鹿児島県薩摩川内市、東シナ海に浮かぶ甑島(こしきじま)で、島の食材を活かしたさまざまな加工品を販売している「山下商店」。
同店を運営する「東シナ海の小さな島ブランド株式会社」は、人口1,000人ほどの小さな集落で豆腐店やベーカリー、宿泊施設などを立ち上げ、地域文化や環境を活かして未来へつなげていく取り組みを行っています。
今回は、代表を務める山下 賢太さん、通販事業部の平川 晴美さんに、島の特徴や個性を活かしたECサイト運営と、今後の事業展開についてお話を伺いました。
コロナ禍でEC事業を見直し、コンテンツ戦略を強化
まず、ECサイトを立ち上げた経緯について教えてください。
山下さん:
初めてECを開設したのは、会社としてではなく僕が個人で農業をしていた頃です。
当時は島内の耕作放棄地で育てたお米を販売していましたが、数年前に役割を終えてクローズしてからは、コロナ禍が始まるまで、EC事業はほぼ手つかずの状態でした。
コロナ禍がきっかけで、EC事業を再始動させたのですね。
山下さん:
はい。観光事業での収益がゼロになってしまった中で、本来なら観光客の方に手に取っていただけるはずだった商品を、ECサイトで販売することにしました。
当初は無料サービスで急いで立ち上げたので、応急措置としては助かりましたが、会社のビジョンを考えたときに「このままでいいのだろうか?」と疑問が生じてきてしまったんですよね。
それはどういった疑問だったのでしょうか。
山下さん:
“ただ何かを売るだけ”のやり方では戦えないんじゃないか、と思ったんです。
アフターコロナも見据えて、この島にある僕たちの日常や大切にしている価値観をコンテンツでしっかり伝えられるサイトを運営したいと考え、カラーミーショップに移行する形でサイトリニューアルを行いました。
特産品としてではなく、食卓で求められる商品づくりを
普段、甑島へ観光に訪れる方は多いのでしょうか。
平川さん:
「鹿児島の離島」というと南国らしい温暖さをイメージされる方も多いですが、冬は北西風がとても強いので、島民の方も自宅での手仕事が増えて、とても静かな時間が流れます。
一方、春夏の観光シーズンは多くの人で賑わいますが、沖縄や屋久島などのように観光に特化した島ではないので、あらゆるものが不足しがちです。
島内の宿泊施設がすべて満室になったり、観光客の方の食事が足りなくなるほど混雑することもありますね。
それはすごいですね。ECサイトの売れ行きにも季節ごとの変動はありますか。
平川さん:
島でとれた農産物や旬の商品なども一部扱っているので、若干の変動はありますね。
たとえば、島の新玉ねぎを使った手作りドレッシングは大人気で、リピーターさんも非常に多い商品です。春から夏にかけてはこれが一番の売れ筋で、ドカンと売上を伸ばしてくれる心強い存在です。
商品開発も行っているんですね。
山下さん:
創業当初から自分たちでジャムやドレッシングを作っていたのが徐々に本格化していきました。
多くの方に知られているメジャーな島ではありませんから、「特産品としての商品づくり」ではなく、全国の食卓で甑島のものが求められる状態をめざして、「食卓から逆算した商品づくり」を進めています。
輸送にはコストがかかるし、大きな工場も作れません。
なので、自分たちで島外へ届けていくよりは、島へ来た方に手に取ってもらうおみやげとして商品展開し、今では少しずつ本土の雑貨店やセレクトショップなどにも置いていただけるようになりました。
日常の食卓になじむ商品づくりを行ったからこそ、島の外へも自然と広がっていったんでしょうね。
地方×ECで叶えられる働き方の多様性
昨今、高齢化や若者の流出が進む地域が増えていますが、ECがこうした課題の打開策となりうるような手応えは感じますか。
山下さん:
そうですね。売上規模で言えば僕らはまだまだこれからですが、地方におけるECの最大の強みは、多様な働き方をデザインできることだと思うんです。
「地方で働く」といえば農業や林業、漁業などのイメージが未だ根強く、一方でデスクワークやECサイト運営といった仕事は少ないのが現状です。
そのため結婚して子どもが生まれたり、親の介護が必要になったりと、さまざまな事情で仕事を続けたくても続けられない…といったケースも多く見られます。
もし子育て・介護の合間に自宅で働けたら、若い人たちが島を出なくても済むようになりますよね。
山下さん:
かつて実店舗の片手間で運営していたECを本格化させたのは、実はそれも動機の一つなんです。
うちのスタッフにはまだ若い子が多いですが、今後彼らの人生に節目が訪れても、会社としては「辞めない」選択肢をきちんと用意しておきたいし、会社としての総合力を高めていくこともできますからね。
これがうまくいけば、他の離島や地域の希望にもなっていくんじゃないかなと。
島で生まれ育った方はもちろん、島外から移住してくる方にとっても、働き方の多様性が広がることは魅力ですよね。
本土にはない、離島のECからでしか発信できない価値とはどんなものだと思いますか。
山下さん:
島の数だけ答えはありますが、離島のおもしろさは「ものが届かない」、そして「思い通りにものを届けられない」ことにあります。
海に囲まれていれば生産規模の拡大は難しいし、原料も商品も人手も足りません。
でもその「足りなさ」をおもしろがれるかどうかが、離島の魅力につながるんじゃないかなと。
今日注文したものが明日には届く便利さについつい慣れがちですが、そうとは限りませんよね。
山下さん:
離島はまさにその逆です。台風が来れば船は出ないし、行きたくても行けないし、物流も遅れます。鮮魚を届けたくても、海が荒れてしまったら漁場に行くことすらできません。でも本来はそれが自然で、当たり前のことですよね。
必ずしも思い通りには届けられないけれど、都会にはない風景があり、そこに暮らす人たちがいます。
ただ商品を届けるだけではなく、そんな物語も一緒に感じてもらえたら嬉しいし、「いつか行きたい、会いたい」と思ってもらえる共感型のECを作れたら、これからの日本のECをおもしろくする一助になれる気がしています。
そんな世界を作りたいですよね、カラーミーショップさんとも一緒に。
少しでもそのお手伝いができれば、私たちもすごく嬉しいです。
「離島の地域商社」として、若者のチャレンジを支えたい
今後の目標についても、ぜひ聞かせてください。
平川さん:
まずは求めている方にお届けできるようにアクセス数を伸ばしつつ、サイトに足を運んでくれた方に商品の背景にある物語をしっかり伝えられるよう、新しいコンテンツ記事を増やしていくことが私の目標です。
今も毎年約1.5倍ずつ成長していますが、山下は常にその倍を求めるので(笑)。
どうせなら他の離島の方たちにも、「甑島でやってるなら自分たちにもできそう」と思ってもらえるくらい、売上を伸ばしたいです。
着実に成長されているんですね。
山下さん:
今はあくまで甑島を中心としたサイト運営をしていますが、いずれは種子島や沖永良部島といった鹿児島県内の他の離島にもフィールドを広げていくつもりです。
「離島の地域商社」として役割を担えるECサイトにしていきたいし、全国の島々、特に若い人たちのチャレンジを僕らが掬い上げ、ECサイトを通じて物語を届けていくことが中長期的な目標です。
そのためにも、まずはこの甑島というフィールドから売上を伸ばしていくことで、次の事業展開を行える体制を整えたいと考えています。
最後に、これから離島でECを始めようか迷っている方へ、一言アドバイスをお願いしたいです。
山下さん:
どんなECサイトを運営したいかにもよりますが、単純に「実店舗の売上が伸びないからECを始めたい」というのなら、まずは実店舗をしっかりと改善したほうがいいと思います。
実店舗がよくなければ結局ECもうまくいかないので、売上改善のためのアプローチを見直してみてほしいです。
でも、やっぱり一番は「習うより慣れろ」ですよね。
お客さまから得られる学びもたくさんあるので、あまり迷わずに始めてみてほしいし、世の中に伝えたい・届けたいものがあるのなら、やったほうがいいと思います。
島内外にファンが増えていくことを信じて、ぜひチャレンジしてみてほしいですね。
本日は素敵なお話をありがとうございました!
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