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ECサイト改善は「足す」より「減らす」? 行動経済学から見たEC運営に重要なポイントを相良さんに聞いてみた。

ECサイトの改善に取り組んでいるにもかかわらず、「成果につながらない」「選択肢を増やしているのに、なぜか離脱されてしまう」そんな違和感を抱えているEC事業者は少なくありません。

その背景には、「人は合理的に判断する」という前提に立った設計が、実際の人間の行動とズレているという問題があります。

今回は、行動経済学の専門家として、日本とアメリカを行き来しながら企業のマーケティングやUI/UX設計を監修する相良 奈美香(さがら なみか)さんに、日本のECが陥りやすい「情報オーバーロード」「選択オーバーロード」の課題や、アメリカのECが“迷わず買える”理由、そして今日から実践できる改善の考え方について伺いました。

相良 奈美香さん
行動経済学コンサルタント/行動経済学を専門とする博士
企業のマーケティングやプロダクト設計、UI/UX改善などの行動経済学コンサルティングを、日米を中心に展開する傍ら、執筆やメディア活動を通して行動経済学を広める活動をしている。代表作『行動経済学が最強の学問である』(SBクリエイティブ)は19万部を超えるベストセラーとなり、日本における行動経済学の認知度を広げる大きなきっかけとなった。オフィシャルサイト:https://namikasagara.jp

相良さんについて

はじめに、自己紹介をおねがいします。

行動経済学を専門に研究している、相良 奈美香です。
現在は、日本とアメリカを行き来しながら、行動経済学の理論をビジネスの現場にどう活かせるか、という視点で活動しています。

研究や執筆に加えて、企業のマーケティングやプロダクト設計、UI/UX改善の監修などにも携わっており、とくに「人がどう判断し、どう行動するのか」を前提にした設計を重視しています。

人は合理的に意思決定しているようで、実際には環境や選択肢の出され方に大きく影響を受けています。そのメカニズムを明らかにし、よりよい意思決定につなげることが、私の専門領域です。

著書『行動経済学が最強の学問である』では、そうした行動経済学の考え方を、日常生活やビジネスの具体例を交えながら紹介しています。本日は、ECをはじめとしたビジネスの現場で、すぐに活かせる視点をお話しできればと思います。

「親切」のつもりが、伝わらないECになっている

早速ですが、日本のECサイト全体について、率直な印象を伺えますか?

日本のECサイトは、運営側が「つくりたいものをつくり、伝えたいことを伝えている」ケースが非常に多いと感じます。親切心からか、丁寧に、過不足なく伝えようとしている印象ですね。

それ自体は、誠実な姿勢の表れのようにも感じますね。

悪気はなく、むしろ真面目なんだと思います。

ただ、その結果として、情報を詰め込みすぎて、肝心のところがわかりにくくなってしまっている
本来ECで考えるべきなのは、運営側がなにを伝えたいかではなく、「お客様がなにを知りたいか」です。

お客様にとって、いちばん重要な判断ポイントはどこなのか。そこから逆算して設計しないといけません。

日本のECサイトの課題は、どういった点にあると思いますか?

最大の課題は、「情報オーバーロード」「選択オーバーロード」の状態にあることです。

行動経済学では、「情報が多すぎて、人が非合理な行動をしてしまう」ことを「情報オーバーロード」、「選択肢が多すぎて選べない状態」のことを「選択オーバーロード」といいます。

「情報オーバーロード」では、どんな問題が生じるのでしょうか。

情報量が多いほど、離脱につながりやすくなります。

私自身の経験ですが、名刺をつくるため、ある日本の名刺作成サイトを見たんです。ところが、会社名、名前くらいのシンプルなものを求めているのに、選択肢情報が多く複雑でわかりにくい。

しかも、名刺だけでなく、名刺以外の情報もあふれていて、途中で離脱してしまいました。結局、Google検索で調べ直すことになったんです。

ECの情報過多が、機会損失を生んだ例ですね。

そうですね。
運営側にとっては見慣れた情報でも、初訪問のお客様にとっては、すべて初めて見る情報です。前提知識がない状態で大量の情報に触れると、判断にエネルギーを使いすぎて疲れてしまいます。

相良さんの著書『行動経済学が最強の学問である』にも登場する、「システム1」「システム2」も関係していそうですね。

人の脳は、直感的に速く判断する「システム1」と、論理的にじっくりと判断する「システム2」を使い分けています。(これを「システム1vsシステム2」といいます。詳しくは書籍をご確認ください。)

ECサイトを見る際、EC運営者と初訪問のお客様とでは、使っている思考モードが違います。

運営側は自社サイトなので、いちいち読まなくても、どんな情報がどこにあるのかパッとわかりますよね。これは、システム1が働いている証拠です。

一方、初めて訪れたお客様は前提知識がないので、システム2で情報を論理的に捉え、じっくり考えて理解しなければなりません。そのため情報が多すぎると、システム2をフル回転させてもオーバーロード(過負荷)の状態になります。

なるほど。もうひとつの「選択オーバーロード」には、どんな問題がありますか?

選択肢が多いのはよさそうにも思われますが。人は選択肢があることを好みますが、選択肢が多すぎると選べなくなるんです。行動経済学の観点からは、選択肢は10個がベストといわれています。

商品ラインナップも10点までがいいという事でしょう?

はい。ある「ペン」の購入実験では、10本までは商品数が増えるほど購入意欲が高まりました。もっとも購入率が高かったのが、10本のときです。

ところが、選択肢が11本以上になると購買率が下がりました。20本では、なんと2本から1本を選ぶ場合よりも、購入率が低い結果となりました。

商品は多ければ多いほどいいという考えが、間違っていることを示しています。

商品数が多すぎると、逆効果になるんですね。

だからこそ、ECの情報量や選択肢が多いなら減らさなければなりません。
日本のECは、「とにかくぜんぶ提示して、理解してもらい、その中からいちばんいいものを選んでもらおう」という、伝統的な経済学の考え方が根本にあります。

ただ、実際の人間の行動は、そこまで合理的ではありません。

経済学と行動経済学では、考え方が違うんですね。

経済学では「人間は常に合理的に行動するもの」と考えますが、行動経済学では、「人間は非合理的な意思決定をするもの」と考えます。前提が違うんです。

近年、世界的に注目され、活用が進んでいるのは行動経済学なので、ECもそちらにシフトしなければなりませんね。

そうですね。この数年、アメリカと日本を行き来していますが、行動経済学の観点から見ると、日本のECサイトやアプリはかなり遅れていると感じます。昨今のアメリカでは、GAFAMを筆頭に、EC各社も行動経済学を重視し、取り入れつつあります。

気になる方は、アメリカのECサイトを、のぞいてみてもいいと思いますよ。

ECサイトで重要な「選択アーキテクチャー」とは?

アメリカのECサイトと日本のECサイトでは、かなり違いがありますか?

大きく違いますね。アメリカのECはとてもシンプルで、決済手段もかなり絞られています。購入までが非常にスムーズで、迷うポイントがほとんどありません。車のような高額商品もかんたんに購入できます。我が家でも先日購入しました。

大きな買い物も、ECで完結しているんですね。

はい、それも、驚くほどあっさり終わります。もちろん、高額商品の購入時は事前にきちんとリサーチします。星の数は、参考にすることもありますが、日本のようにレビューを細かく読み込んだり、口コミを重視したりはしません。

レビューの扱い方も、日本とは少し違いますか?

レビューはありますが、日本ほど積極的に参照する文化ではないと感じます。

私自身は、星の数をざっと見る程度です。

情報が少なくて不安に感じる人はいないのでしょうか。

日本では、「こんなにあっさりしていて大丈夫?」と思われるかもしれませんね。

ただ、前述のとおり、情報が多いことが必ずしも安心につながるわけではありません。

情報が増えれば増えるほど、「本当にこれでいいのか」「もっといい選択肢があるのではないか」と考えてしまいます。その結果、判断に迷い、購入に踏み切れなくなります。だからこそ重要なのが、「選択アーキテクチャー」という考え方です。

ここでいう「アーキテクチャー」とは、建築の話ではなく、人が判断する環境そのものを設計することを意味します。

「選択アーキテクチャー」とは、改めてどういう概念でしょうか。

人は、自分で主体的に選んでいるつもりでも、実際には「環境」や「選択肢の出され方」に大きく影響を受けています。

その環境をどう設計するか、つまり「どう選ばせるか」を考えるのが、選択アーキテクチャーです。

アメリカのECは、その設計がうまく、選択肢をあえて絞り、余計な情報を見せず、「ここを選べばいい」と自然に導いており、その結果、ユーザーは迷わず、ストレスなく購入できるんです。

日本では、商品ページに動画を埋め込む動きも活発ですが、動画の効果についてはどうお考えですか?

ケースバイケースですね。使い方がわかりにくい商品や、写真だけでは理解しづらい商品では、動画は非常に有効です。

一方で、たとえば名刺の発注のように、使い方が明白な商品では、動画は必ずしも必要ありません。むしろ、「ここまで説明されると面倒だな」と感じられてしまうこともあります。

親切のつもりが、逆効果になることもあるということですか?

そのとおりです。
大切なのは、「本当にその情報が、購入判断に必要かどうか」を見極めることです。くれぐれも情報過多にならないよう、注意していただければと思います。

行動経済学で読み解く、衝動買いの正体

書籍に、非合理な意思決定を決める要因として、おもに「認知のクセ」「状況」「感情」の3つがあると紹介されていました。それぞれについて、かんたんに教えていただけますか?

ひとつめの「認知のクセ」とは、脳の「情報の処理の仕方」のこと。そこに歪みがあるため、人は非合理な意思決定をしてしまうことがあります。

次の「状況」は、周囲の状況が人間の判断に強く影響することを意味します。「人間は環境に左右されて意思決定し、状況に影響されて行動している」のです。

最後が「感情」です。不安や怒りのような「はっきりとした感情」だけでなく、喜怒哀楽ほどはっきりしない「淡い感情(アフェクト)」も、人の判断に大きな影響を与えます。

ECにとくに関係しそうなのはどれですか?

「状況」ですね。人は主体的に判断しているつもりでも、実際には環境に判断させられていることが多いんです。

その代表的な考え方が、前述した選択アーキテクチャーです。環境をどう設計するかで、人の行動は大きく変わります。ECサイトにも十分に取り入れられる考え方でしょう。

書籍には、自制バイアス(衝動を抑えられると過大評価してしまう認知のクセ)によって、「買うつもりはなかったのに、思わずポチってしまう」ことがある、と書かれていました。選択アーキテクチャーを活用して、衝動的な購入を促すことは可能でしょうか。

可能です。ただし前提として、情報量が多すぎてはいけません。「セーターがほしい」と思って検索する時点で、購入意欲はすでに高い状態です。

なのに、訪れたECサイトで、キーワード検索し、色や素材、形を選び、カートに入れ、会員登録し、決済方法を選択。そこで、「クレジットカードの情報を入れなきゃいけない。でも、今は財布が手元にない」となれば、離脱につながります。

「決済が面倒で離脱する」という話はよく聞きますが、そこに至るまでの選択肢が多く、ステップが複雑なことも、離脱を招く要因になるということですね?

そうですね。なにかを買うときは、「本当に必要か」「後悔しないか」といろいろ考えますよね。その結果、離脱した経験もあると思います。購入までの手続きが面倒なことは、衝動的にポチれない要因にもなります。

買わない理由を突き詰めると、「面倒くさい」に行き着くんですね。

おっしゃるとおり、考える時間が増えるほど買わなくなるので、ECではできるだけ考える隙を与えず、スムーズに決済まで進む環境をつくることが大切です。
Amazonのワンクリック購入は、その代表例です。

行動経済学の観点で、ほかにも配慮すべきことはありますか。

「なに」を「どう」伝えるかだけでなく、「いつ、どのタイミングで伝えるか」も重要です。

トップページなど、最初は抽象的な内容で購入意欲を高め、下層ページに進むにつれ徐々に具体的な情報を提示していくのが理想です。決済手段をトップページで詳しく説明しているケースもありますが、その点は一度見直してみる必要があるでしょう。

日本のEC事業者が、行動経済学を活用したい場合、なにから始めるといいでしょうか。

学ぶという意味では、まず自分の行動を見つめ直すことが大切です。ほかのECサイトを使ったとき、どう感じるかを考える。

ビジネスに役立てるなら、お客様の行動理解が肝となるので、「自分がお客様だったらどうか」を考えます。私がECサイトを監修する際は、客観視するためにも必ず第三者に見てもらうようにしています。

商品やサービスを知らない人、行動経済学を知らない人の反応やフィードバックは、とても重要です。ただ、一般の方は、感じた違和感を言語化することに慣れていない場合も多いため、専門的なフィードバックを得たい場合は、行動経済学の専門家に相談するのがいちばんです。

その購入体験は、本当にリピーターを生んでいる?

日本のECでは、購入体験を高めるため、ラッピングや名入れなどのカスタマイズも充実しています。カスタマイズは、ブランディングやロイヤルティ醸成の観点でも、プラスに働くのでしょうか?

カスタマイズを提供する場合、そのカスタマイズが購入モチベーションにつながるかどうかが重要です。ただ、カスタマイズなどの選択肢が増えることで、かえって考える時間が生まれ、その結果、離脱につながることもあります。

カスタマイズで自分だけのオリジナルのものが手に入る場合はプラスに働きますが、バーコード商品とか既製品のセレクトショップなどでは、選択肢を与えることで行動を止めてしまう可能性がある、ということでしょうか?

そうです。初めてのお客様は、最初の購入時には、カスタマイズの存在を意識していません。なので、購買意欲にはつながらない。

リピート購入も、たいていは商品が届いた直後ではなく、数週間後や数カ月後、ときには1年以上あとになることもあります。そのときに、ラッピングがどうだったかまで、覚えている人はほとんどいないと思います。

そもそもプレゼント以外で、「ラッピングできるから買おう」と、意思決定する人はあまりいないですよね。

たしかにそうですね。その理論でいくと、商品をお届けする箱にこだわったり、手紙を入れたりすることも、プラスに働きにくいでしょうか。

そう思いますね。
そもそも商品が届くこと自体がポジティブなことなので、プラスαの驚きは必要ないんです。プロスペクト理論には、「利益が増えるほど、感じる喜びは小さくなる」という考え方があります。

0から1になる喜びは大きくて価値がありますが、5から6、7から8に上がる心理的インパクトは小さく、価値はほとんどない。そこにリソースを割くのであれば、サイト改善に力を入れることをおすすめしたいです。

少し話は変わりますが、書籍で驚いたのが、ECでは、「PCよりもタッチパネルのほうがポチりやすい」ということです。スマホやタブレットを使うと、買い過ぎる可能性もあるんですね。

スマホやタブレットは、意思決定しやすいデバイスです。とくにスマホだと、あまり考えずにポチってしまいますよね。

そういう意味でも、第三者にフィードバックをもらうときは、アプリだけでなくECサイトも、あえてスマホで見てもらう、というのもひとつの方法かもしれません。

行動経済学の成果事例

行動経済学を取り入れて、成果が出た事例を教えてください。

ECではありませんが、クレジットカードのDMで、文言の順番を入れ替えただけで申込率が5倍になったことがあります。

それはすごいですね!

金融商品なので規制があってできることは限られていましたが、開封してもらうにはどうしたらいいか、最後まで見てもらうにはどうすべきかを検討し、改善しました。

人の行動は、なにかを少し変えるだけで大きく変わることが、多くの実験で証明されています。その一例に加わることができた事例といえるかもしれません。

行動経済学を学べば、すぐにビジネスに活かせますか?

正直、難しい分野です。

行動経済学を応用できるまで理解するには、一朝一夕にはいきません。とはいえ、行動経済学を知らないままだと、間違った意思決定をし続けることになります。知ることで、間違いを100から95、90、85へと、少しずつ減らしていくことはできると思います。

改善してもなかなか成果がでない、お客様が思ったとおりの行動をしてくれないとお悩みの方は、まずは相良さんの書籍を読めば、気づきが得られそうですね。

行動経済学に興味をもつきっかけとなっていただけたら嬉しいですね。行動経済学を知ると、今まで当たり前に見ていたことが、当たり前じゃなくなってくると思います。

「自分で意思決定したと思っていたことが、じつは違った」ということに気づかされるはずです。

だれもが、さまざまなものの影響を受けて、意思決定しているのですね。

ECのお客様も、もちろん自分で意思決定していますが、ECサイトの状況に影響されるのも事実です。ビジネスでは、その特性を理解したうえで、できるだけ有効に活用するといいと思います。

最後に、今日からできる実践方法を教えてください。

EC運営者がまずやるべきことは、情報量の見直しです。

今の情報量を「半分にできないか」を考えてみてください。その際に必要なのは、第三者からフィードバックをもらうこと。まっさらな目で見てもらうことで、情報オーバーロードや選択オーバーロードの状態を、軽減できるかもしれません。

また、ECサイトでもっとも重要なのは、選択アーキテクチャーを意識して設計することです。
商品は多ければ多いほどいいわけではありません。どう見せ、どのタイミングで出し、どう選ばせるか。情報を整理し、最適な構造を考えることが重要です。

商品の提示の仕方も、最初からぜんぶ出すのではなく、小出しにするなどの工夫が必要です。

その設計が、お客様の行動を決めます。今日お話したのは、行動経済学のほんの一部ですが、ぜひ記事を参考にしてECの改善に役立てていただけたらと思います。

相良奈美香オフィシャルサイト
著書『行動経済学が最強の学問である』