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全国90店舗に商品を卸す『HAPPY NUTS DAY』の思いがこもったネットショップ運営

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
全国90店舗に卸しを展開する九十九里のピーナッツバターブランド『HAPPY NUTS DAY』。今回は代表の中野 剛さんにブランドの立ち上げ秘話や思いのこもったネットショップ運営についてお話を伺いました。

スケボーをやった後にピーナッツバターを作る日々

なぜピーナッツバターを作り始めたんですか?

元代表の村井と僕は学生時代からスケボー仲間だったんです。村井は千葉県知事を目指していて、彼の地元が九十九里でした。ファーストステップとして狙っていたのが「農業を手伝って、地元の魅力に気づきたい」「まずは、九十九里の町長を目指したい」というところだったので、あるとき「九十九里のトマトがおいしいから、何かできないか?」と声をかけられたんです。

中野 剛さん

最初はトマトで考えていたんですね。

そう。それで、生産者さんにトマトの年間処分量を聞いてみたんですよ。そうしたら「すみません、全部捌けちゃいました」って言われて拍子抜けしたんです。代わりに、落花生の畑を提案されたので「じゃあ、ピーナッツバターでも作ってみるか!」となったんですね。

ひょんなところから、ピーナッツが出てきたんですね。

勢いですね。最初はすり鉢でゴリゴリ擦って作ってたんですよ。
スケボーをやった後にピーナッツバターを作るのが定番になって、「ミキサーを買ってみようか?」「屋台やってみようか?」ってだんだん加速して。千葉の道の駅とかで、タッパーに手書きで「ピーナッツバター」って書いた簡単な物を売り始めたんです。

現在は何名で運営されているんですか?

3名でやっています。僕の肩書きは代表兼アートディレクターです。

おしゃれなパッケージですが、デザインも中野さんが担当されたんでしょうか?

そうです。シェアしたくなるようなパッケージがいいなと思って、こんなかんじにしています。
僕は多摩美術大学を出ていて、ネットショップのデザインや写真は、そのときの友だちと一緒にやっています。好きな仲間と一緒にやるのが一番です。

取り扱い店舗は全国90店舗

ピーナッツバター は月にどれくらい売れるんですか?

3,000個くらい売れます。そのうち3割がネットショップやイベントです。

すごい数ですね! メディア掲載も多いですが、集客は何か工夫されていますか?

やってないです。

営業活動のようなことは…?

やってないですねぇ。

にもかかわらず、かなり多くのお店で取り扱われてますよね。

そうですね。北海道から沖縄まで、全部で90店舗くらいあります。

何が功を奏したんでしょうか?

最初のころ、原宿にあるレストラン『eatrip』さんに置いてもらえたのが大きかったかもしれません。飲食業界の人も手にとってくれたりして、それをきっかけに雑誌などでも紹介されるようになりました。

どういった経緯でeatripさんに置いてもらえたんですか?

知人にオーナーの野村 友里さんを紹介してもらったんです。ブランドを立ち上げて間もないころだったので、タッパーに入れたピーナッツバターを食べてもらいました。そしたら、すごく気に入ってくれて、お店に置いていただけました。

そういえば、Instagramでもお客さまを巻き込んで「ピーナッツバターが買えたら嬉しいお店」を質問されていたのが印象的でした。

僕らはとにかくメンバーが少ないので、新しいお客さんを取りに行くんだったら、今のお客さんに何ができるかに体力を割こうっていうポリシーなんだけど、たまたま体力が余っていたので試してみたんです。「おすすめのお店教えてください!」って。

自分たちで営業先を選ぶのではなく、情報を募ったんですね。

僕ら、そういうおしゃれなお店なんて知らないんですよ! スケボーやってコンビニ行ってビール買って、っていう人間なんで。それなら、僕らより知っている人たちに聞くしかないなと思って、Instagramで呼びかけたんです。これが唯一の営業っぽい仕事ですね。

1,000個のピーナッツバターが5時間で完売

Instagramでは年末に何か事件が起きたようでしたが…?

昨年末、九十九里の倉庫で発送を管理している子がいるんですけど、その子が間違えてMサイズの瓶を1,700個、誤発注したんです。​​ある日、九十九里の倉庫に行ったら、どーんと山のように瓶があったんですよ。完成されたものが1,700個。このままだと破棄することになっちゃうけど、生産者さんが頑張って用意してくれたのに、それだけは絶対に避けたくて、「どうしよう参ったな」ってナヨナヨ悩んでたんです。

とりあえず、卸先の人たちにメールで事情を話して「助けてください!」ってお願いして700個は捌けたんです。でも、まだ残り1,000個もあって、もう「神社とかに屋台を出して正月に売るか!?」って話までしてたんですよ(笑)。「貸し屋台、これくらいの値段なんだね」「食品衛生管理者の免許がいるね」みたいな話が飛び交って。

いよいよ、打つ手がなくなったんですね…。

本当にそう。それを見ていたシェアオフィスの仲間が「もうFacebookとかInstagramでミスったことをみんなに言ってみれば?」って言ったんですよね。

それって、すごく勇気がいることですよね。

うん。でも、助言に従って正直に「1,700個誤発注しちゃいました。助けてください!残り1,000個、千円で売ります!」って投稿して、初めてのセールをやったんですよ。そうしたら、わーっと売れ行きが伸びて、3時間くらいで一回落ち着いたんです。
その後、もう一回ドカンと跳ねて、その理由は糸井重里さんがツイートしてくださったからなんです。 それで、5時間で全部売れたんですよ。

ファンの人に助けてもらえて、すごいことですね! 愛されてますね。

本当に奇跡でしたね。

去年一番の収穫は障害者雇用施設への委託

ネットショップはどなたが運営されているんですか?

昨年の10月くらいまで僕がやってましたが、最近は事務のスタッフを雇ってお願いしています。

結構な量があるかと思いますが、発送業務はどのように行っていますか?

メンバーが極端に少ないんで、やっぱり発送業務は追いつかなくなってきて、昨年の始めに業務委託をしようかって話があがったんです。すっごい安く、受注管理までやってくれるようなサービスがありますし。でもなんか、機械的に感じて嫌だったんですね。

すっごい愛を込めて育てたピーナッツを、長年愛をもって焙煎してくれている焙煎士さんが加工してくれて、そういう思いのこもったピーナッツバターを、送る人間が「ただ業務としてやる」っていうのは、どうしても避けたいというわがままな気持ちがあったんです。

僕が発送をやっていたときは、袋一つひとつに「ありがとうございます」って書いてたんですよ。お客さんに会えないから、唯一の直に近いコミュニケーションだと思って。

そういうのを、ずっと大切にしていきたいなぁと思っていたときに障害者雇用施設への委託を友だちに勧められたんです。

障害のある方にお願いしようと思った決め手は何だったんでしょうか?

施設に仕事内容を説明しに行ったとき、まさかの「誰も字を書けないです」って言われたんです。ただ、「スマイルマークなら描けるよ」ってことで、それでもお客さんはハッピーになるしいっか! といったん引き上げたんです。

それでね、次に施設に顔を出したら、そこらじゅうにぶわーーっと「ありがとうございます」が書かれた紙が散らばっていたんですよ。ものすごく練習してくれて、みんな書けるようになってたんです!「ああ、もうお願いします!」って、決めましたね。

それは感激しますね。

効率で言ったら、普通は選ばないと思います。作業も僕がやる5倍はかかるんですよ。すっごいスローペース。でも、ゆっくり書いて物を入れて、伝票を貼り終わるたびに、立ち上がって拍手するんですよ。「書けた〜!」って。めちゃくちゃ時間かかるんですけど、すごくいいんですよね、これが。

そんな思いが詰まっていると思うと、受け取った方もますます笑顔になりますね。

普段から助けられています。彼らはみんなピュアで、とにかく仕事をお願いしていて気持ちがいいんですよ。彼らに、超えられるハードルのパスを投げられたことで、すごい価値のあることができたなって。去年一番の収穫だったと思っています。

僕も初めて知ったんですけど、こういった施設ってたくさんあるんですよね。業務パートナーの選択肢に障害者雇用施設が当然あるべき社会にしたいと思っていて、HAPPY NUTS DAYとしても、一緒にやっていることをできるだけ人に伝えていきたいと思っています。

将来は雇用を生むような存在に

今後、何か新しく始めたいことはありますか?

生産者さんが減っているという問題をどうにかしたいです。なかなか、農業をやりたい若者はいないですからね。だから、将来は雇用を生むような存在になりたいです。ピーナッツを作ったら売れる! みたいな。作りたくなるような産業を作っていきたいです。

ピーナッツバターとその生産に関わる人みんながハッピーになる仕組みですね。

僕個人の話だと、地方産業の価値の高さを現代に伝わる形へブランディングすることに大きな必要性を感じています。日本のおいしい落花生を「ピーナッツバター」という形で人々に届けているように。
今、地方産業の衰退が加速しているかもしれませんが、テクノロジーの進化も加速しているので、そこに何か鍵があるのではと気になっています。これからも、さまざまな産業に貢献していくつもりです。

さらなるご活躍を期待してます! 今日はありがとうございました。