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「王様のパン」さんでは天然酵母パンやアレルギー対応パンなどを作られていますが、もともと竹原さんはどのような経緯でパンの販売を始めたのでしょうか?
子どもが小さい頃アトピーだったので、よく自然食品を取り寄せていました。ですが、パンはあまりおいしく感じなかったので、独学でパン作りを始めたんです。そのうち小麦や砂糖、塩・卵・アマランサスなどの原材料も作るようになり、モノ作りの面白さにハマっていきました。
そんな経験が、一般的な情報に流されずにモノを選ぶ目となって、今の「王様のパン」へとつながっています。
なるほど、そんな背景が…。それでは、ネットショップたちあげの経緯や当時のお気持ちについて聞かせてください。
そうですね、ネットショップを立ち上げようと思ったのは、今日つくったパンを今日中に売り切るために、夕方遅くまで売り歩きをしていた頃でした。
ネットで注文を受けたパンと実店舗で売るパンを組み合わせたら、もっと効率よく、ロスもなくなるのではないかと思って、まずはお隣の奥さんと一緒に手探り状態でネットショップを作りはじめました。
そうだったんですね! 王様のパンさんのネットショップは今年で10年目。オープン当時はどんなことを工夫されましたか?
「この画面いいな~」とか「無料のBGMを入れよう」とか、思いついてはソースを開いてたくさんの時間を割きました。「個性的でいいね!」なんて、お店に来てくれるお客さまにはお世辞を言ってもらえましたが、それでも知らない方からの購買には繋がりませんでした。SEO対策や送料無料キャンペーンなども試しましたが、さっぱりで…。もう何をすればよいのかわからなくなったとき、お隣の奥さんから、地元・北海道のデザイナーであるクレインデザインの鶴間さんを紹介していただいたんです。
鶴間さんと出会って、どんなことが変わりましたか?
いつもパンを買ってくれている地元のお客さまには好評なのに、それがネットショップになるとウケが違うのはなぜだろう? 鶴間さんと話していく中で、お店側からの情報発信ではなくお客さまの声が大切だと気づいたんです。そこで、お客さまのレビューを掲載できるよう仕様をカスタマイズしていただきました。
それからは徐々にアクセス数も売上も増えていって。地元のお客さまだけでなく、四国や九州など遠く離れた方からもHPを見てくれて、旭川へ来られた際にお店に寄ってくる方もいらして、うれしくなりましたね。
ネットショップの運営当初から、鶴間さんにはずっとお世話になっているんです。お店のPOPやパンフレットなども作ってもらったりして、それが今回の「特別賞(10年賞)」に繋がったと思っています。
本当に良い出会いでしたね…! ところで700件ものお客さまの声、これはどのようにして集めたのでしょう? 何か工夫されたことがあれば、教えてください。
これはですね、パンを注文されたとき「レビュー書きます」と記入してくださった方に、おまけのパンを1個つけて発送しているんです。それでも、実際にレビューを書いてくれる人はあまり多くないのでは?と当初は不安でしたけどね。先行投資に多少のリスクを感じながら始めたところ、レビューを書かない人はほとんどいませんでした。たまに、書き忘れた!と滑り込んでくるリピーターさんもいらっしゃいますよ。
私たちも今後の参考になるし、販売促進に繋がって、初めて買う方にとっての安心材料にもなるので、非常に有効でした。この機能をカスタマイズしてくれた鶴間さんに感謝です。これじゃ身内の褒め合いですけどね。
そういうシステムだったんですね。レビュー制度を始めて気づいたことや、勇気づけられたことはありましたか?
もちろん! 何度もレビューを書いてくださる方にも「今回食べて感じたこと」を書き込んでもらっています。それほど感じていなかったことも文字化することで、自然とお客さま自身が「食」に気をつける。おこがましいようですが、これが一番なのかなと思います。その方の身体は、その方が思いやってやらないとダメっしょ!と。気をつけるから、また王様のパンを注文してくれる。少しは食文化に役に立っているかと自負しています。
私たちのパンを探している方は、まだまだ多いと思います。病気の方や病気予備軍の方、もちろん健康な方にも食べてもらいたいので、もっと全国区になるべく日々奔走しています。
実店舗とは違い、実際にお顔を合わせることのできない遠方のお客さまに向けては、どんな情報発信を心がけていますか?
そうですね、来たメールに対しては、とにかく返事が来なくなるまで返すようにしています。「メール確認しました」を表わすために、そして相手にこれ以上気を使わせないためにも、何回かのやり取りのあとは「はい」で返します。文字にするとシンプルですが、今のところ「はい」が一番素直に聞こえる気がしています。
疑問に思ったことは「しつこいようですが…」と書き出すなど、親しみやすい言葉で素直な気持ちをメールします。そうすることで私自身、すっきりした気持ちでパンつくりに専念できるので。
心の持ちようは、画面にも文字にも現れると思っています。
ですからWeb上に表現するときなどはデザイナーさんの手も借りつつ、現場のスタッフとよく話し合い、ひとつずつズレを戻しながら形にしていくようにしています。
ネットショップでは、「開店前の朝の風景」を動画として公開されているのが印象的でした。あの動画はどのような経緯で作ることになったのでしょう?
あれは、時間をかけた”手作り”であることをもっと知ってもらうために、動画でその思いを伝えようと、鶴間さんの提案で始まったものです。店内はもちろん、イベント時にも流しています。
動画を見たお客さまから反響はありましたか?
はい。「活気があって良い!」とネットのお客さまからもコメントをいただきました。ほかにも「鍋パンが食べたくなった」とか「鍋ごとオープンに入れるのかと思った」とか。動画を見て食べたくなって、買いに来てくれて、非常に効果がありましたね!
鍋パンは直火で焼いていることなど、きちんと説明してきたつもりでも意外と伝わっていなかったものが、映像だと一目で伝わることを実感しました。
ふむふむ。どこでどんな方が、どうやってパンを焼いているのかを知れるだけでも、買う側は安心感が生まれますよね。
モノを売るというより、どんな人たちが作っているか表すことを大切にしています。
どういう気持ちでお店に来られたのか。探してここへ来てくださった経緯を分からないなりに推し量りながら、パンを丁寧に扱っているとそれだけで気が引き締まりますね。
じつは、今回のカラーミーショップ大賞を機に、ネットショップを思い切ってリニューアルしてもらいまして。トップページに鍋パンの動画を流すことで、受賞をきっかけにがんばっているのをアピールできているのではないかと思っています。
受賞を励みにしていただけて、私たちもうれしいです。
さて、10年間ネットショップを続けてこられた中で、大きく変わったもの、逆に変わらなかったことはなんですか?
そうですね…。日々変わっているので、大きく変わった意識はありません。
ですがよく考えてみれば、やめられていくお店もある中でこうして長くやれていることには感謝すべきでしょう。
逆にまったく変わらないのは「身体は食べ物で作られている」、そして「売るパンを作るのではなく、食べるパンを売る」という2つのテーマ。もちろん、その対価としてお金をいただいていますが、いただけるだけの付加価値があると自負しています。
パンの形状は同じでも、焼いたあと腐敗が進むものと発酵が進むものとでは、先は大きく違います。もちろん、どちらをとるかは各自の選択。ですが、その選択技はもっと見つけやすくすべきだと、ネットショップをやっている者の一人として感じます。
最後に、今後チャレンジしてみたいことを教えてください。
パン作りは毎日がチャレンジで、とにかく止めないこと、諦めないこと、続けることが大きな結果として現れるのかもしれません。
歩みを止めないまま次のチャレンジをしているので、結果には気づきにくいですけどね。
たとえ満足してもそれはほんの一瞬で、その次のチャレンジが待っています。満足に思うとしたら、それはきっと立ち止まったままなのでしょう。考え続ける限り、人って立ち止まれませんからね。
今後の展開がますます楽しみになりました。今日はありがとうございました!
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