現実的にそれは難しいので、できるだけご自宅でもおいしく食べられるような商品を作りたいですよね。まだまだ改良すべきことはたくさんあるので、これからもずっと考え続けて、よりよい商品にできたらいいなと思います。

15周年の挑戦と、これからの展望

15周年という節目で、新しい挑戦もいくつかされているそうですね。

限定ラーメンやアパレル販売のほか、著書『本物とは何か』の出版記念パーティーを催しました。


出版記念パーティーでは、日頃からお世話になっている生産者さんを25人くらいご招待して、その方たちの食材で作ったラーメンをサプライズでお出ししたんです。小麦、豚、鶏、昆布、カツオ、醤油、味噌、塩。今日そこに集まってくれた方々の食材“だけ”を使った特別なラーメンです。

会場には著名人も含め140名以上のゲストが来ていましたが、僕らが一番先にラーメンをお出ししたのは、他でもなく生産者の方々でした。僕らが15年間続けてきたラーメン作りは、生産者の方がいなければできなかったことですし、何よりもまず感謝をお伝えしたい存在だったからです。

生産者の皆さんの反応はいかがでしたか。

皆さんすごく感動して、涙を見せる方もいらっしゃいましたね。ある生産者の方には、「こんなに大事にしてくれたのは(飯田商店が)初めてだった」とまで言っていただきました。

そうやって生産者さんをクローズアップしているのを、もちろん他のゲストも皆さん見ているんですよ。「これから自分の前にやってくるラーメンは、全部あの人たちの食材で作ったんだ」と思うと余計おいしく感じられるし、そんな機会ってなかなかないですよね。逆に言えば生産者さんも、自分たちの食材で作られた料理を、目の前で100人以上が食べる光景なんて初めて見るわけです。

ラーメンへのこだわり以上に、飯田さんの関わる人たちに対するリスペクトと思いやりの姿勢が垣間見えるエピソードでした。何が飯田さんをそこまで突き動かすのでしょうか。

人が喜ぶのが嬉しいんです。とにかく何か人が喜んでくれることをしたい。そのためだったらもうどんなことでもしちゃうかもなっていう、それくらいの気持ちがありますね。自分の中に。

これはシンプルに僕の欲望なんだと思います。食べたことのないラーメンを食べさせたい、とにかく目の前の人たちをおなかいっぱいにして喜んでもらいたい。元気のない人を元気にしたい。どれも自己満足だと思うけど、突き詰めればそれすら正義になるかもしれません。

そんな飯田さんが今後、ECサイトで挑戦してみたいことはありますか。

最近は15周年記念の初の試みとしてTシャツやパーカーの販売にもチャレンジしましたが、自分としてはやっぱりいろんなラーメンを食べていただきたいので、期間限定商品などをいろいろ挟んでいく余裕を自分の中に作っておきたいですね。

最後に、今ECサイト開設を検討している飲食店の皆さんにアドバイスをお願いします。

実店舗とまったく同じおもてなしは難しいかもしれませんが、種類は違えどやり方次第で、思いはきちんとお客さまに伝わると思います。おいしいものを一生懸命作ってお届けしたいという気持ちと工夫があれば、必ずお客さまの感動は生み出せますので、ぜひ挑戦してみてください。

本日は貴重なお話をありがとうございました!