私たちの仕事は「物」を売ることではなくて、「物語」を伝えること

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ネットショップは“物語”を伝える場

26歳の若手起業家としても各種メディアから注目されている、矢島里佳さん。伝統産業に惚れ込み、職人の技を活かしたベビー・キッズ製品を開発する、「aeru」というブランドを展開している。同ブランドのWebサイトは、フリーランスのWebデザイナー土田智憲さんが制作。 ネットショップでは、各製品ページの情報の多さが特徴的だ。サイズなどのスペックはもちろんのこと、aeruが込めた想い、製作風景や子どもたちが使っているシーンなどの写真も豊富に添えられている。

矢島「私たちの仕事は、物を売ることではなくて、物語をお伝えすることだと思っているんです。想いが伝わって、共感していただいた結果として、製品を購入いただいている。そのために、できあがるまでの背景や、製品を使っている子どものイメージ写真などを載せています。ネットショップというのは、そういった物語をとても丁寧に伝えられる場なんです。私たちの言葉を一言一句変えることなく、そのまま伝えてくれる。伝えるという面では、実店舗以上に表現できることもあると感じています。」

土田「相互作用がありますよね。サイトでじっくり情報を見てから店舗に来られる方も多いですし、逆に店舗で実物を見てからサイトで調べて購入をされる方もいます。」

矢島「aeruを取り扱ってくださっている百貨店さんからも、情報を調べてくるお客様が多いとお聞きします。」

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各製品紹介では、一つひとつについて丁寧に情報と物語が盛り込まれているので、かなり縦に長いページになる。写真は製品そのもののさまざまなアングルはもちろん、製作風景や子どもたちの利用シーンも掲載。また、特徴や製作背景なども、いくつかのセンテンスに区切って写真とテキストで綴っている。たとえば、この器ならば内側に少しでっぱった返しをつけることで、スプーンですくいやすいという特徴を紹介している。

こうした物語をきちんと伝えることで、価格への印象すらも変わってくる。

矢島「店舗でもネットショップでも、売り上げ金額の目標というのは設定していません。物が生まれる背景をしっかりとお伝えすれば、本当に必要なときに思い出して購入してくださいます。実店舗に来られるお客様は、一つひとつを丁寧に選びに来てくださっているように感じます。30分から長い方では4時間くらいお話しをされていきます。ここ数十年、なぜかお金を払う人が偉いという風潮になっていますが、私たちは少し違和感を覚えます。物を作ってくださる人がいるから、私たちは物を手にすることができるのです。そのこと自体も伝えていかないと、物作りの業界が物づくりを続けることが厳しくなってしまいます。作り手の人たちがどういう風に物を作っているのか、物づくりの背景をお伝えすると、『正当な価格』だと感じていただけます。職人さんは、10年修行を積んでようやく一人前の世界。その年月をかけて習得した技術で作ったものを、いますぐ交換できるというのは、すごいことだと思います。」

ブランドの世界観に 自然と馴染むショッピングカート

aeruのサイトは最初から土田さんが手がけていたわけではない。その出会いは、シアトルで行われたソーシャルリーダー研修プログラムの使節団同士としてだった。

矢島「ネットショップは、aeruブランド立ち上げの2012年3月からスタートしました。最初にお願いしていたサイト制作者の方とは、うまく世界観の共有ができず、気になるところがあったのです。」

土田「2012年5月にあったシアトルでの講演後に、『ここを直したい』と相談され、シアトル滞在中に連日話し合って対応していきました。aeruのサイト制作をするようになったのは、それがきっかけです。」

矢島さんは、土田さんのデザインするWebサイトの魅力をこう話す。

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矢島「土田くんとは、aeruがどんなブランドかという世界観を共有できたんです。彼は3歳の頃からパソコンを使ってきて、プログラムをネイティブ言語のように扱います。そのせいか、後から仕事のために覚えた人とは違って、鉛筆で絵を描くような感覚でコードを書いているように感じます。語学だってネイティブと大人になってから覚えたのとでは違いますよね。私はそんなにWebのことは詳しくありませんが、コードが美しくないと、不協和音のように感じるのです。美しい音楽は楽譜も美しいのと同じように。」

土田「矢島さんは、たくさんの職人さんに接しているからか、丁寧に作られたものが感覚的にわかるんですよ。」

aeruのネットショップでは、製品ページの中に馴染んだデザインで、自然な存在感を持ったカートが設置されている。

土田「それまでに使用していたカートサービスでは、表現するのに不自由な部分やメンテナンス性の悪い部分が多かったんです。それで、カートを自由度の高い『カラーミーショップ』に変えました。カートを外部サイトに貼りつける機能『どこでもカラーミー』を使えば、サイト内にJavaScriptのコードを貼るだけで実装できますし、WordPressに全部管理機能を持たせて一元管理することもできます。そもそもネットショップの外にカートを設置できるサービスってなかなかないので、重宝しています。特設サイトを作っても簡単に加えられますし。先日、新商品3点が発売する日の夜に矢島さんのテレビ出演があったので、アクセスが増えるオンエア前に間に合わせようと、昼から写真撮影を始めて夜までに3ページ完成させ、アップすることができました。」

「どこでもカラーミー」を利用したカートを製品サイトの左上部と右下部の2カ所に設置。JavaScriptのコードを貼るだけと、設置が簡単だ。 Pic_Web2_1 さらに土田さんは、カートに入れるボタンのCSSをカスタマイズし、数種類ストックして使っていた。また、デフォルト状態ではカート内の左上のロゴをクリックするとカラーミーショップサーバのインデックスページに戻るようになっているが、リダイレクトをかけることで、サイト内で表現を完結している。ラッピングやのし紙の選択などもWordPressを活用して誰でもカスタマイズできるよう設定している。

半歩先を行くブランドに

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実店舗とネットショップの違いは、どこにあるのだろうか。

矢島「まだ実店舗をオープンしたばかりなので、なんとも言えませんが、それぞれの相互作用が生まれてくることを期待しています。実店舗は、実際の空間でaeruの世界観を伝えられるところが魅力的ですね。けれども、まとまった資本が必要でしたし、aeruらしい雰囲気の立地を探すのにとても時間がかかりました。実際、aeru meguroをオープンするまでに、ブランドを立ち上げてから2年かかりました。ネットショップは、アイデアや知恵、技術力を駆使することで、資本規模の格差を縮めることができる場所であることも良いところだと思っています。」

客層は、意外にも男性も多いという。

矢島「子どもや幼児用品は、見た目にかわいいものが多いと思うのですが、aeruではシンプルで削ぎ落とした普遍的なデザインを目指しています。そうした点と、男性はスペック重視の方が多いので、職人の技術や子どもたちが使いやすい機能性という観点から選んでいただいているようです。もちろん女性のお客様もたくさんいらっしゃいますが、乳幼児向け製品で男性が多いというのは珍しいかもしれません。」

最後に、まだまだ現在進行形で急成長を続けるaeruに、今後のWebサイトの展望をうかがった。

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土田「aeruの持っている世界観・可能性をもっといろいろな表現方法で、伝えていきたいですね。aeruにはこれからの僕らに大切な要素が詰まってると思います。」

矢島「いまはコーポレートサイトとネットショップが一緒くたになっているので、それぞれで役割を棲み分け、aeruの世界観を私たちが実際に語っているのと同じような感覚で伝えられるようにしていきたいです。単にオシャレなブランドというのではなく、家族の温もりや手仕事の暖かさを感じるフレンドリーなブランドであることが伝わるように。そして、世の中の半歩先を見ながら、ブランドやショップ、サイトを運営していきたいと思っています。」

Webページはあまり長文ではなく、情報を詰め込みすぎない方が良いと考えられる場合も多い。しかしaeruのようなこだわりの製品においては、丁寧に伝えることがブランド体験を深める。ネットショップはただの売り場ではなく、実店舗同様のコミュニケーションの場でもあるのだから。