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アパレルからお茶の世界に転身!ネットショップ月商100万の壁を越えた「すすむ屋茶店」がECを通じて見据える未来

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
“最高の日本茶体験”をコンセプトに、鹿児島・東京に実店舗を構える日本茶専門店「すすむ屋茶店」。鹿児島県で100年続く製茶卸売問屋から2012年に生まれた同店では、日本茶の販売だけでなく、シンプルで機能的な茶道具の開発も行っています。今回は店主の新原光太郎さんに、ネットショップの開店と運営、今後の展開についてお話を伺いました。

父の病気をきっかけに、アパレルからお茶の世界へ

お話を伺うのは、店主の新原 光太郎さん(写真右)

「すすむ屋茶店」を始めたきっかけを教えてください。

僕の実家がもともとお茶屋さんだったんです。お茶屋さんといってもいろいろありますが、わかりやすく例えるならうちは築地の仲買人ですね。農家さんの作った茶葉を契約して買い取ったり、魚市場のように入札でお茶をたくさん仕入れたり……曽祖父の代からそういう商売をやっている家にたまたま生まれて。
ただ、僕はまったくお茶に興味がなくて、東京に出てアパレル関係の仕事をしてたんですけど。

そこから、なぜ地元で家業に入ることになったのですか?

父親が倒れたのがきっかけです。
地元に戻って僕も卸売業に加わったのですが、直接お客さまの顔が見えないので、なんとしてもお客さまの反応を見ながら商売をしてみたいという思いがありました。それで小売の事業として新たに立ち上げたのが「すすむ屋」です。卸売のほうは僕で4代目ですが、すすむ屋茶店は2012年創業なので、まだまだ始まったばかりですね。

現在は鹿児島に1店舗、東京に2店舗を展開されていますが、スタッフさんはどれくらいいらっしゃるんですか?

アルバイトの方も含めて15名くらい、卸売のほうは20名くらいです。

昨今のコロナ禍の影響はいかがですか。

かなりダメージは大きかったですね。実店舗は休まざるを得なかったし、お茶業界全体としても新茶の売り出しや試飲会が中止になったり、取引しているホテルの営業が止まったりで大変でした。お茶を飲むシーンがなくなってしまい、相場もかなり壊滅的でしたからね。

そのかわり、落ち込んだ分をすべてカバーできるほどではないですがネットショップの売上は好調でした。それまで単月で月商100万を超えたことがなかったのですが、ありがたいことに4月に150万、5月に170万くらいは売れました。ネットショップを見た方からの電話注文もいただけましたね。

ネットショップの「月商100万の壁」を超えたのはすごいですね。

ショップ運営のモチベーションは人に喜んでもらうこと

ネットショップを開店したのは実店舗を始めてからですか?

そうですね、実店舗オープンから1年経ってないころかな。カラーミーショップはその当時から使ってます。
ただ、最初の3年間はほとんど触った記憶がなくて…(笑)本腰を入れなきゃなと思うようになったのは、実はここ3年くらいなんですよ。

そのスイッチが入ったのは何がきっかけだったんでしょう。

自分自身、スマホで買い物をするようになったことですね。買い物の仕方も意識もガラッと変わってしまって、やっぱりこれからはECがないと大変だなと。
実店舗とネットショップの並用…端的には「オムニチャネル」なんて言葉が当てはまるんでしょうけど、その言葉を知ったころからネットショップにも本腰を入れるようになりました。

自然とECの重要性にたどり着いたんですね。
実店舗とネットショップどちらにも本腰を入れるとなると、非常に大変だったのではないでしょうか?

地方の企業というのもあって、僕一人の意識が変わったところでECを理解・推進してくれるスタッフがなかなかいないんですよね。なので当初の運用はほとんど僕自身が行っていました。たとえばコンテンツマーケティングを始めるのも、iPadでの商品撮影やバナー作成も最初は自分で。

現在は専任のスタッフさんがいらっしゃるんですか?

社内のスタッフを中心に、外部ライターさんにも手伝ってもらいながら進めています。コロナで実店舗が休業になったときは、仕事のないスタッフさんに在宅でも何かできることを…ってことで記事を書いてもらったりもしてました。

Instagramで投稿する写真はどなたが撮影を?

僕も撮影しますが、各店舗のスタッフにもお願いしています。

写真がとてもキレイなので、カメラマンさんが撮影しているのかと思いました。

クオリティの低い投稿をたくさんするよりは、ある程度のクオリティで少しずつ出すっていう方針でコツコツやってます。このあたりも正直まだ僕が動くことが多いので、もっとうまく仕組み化できないかなと思ってるんですけどね。

新原さんはもともとECに関する知識をお持ちだったんですか?

最初は全然でしたよ。パソコンのキーボードが怖いって言ったら大げさですけど、ほんとそれくらいの感覚でした。知識がないから、外注してもほとんど言われるがままでしたし。

今ではショップ運営やマーケティングを率先して進められているのがすごいです。

いや…そんなことはないと思います。「CRM (※1) 」とか「ライフタイムバリュー (※2) 」なんて単語も最近やっと覚えたくらいですよ。この前も外部の方に言われた「CTA (※3) 」ってのがわかんなくて、すぐググりました(笑)今でもコツコツ勉強しながらって感じですね。

※1 顧客関係管理(Customer Relationship Management)、またはそのシステムのこと。顧客情報を収集・詳細に分析することで、より効率的なアプローチにつなげることが多い。
※2 企業と顧客の取引開始~終了までの期間内に、顧客が企業にもたらす利益を算出したもの。
※3 「Call To Action」の略。Webサイトの訪問者に対し、ボタンやリンクなどで何らかのアクションを促すこと。

ご自身で日々勉強されているんですね。

うん、勉強は嫌いじゃないですね。やっぱり自分で理解しておかないと指示も出せないじゃないですか。

それに人にモノを売ったり喜んでもらうのが好きなので、オンラインという場でも喜んでもらいたいですし。喜んでもらえるなら別にオンラインにこだわらなくてもいいんですけど、世の中の流れ的にも今後はますますその比重が増えてくると思うので、やっぱり勉強しなきゃなって。

ネットショップを運営していて一番大変に感じるのはどんなときですか?

やっぱり写真の更新。クオリティの高いコンテンツをどれだけ投入できるかっていうところかな。一生懸命がんばってはくれるけどWebのことは全然わからないっていうスタッフも地方ではけっこう多くて、みんなに作業をうまく引き継ぐのが大変ですね。

たとえば4~5月の新茶シーズンに合わせて「新商品が出ました」とお知らせするとしたら、3月には撮影を終えて管理画面上で商品掲載の準備を進めるところまで余裕をもってやりたい。でも、だいたい販売開始前日の夜ギリギリに終わらせて一安心って感じになっちゃってて。テキストや写真といった素材を揃えるのが大変なんですよね。

なるほど、販売開始するための素材集め。

最近も実店舗で「うつわ展」をやっていたんですけど、本当は同じことをネットショップでもやりたいと思ってたんです。
実店舗で1週間売ったあと、次の1週間はネットショップ限定って形にすれば、遠方のお客さまにも喜んでいただけると思ってたのですが…撮影とテキスト、商品サイズ計測の準備が追いつかなかった。そのへんがまだうまくやれてない部分だなと感じますね。

自分たちのお茶に合う茶道具が必要だった

すすむ屋さんでは茶道具もいろいろ開発・販売されていますよね。開発を始めたきっかけについて教えてください。

一番の理由は、僕自身がお茶の世界に入ったときに自分が使いたくなる道具がなかったことです。急須ひとつとっても、たとえば伝統工芸士が作った数万円のものか、海外で作られた大量生産品のどちらかしかなくて、あんまりおもしろくなかったんですよね。

「すすむ屋」のお茶を飲食店にたとえるとしたら、1人1万円以上のホテルレストランでも3,000円以下の居酒屋でもなく、5,000~6,000円でおいしいビオワインが飲めるお店くらいの価格帯。ところが、それに合った道具がなかなかないんです。自分たちの世界観をちゃんとお客さまにお届けするためにはツールも作っていこうよ、という思いでオリジナルの茶道具開発も始めました。

ちょうどいいものって確かにないですよね。心から気に入って使える茶道具。

形から入る世界ってけっこうあると思うんですよ。
たとえばワイングラスにはいろんな形があるし、コーヒーでもハリオやイワキ、最近ではキントーとかが人気ですけど、お茶の世界にはその選択肢がほとんどない。いきなり数万円の抹茶碗を手にとるのってハードルが高すぎるじゃないですか。それがちょっと嫌だなと。

なので、ケメックスのコーヒーメーカーみたいに、日常使いできてクラフトマンシップも感じられるようなツールを作りたかったんですよね。大量生産でも少量生産でもない「中量生産」を目指したアイテムが売れれば、作り手さんも喜んでくれる。僕らとしてもお茶の世界が広がれば需要もさらに広がる。なので道具の開発にもけっこう力を入れてます。

すすむ土瓶」かわいいですよね。少し大きめというのがツボでした。

家ではみんなデカい湯呑みやマグカップでお茶を飲んでると思うので、うちの道具は全部大きめに作ってます。おかげさまでいろんな人に買っていただけて、今は雑貨屋さんでも扱ってもらってますね。
高級な茶器ってめちゃくちゃ小さいんですよ。淹れ直すのめんどくさいな~と思って(笑)。

(笑)めんどくさいとか言っちゃいけない空気ってないですか?

そういう同調圧力はありますね。特に中の人がそれ言っちゃダメみたいな空気はありますけど、あえて言っていかないと。お茶を扱う僕ら側が「お茶を淹れるのって実は面倒なのかもしれない」っていう価値観を理解しておくのは大事ですよね。お抹茶の世界のように、上質なものを毎日ちょっとずつ飲むのもすばらしい文化だけど、でもティーバッグも便利だよねって。

卸のほうでは昔からお茶をやっている方ともお付き合いがあると思いますが、どういったスタンスで臨んでいますか?

まったく違う層の人たちにモノを売るので、自分の中での切り替えはかなり意識してます。
父親世代にはすごい技術を持った方がたくさんいて僕もすごく尊敬してます。でも、だからといって技術や伝統のほうが主役になっちゃうと、僕らのお客さまが求めていない独りよがりなモノを出してしまうんじゃないかと思った。だから「すすむ屋」を別会社にしたんですよね。

なるほど。本当に「どちらもすばらしいよね」という考え方なんですね。

そうですね。同じお茶を扱っている仲間ですし、こうでなければいけないっていう決まりはないと思ってます。

流行りに乗るのではなく、お客さまが本当に求めているものを

さっきネットショップで大変な点についてお伺いしましたけど、逆にやっていてよかったと思う点はありますか?

寝て起きたら売上が上がってるときですかね。
今はApple Watchにもカラーミーのアプリを入れてるんですけど、卸の事業が大打撃を受けた4~5月は、Apple Watchに届く受注通知にずっと励まされてました。卸売は世の中の状況次第で大きく変化してしまいますが、ネットショップは一度お客さまとつながったらそれが蓄積されていくので、コツコツやっていくことの大事さを実感した時期でしたね。

月に100万以上売れるとなると、通知がだいぶうるさくなりませんか?

いや、まだ大丈夫(笑)。月1,000万くらいになったら考えますけど、あの通知にはかなり気持ちが救われたので。

ありがとうございます。ECに限らず、今後会社として目指す未来やチャレンジしたいことがあれば教えてください。

お客さまの動きを可視化するという点に、会社としてもっと力を入れていければと思ってます。
うちのショップにどれくらいの人数が入ってきて、どんな動きをしてどんな人たちが買っているのか。お客さまの反応をきちんと見ながら商品づくりをして、また市場の反応を見る……というのを超高速で回したいんです。できれば実店舗とも連動させたい。

店頭で買った方はネットで買っているのかどうかまで追えたらおもしろそうですよね。

そうですね。お客さまの動きがもっとクリアになるなら、そこにお金をかけてもいいかな。
まずそこがわからないと「サービスをこうしていきたい」って考える段階には進めないですよね。最近はサブスクが流行ってるって聞きますし、お客さまが本当にそれを求めているならやりたいんですけど、サブスクをやってることだけが先行してしまったら無駄な努力になりそうな気がしてて。

まずは足元の現状と、お客さまが何を求めているのかを的確に把握する。

うん、難しいですけどね。それができれば自分たちも数字に強くなれますし。
僕、いずれは卸と小売を同じくらいの売上にしたいと思ってるんですよ。それぞれ10億ずつ売上を出して、そのうちネットショップの割合が2割と考えたら年商2億円。そこを目指してこれから頑張っていきますよ。

そこまで売れたらApple Watchが鳴りまくりですね。

はい。もうApple Watchが壊れちゃうくらいまで売りたいです(笑)

今度鹿児島に行ったときは、通知が鳴り止まない様子を見せてください。今日はありがとうございました!