生産者さんの販路拡大のため、モール型自社ECを立ち上げ
「かごしまぐるり」は、どんな発想から生まれたサービスですか?
コロナ禍の影響で、多くの生産者さんが販路に悩まれている状況を見聞きして、どうにか力になれないか?と考えるようになりました。思案する中で「新たな販売チャネルをつくればいいんだ」と閃いたのをきっかけに、それまで勤めていた会社を退職し、2021年9月に「かごしまぐるり」を立ち上げました。
数ある事業者の中でも、なぜ生産者さんに注目したのでしょうか?
私自身、実家が兼業農家なので幼い頃から農作業を手伝ってきましたし、大学も農学部に進みました。
農業に触れ、生産者の方々の思いを理解できる立場にいたからこそ、「かごしまぐるり」を立ち上げられたのだと思います。前職でマーケティングに携わっていましたから、自分の経験・スキルと好きなものを組み合わせてみたら、ぴったりピースがはまった感覚ですね。
鹿児島に特化したサービスにしたのはなぜですか?
鹿児島に生まれ育った者として、食や自然、人に恵まれた地元の魅力をPRしたかったからです。
鹿児島は昔から宣伝が下手だと言われ続けていて、私自身も「こんなにいいものがたくさんあるのに、どうしてもっとPRしないの?」と聞かれた経験があり、ずっと心に引っかかっていました。
仕事でもプライベートでもさまざまな土地を訪れましたが、外から見ても鹿児島は全然負けてないんです。宣伝が下手なだけなら伸びしろはあるので、自分の経験を活かして鹿児島全体をPRする仕事がしたいと強く思ったことが理由です。
サービスの立ち上げはコロナ禍がきっかけですが、それより前から起業は考えていましたか?
一国一城の主に憧れていたので、「いつか社長になりたい」と漠然と思うことはありましたが、具体的に何か計画して動いてきたわけではありません。
起業前は、大手通信販売会社で広告やマーケティング、商品開発などを担当していて、40歳を前にしてその先の人生設計について考えるようになり、15年半勤めた会社を思い切って辞めて起業することにしました。安定した職に就いていたので周囲からは相当驚かれましたが、家族は全面的に応援してくれて。私が代表取締役、妻が取締役として会社を設立し、自宅の一室から事業を始めました。
地道な飛び込み営業から始めて、取引の輪を拡大
生産者の方々とはどのようにして知り合ったのですか?
地方では「○○の収穫がピークを迎えました」などの情報がよくニュースになるんです。事業を始めた当初は、鹿児島県の新聞・テレビ・ラジオなどあらゆるメディアをくまなくチェックして情報を集めて電話したり、ホームページから問い合わせたり、飛び込み営業のような形で直接生産者さんのもとを訪ね歩いたりもしました。
当然、実績のない新しいサービスなので、訪れた先の生産者さんからは怪訝な顔をされることも少なくありません。それでもサイトコンセプトや想いを語っているうちに、「そこまで言うならやってみるか」と協力してくださる生産者さんが少しずつ増えていきました。それだけに、初めて商品が売れたときは生産者さんと一緒に心から喜びましたね。
現在は何件くらいの生産者さんと取引をしていますか?
現在は約260の生産者さんとお取引しています。生産者さんとの関係性が深まるにつれ、生産者さんから生産者さんを紹介されることも増え、現在も少しずつ輪が広がっています。
「かごしまぐるり」は成果報酬型サービスを謳われていますが、出品費用は一切かからないのですか?
初期費用や月額利用料、売上手数料、決済手数料、契約更新料などは一切いただかない仕組みです。
当店に出品してもらう際は、まず生産者さんに卸値をご提示いただき、卸値をもとに私たちが販売価格を設定して、商品情報をサイトに掲載します。月末締めの翌月払いで、商品の売上金(卸値相当分)をお支払いしています。
シンプルな仕組みなら、初めてでもチャレンジしやすそうですね。
ECサイトでの販売に興味はあっても、多大なコストがかかることに躊躇して踏み出せない生産者さんが非常に多いんです。なので私たちはできるだけ手数料をいただかず、参入へのハードルを下げることを目指しています。
卸値について、生産者さんにアドバイスすることはありますか?
安すぎる場合は、「きちんと利益が出るように設定してくださいね」とお伝えします。逆に高すぎる場合は、市場の状況や売れ筋商品の価格をお見せしながら、「このくらいが妥当ですよ」とお話しします。もちろん最終的な決定権は生産者さんにありますが、せっかく掲載しても売れなかったらもったいないので、事前にしっかり打ち合わせて、納得のいく価格をご提示いただくようにしています。
やはり自然を相手にしていると生産量は一定ではないと思いますが、どのように調整されていますか?
年によって収穫状況が異なるので、収穫前に綿密に連絡を取って確認しています。予約販売や数量限定販売をおすすめするなど、ケースバイケースで生産者さんの融通が利きやすい売り方も提案しています。
生産者側の手間とコストを徹底的に省く仕組みを構築
受注から発送までの流れを教えていただけますか。
産地直送が売りのサービスなので、基本的に私たちの会社で在庫を抱えることはありません。
商品が売れたら、私たちから生産者さんに「何件注文が入りましたよ」とメールで連絡を入れます。生産者さんは集荷に合わせて新鮮な商品を準備して梱包作業を行い、配送業者さんに商品を引き渡します。
ちなみに、送料は当社負担なので、配送業者さんへの連絡も私たちが行っています。送り状の発行手配も私たちが行うので生産者さんが送り状を書く手間はかからないようになっています。
具体的な流れとしては、生産者さんに受注連絡を入れるタイミングで配送会社さんに連絡して、伝票と送り状の発行を手配します。その後、生産者さんの最寄りの運送会社さんが、伝票と送り状を持って集荷に伺います。離島を含め、鹿児島県内のどこからでも発送可能なシステムを組んで対応しています。
配送会社さんとの連携がかなり強固なんですね。
鹿児島は日本列島の端っこですから、たとえば関東のお客さまが産直商品を購入する場合、通常の送料が適用されてしまうと商品代より送料のほうが高くつくことも珍しくありません。
「かごしまぐるり」の場合は、年間出荷量のボリュームが大きいので、通常よりも安い送料で契約していて、離島からでも送料無料でお届けできる仕組みになっています。そのため生産者さんの販売機会が失われることがなく、お客さまも送料を気にせずお買い物を楽しめます。
産直ECサービスはいくつかありますが、かごしまぐるりさんならではの強みはどんなところにあると考えますか?
「商品を出品して終わり」のプラットフォームではなく、出品後も生産者さんに寄り添い、マーケティングや販売、営業などをすべて請け負う点が、他社との決定的な違いだと思います。
たとえば、いきなりニンジンを5kg購入するのはハードルが高いから、2kgのお試しセットを作ってみましょうとか、他にも「キャンペーンを打ちましょう」「一緒にSNSに投稿しましょう」と、当社では販売開始後も生産者さんを手厚くフォローします。サイト上に掲載している生産者さんの情報も、アナログな関わりの中で定期的にアップデートして鮮度を保っています。その一方で、あらゆる業務をデジタル化することで徹底的に効率化を図っている点も特長だと思います。
生産者さんにとっては非常にメリットの大きな仕組みですね。
「生産者ファースト」を掲げ、農作業以外の面倒なことは私たちが引き受けるスタンスでサービスを立ち上げたので、そこは徹底的にこだわり続けています。
私たちがおいしい野菜や果物をつくれるかというと、そうではありません。素晴らしいものをつくる生産者さんがいるからこそ、「かごしまぐるり」は成り立っている。生産者さんにはおいしいものづくり、こだわりのものづくりに集中していただきながら、当社が得意とする販売・PRの分野でそれを支えて、一緒に鹿児島のいいものを全国に広めていきたいです。
魅力あふれる鹿児島のブランディングに貢献したい
サイト運営で課題に感じていることはありますか?
サイトのアクセス数が増えて、売上も順調に伸びてきていますが、認知度はまだまだだと思っています。鹿児島の生産者さんの魅力をもっと多くの人に知ってもらうために、今後はオンラインだけでなくオフラインにも力を入れて情報発信していきたいです。
将来的な展望についても教えてください。
私たちは、鹿児島の生産者さんの明るい未来をつくり出すことをミッションとして掲げています。
鹿児島にはいいものがたくさんあるので、それをもっともっと深掘りして、鹿児島中の生産者さんの商品を全国にお届けしたいですし、いずれは鹿児島県全体のブランディングにも貢献できたら嬉しいです。
鹿児島はおいしいものの宝庫で、いいものをつくるために精を出している生産者さんがたくさんいらっしゃいます。「かごしまぐるり」を通じてそのことをどんどん発信して地域のブランド力を高めていければ、生産者さんや私たちのビジネスも、鹿児島の未来も、よりいっそう明るくなるはずですからね。
「鹿児島の未来を明るくする仕事」と考えると、それだけでワクワクしてきますね。
鹿児島にはいいものがたくさんあって、懸命に取り組んでいる生産者さんがいることを、県外の人だけでなく地元の子どもたちや若い人たちにも知ってもらいたいんです。
鹿児島の若い人たちは、高校を卒業すると県外へ出てしまうことが多いのですが、「地元には何もない」と思い込んで出るのと、地元に誇りを持って出るのとでは見える世界がきっと違ってきますし、鹿児島の未来にも大きな差が生まれると思います。中の人が「鹿児島にはいいものがある」と認識することが大切なので、ぜひ地元愛を忘れずに成長していってほしいと願っています。