幼少期から商売志向が強く、兄弟で起業へ
まずは土田さんが起業し、古着店を立ち上げた経緯を教えてください。
高校のとき、趣味で古着にハマったのが始まりですね。
うちは両親が商売をやっていたので、自分もいずれ商売をして生きていくのだろうなと幼少期から漠然と予感していたんですよね。なので大学進学で上京する頃には、就職はせずに古着屋として独り立ちするつもりでいました。好きなことだったら飽きずにいくらでも続けられますし、自分で事業を立ち上げれば、思いどおりの環境で存分に力を発揮できるだろうと。
とはいえノウハウが全くなかったので、大学卒業後にまず地元新潟の古着屋さんで1年半くらい働いたのち、2歳下の弟を誘って2002年に独立を果たしました。
ご実家はどんな商売をされていたのでしょうか?
主に飲食店向けに食材や厨房機器の仲卸業を営んでいました。古着屋とはジャンルこそ異なりますが、仕入れ商品を販売する事業形態や、薄利多売な点は共通しているよねと家族でよく話しています。家業は継ぎませんでしたが、結果的に僕も両親と似たような道を辿っている気がします。
弟さんを誘って、ご兄弟で起業したのはなぜですか?
弟も古着好きだったんです。同じく大学進学を機に上京し、当時住んでいた場所も近かったので、共通の友人を交えてよく渋谷や原宿の古着屋さん巡りをしていました。独立にあたり、ちょうど進路を見失っていた弟に声をかけたのがきっかけですね。
僕個人としては、結婚と起業、実店舗オープンが重なり、今思えば人生の転機となる時期でした。
創業以来のこだわりは、アメリカでの直接買い付け
独立後、最初の仕入れはどうされたのですか?
実店舗オープンの1ヶ月前に、アメリカのシカゴへ買い付けに行きました。
アメリカには「スリフトストア(Thrift Store)」と呼ばれるリサイクルショップのようなものがたくさんあります。不用品を寄付すると税金が一定額控除されるため、主に衣類や生活雑貨などのユーズド品がたくさん集まってきて、ヴィンテージ品でも安価で手に入れることができます。
中でもシカゴのスリフトストアは特に充実していると知り、自分の目利きを信じて渡米してみました。
現地にツテはありましたか?
一切ありません。ビジネスモデルとして頼れる存在もなかったので、最初は「とりあえず」からの手探り状態で本当に大変でした。旅行以外での渡米経験もありませんでしたからね。
ネットで「スリフトストア」と検索し、プリントアウトしたマップを手に訪ね歩くのは宝探しのような楽しさもありましたが、行けば確実にいいものが買えるという保証はなく、ある意味賭けのようなものでした。
実店舗の場所も決まっている状態で、買い付けは手探り……! すごい勇気です。
今思えば本当に未熟でしたね(苦笑)。とはいえ、当時のヴィンテージ品には夢がありました。世界的なヴィンテージブームをリードしていたのは日本だったので、1本1ドル(当時のレートで120~130円前後)で仕入れたデニムが、日本では50万円で売れることもザラにありました。「当たればラッキー」という大きな可能性を秘めていたんです。
ラージボックスと呼ばれるアメリカンサイズの大きな箱で3~4箱くらい買い付けて、それを日本に持ち帰って販売し、また買い付けのために渡米して……を繰り返し、徐々に渡米の頻度を増やしていきました。
ただ、2~3年も経つと現地に優れたバイヤーが増えてきて、スリフトストアからは撤退せざるを得なくなりましたけどね。
次はどういった手段で仕入れたのでしょうか。
いいものを確実に入手するために、安くはないですが、現地のディーラーさんとの取引にシフトしていきました。
買い付けエリアもロサンゼルスなどの大都市に移し、価値あるユーズド品を提供してくれる人たちとのつながりを深め、仕入れ販売の実績を重ねて、今に至ります。
英語でのコミュニケーションや交渉に苦労されたことはありますか?
今となっては気心の知れた相手なので商談は比較的スムーズに進みますが、僕は今でも英会話が苦手なんです。毎月のように渡米していても、会話力を上げるのって意外と難しいんですよ。ホテルや空港、食事、タクシーに乗るときなど、こちらの言葉をなかなか聞き取ってもらえず苦労しています(苦笑)。
古着の買い付けは、センスと思い切りのよさが重要です。アメリカのディーラーさんはあれこれ悩むのを嫌うので、潔いほうが好かれるんですよ。下手に知識があってもブレーキがかかってしまうので、売り方などは考えず、知識と経験をもとにピンときたものを購入しています。
現在も買い付けは土田さんお一人で担当されているんですか。
はい。毎月1週間の滞在期間中にシカゴ、ニューヨーク、ボストン、コロラドなど4~5州を一気に巡ります。毎日移動しないと仕事にならないので、多いときだと国内線に8本は乗っていますよ。
かなりハードな滞在ですね!
もう、ずっと時差ボケ状態です(笑)。それでも風邪ひとつ引かずにやってこれたので、強靭な体力とメンタルをくれた両親には感謝ですね。正直タフじゃなかったらここまで続けてこれなかったと思います。
購買意欲を高める「SOLD OUT」表示
ECサイトはいつ頃から始めたのでしょうか?
お店を構えてから3年目くらいに、「ECサイトを作りませんか?」と営業の方が訪ねてきまして……ちょうど商売のフィールドを広げたいと考えていたタイミングだったので、これも何かの縁だと思って始めることにしました。
当時は、古着といえば実店舗で実物を見て買うのが主流で、「ECでユーズド品を買うなんて」という時代。それでも挑戦心が勝ってECでの販売に着手しました。
カラーミーショップを導入したきっかけは?
当時在籍していたスタッフに勧められて、当初のサイトから引っ越す形で2014年に導入しました。カラーミーショップのおかげで、お客さまにより安心してご利用いただけるサイトを構築できたと思います。
普段の運営業務はどういった体制で行っていますか?
僕を含めスタッフ11名のうちEC担当は3名で、その日のシフトによっては1名で対応することもあります。
業務の流れとしては、その日掲載する商品の選定、撮影、採寸、ライティングなどの作業を毎日10~18時までの間に進め、22時に新しいアイテムを公開します。この作業はパンデミック前まで僕がワンオペで担当していましたが、今は弟や他のスタッフにも任せられるようになりました。
毎日更新されているんですね!
年末年始休暇以外は毎日ですね。マッシュルームのサイト更新チェックをお客さまの生活の一部に組み込んでもらえるよう、ECサイトを立ち上げて以来続けてきました。
商品の多くは公開後すぐに完売します。一瞬で売れるものに対してかなり時間と労力をかけていますが、サイト更新はお客さまとのキャッチボールのようなものなので、関係値を深めるために続けています。
ECサイト運営でこだわっていること、意識されていることはありますか。
毎日飽きずに買い物を楽しんでもらえるよう、商品ラインナップにバリエーションをもたせること、それから価値あるアイテムを適正価格で販売することにこだわっています。うちの取扱商品は決して安くはありませんが、マージンを大きく乗せているわけではなく、買い付け価格に比例して売値も高くなっているんですよね。お客さんはそれを理解されていて、信頼して買ってくださっているのを感じます。
古着ファンからの信頼が厚いサイトなんですね。
目の肥えたお客さまが多いので、お得さを感じてもらえなければどんなに安くても売れません。逆にお得だと判断されれば、100万円でも1,000万円でも買っていただける世界です。お客さまが商品を見たとき、「この価格で手に入るなんて安い!」と思ってもらえるかが大切なんです。
だからマッシュルームでは、100万円で仕入れたヴィンテージ品をあえて50万円で販売することもあります。原価割れしていますが、噂を呼んで宣伝代わりになるので、あえて広告を打つ必要はないと考えています。
サイト上には「SOLD OUT」の商品もたくさん並んでいますね。
「SOLD OUT」の表示が、次こそ買いたいと購買意欲をかきたてるんですよね。やはり売れているお店で購入したくなるのが心理ですから、いつでも売れている状態をキープすることが重要です。売れ残り率が上がるとだんだん売れなくなっていくので、毎日の更新でも即完売しそうなアイテムを掲載するようにしています。広告費ゼロでも集客できているのは「SOLD OUT」のおかげですね。

ずらりと並ぶ「SOLD OUT」
ECサイトと実店舗でまったく異なる商品ラインナップ
ECサイトと実店舗で売上が多いのはどちらでしょうか?
だいたい7:3か、6:4くらいの売上比率でECサイトのほうが多いです。
マッシュルームはECのイメージが強いと思いますが、前述のとおり実店舗から始まったお店です。わざわざ足を運んでもらえる店舗でなければ生き残れないので、お店づくりにも力を入れてきました。その結果として、実店舗の売上が上がってきたので、将来的には5対5に近づけたいと考えています。
ECサイトと実店舗の在庫管理はどうされていますか?
ラインナップが同じだとワクワク感がなくなるので、ECサイトと実店舗であえて取り扱うアイテムを別々にしています。なので、在庫管理で苦労することはありませんね。実店舗では、実店舗ならではの好奇心をくすぐるような品揃えでお待ちしています。実物を手にしたほうが、品物のよさを感じ取ってもらいやすいですからね。
実店舗には、県内外や海外からも多くのお客さまが来られますが、ECサイトとはまったく印象が違うので、初めての方は驚かれると思います。お店は新潟の弥彦村という自然豊かな場所にあるので、非日常的な空間で古着をゆっくり見て回れます。古着は掘り出しものを探す時間も楽しみの一つですので、ECと同じく実店舗でもお客さんにワクワクや高揚感を与えられるよう意識しています。
ECサイトでも海外からの注文は多いですか?
主に欧米のお客さまに買っていただくことが多いですが、割合としては5%程度なのでまだまだですね。今は日本国内向けのサイトなので、海外の人が買いやすいサイトを目指して改良していく予定です。
他にも今後注力していきたいことがあれば教えてください。
古着の卸販売に力を入れていきたいです。実店舗の近くに倉庫兼事務所が完成したので、そのスペースを活用して、同業者への卸販売を大々的に展開する予定です。
卸のためにアメリカから買い付けてくるわけではないですが、卸販売の比率をより高められたらと考えています。
それから、遠くない未来にアメリカ進出を叶えたいですね。アメリカで仕入れてアメリカで販売するというシンプルなビジネスになりますが、アメリカにはマッシュルームのような古着屋がないので十分勝機はあると思います。そこを拠点に世界中の人とつながって、ECサイトや新潟の実店舗にも目を向けてもらえたら嬉しいです。
最後に、ECを通じて古着の販売を始めようと考えている方へメッセージをお願いします。
古着の世界って「好き」だけでは成り立たないので、経営に対してストイックになるべきだと僕は思います。だって、仕入れた古着を自分が気に入って「売りたくない」なんて言い出したら、商売になりませんよね。今せっかく古着業界が盛り上がっているのに、経営者がそんな考えではどんどん淘汰されてしまいます。
常に努力してビジネスチャンスを広げていかなければ、どんな商売も成功しません。興味を持ってくれる人を増やさない限り、ビジネス規模は小さいまま先細りしていってしまいます。そんな中でも、圧倒的に多くのお客さまの注目を集められるのがECサイトです。実店舗だけでなくECにも力を入れて、シビアに頑張っていきましょう! もちろん、僕らもそうしていくつもりです。