もともと国税局で働いていたのですが、ファッションが好きでZOZOTOWNを運営する株式会社スタートトゥデイに入社しました。経営企画やコンサルティングの経験を重ねるうちに、ネットショップの業界自体はスピードや価格の競争が加速して、気がつけば右も左も似たようなショップばかりになっていました。 業界全体の流れに疑問を感じた末、スピードや価格でない価値を提供する「尖った存在」が必要だと気づいたんです。残念ながら、そんなショップはないので…ないのなら作ってしまおうと。 おもしろくない現状に一石を投じる「ワクワクするネットショップ」を起ち上げようと決めました。
ショップ名の「HATCH」という名前には「おいしい蜜を運ぶミツバチのように、良い商品を選ぶ」という想いをこめています。また、見た目(ロゴ)としても、最初と最後が「H」でシンメトリーな図として美しいし、「8」という数字からいろいろな意味をとらえることもできる。響きとしても「ハッチ」は耳に残りやすいですし、たくさんの人に覚えてもらうのにふさわしい名前だと考えました。 ワクワクするようなネットショップを考えたときに、これまでにない「しくみ」をつくることを思いつきました。コンセプトは「コンシェルジュ型通販」。HATCHに並ぶ商品は、全て「セレクター(ある分野に特化した専門性の高い人)」さんにキュレーションしてもらった商品です。セレクターさんの選出基準は、有名かどうかではなく「良いものを選ぶ知見やセンスの持ち主であるかどうか」。結果として、坂本龍一さんやNIGO®さんなど著名人の方にも選んでいただくことができました。その道のプロと彼らによる厳選された商品が並ぶお店。ぼくは、これをキュレーションコマースと位置づけています。海外にはこのような手法をとりいれたショップを運営されている方もいますが、日本では初の試みのはずです。
カラーミーショップを始めてから開業までには、2カ月ほどかかりました。今でこそセレクターさんは34人いるのですが、開業当初は8人。もちろんその分野では有名な方たちでしたが、一般的な知名度の高い方ばかりというわけではありません。 新しいセレクターとの出会いを楽しむために、知り合いには頼っていません。雑誌などを読んでいて自分のアンテナに引っかかった人へ声をかけていくかんじです。著名人の方の場合も、サービスコンセプトにきちんと共感いただいた上で、協力いただきたいので、HP等のお問い合わせから直接連絡を取っています。
商品が決まったら、メーカーさんへ交渉をかけます。商品1つ1つ仕入れ先が違うので、これが結構大変なんです。ときには今までネットショップとは縁もないようなメーカーさんもあったりして「ネットショップはちょっと…」と断られてしまったり、セレクターさんの名前をお伝えしても、なかなか良い顔をされなかったり…。交渉には苦労しました。アパレルでも同じことが多いのですが、実店舗を持っていないためにNGがでるケースも多いです。
セレクターさんに商品を選んでいただく際には2つの基準をお伝えしています。1つ目がAmazonや楽天、Yahoo!などで売っていないようなもの。2つ目は、季節性のないものでセールにかけることなく、通年売り続けられるもの。 こうすることで自ずと一過性のものではなく、セレクターさんの愛用品や自信をもっておすすめしたいモノが、自然と並ぶようになりました。モノだけでなく、たとえばプロサーファー中村竜さんによるプライベートサーフレッスンなど体験に近いものもあります。
HATCHでは、定期購入商品を1割ほどあつかっています。今でこそ単品商品を多くあつかっていますが、実は、開業当初は定期購入コースしかなかったんです。たとえば「松本農法の野菜とレシピ」は1カ月に1回、計3回届く3ヶ月コースになっています。それは、商品をお届けするんじゃなくて、野菜の美味しさを理解する力やレシピが身に付くことをゴールとしているからこそのシステムです。こういった、体験を販売する「しかけ」をショップ内に散りばめています。このほかにもHATCHの商品ページは、すぐには遷移できないようになっています。そもそもトップページを見ても、人ばかり並んでいて、ネットショップって分からないくらいですよね(笑)。トップから直接商品購入をできないようなつくりになっているのには理由があって、セレクターさんによる解説を読むことで、買い物という「体験」を楽しんでもらいたいからなんです。
実際にセレクターさんが使っているものをお届けすることもあるので、そういった場合には、セレクターさんのオフィスや自宅にお伺いして写真を撮影したりもしました。たとえばNIGO®さんのセレクトグッズは、オフィスで実際に使われているので、その風景写真をそのままショップに掲載しました。それから、セレクターさんへのインタビューもできるだけ掲載しています。「あの人が使っているものだから良いに決まってる!」「あの人がここまで言うものだから良いものに違いない!」そう思わせることが狙いです。
今は自分を含めて2名で動いています。ぼくは、セレクターさんとの交渉・原稿のライティング、アライアンス系を担当。デザインやシステムといった制作は、パートナーにおまかせしていますね。1日の動きでみると、午前中は発送などの商品準備をして、午後はセレクターさんやメーカーさんとのお打ち合わせが多いです。 お打ち合わせといっても全然苦ではなくて、お相手はセレクターさんですから、昔から憧れている人だったり好きな人から直接お話を聞ける貴重な時間なので、とても楽しいです。
HATCHはSEOをあまり意識していません。アパレルのブランドだったら、ジャンル+ブランド名のようにキーワードをドンドン設定すれば効果に期待が持てるのですが、うちの場合は、HATCHを連想するキーワードがなくて難しい。モノを探してくる人よりも「こだわったいいもの」「ギフト」などの動機がきっかけのケースが多いですし、あとは人からの紹介で来てくれることも多い。なので、どちらかというと注力しているのはSNSです。それと、各セレクターさんからの紹介もすごく強力で、人と人のつながりがHATCHのPRを充実させてくれいてます。 また、ESTNATIONや伊勢丹、阪急などでPOP UP STOREという形でリアル展開も行っています。HATCHのターゲットを既に抱えているリアルでのタッチポイントにより、リアルからネットへの集客をはかっています。今月も伊勢丹新宿店でPOP UP STOREを展開しました。また、来年からは常設店も予定しており、リアルでの展開も強化していきたいです。
今の3倍くらいの数になるんですが…来年には、100人くらいのセレクターさんに参加していただきたいですね。お客様の新しい購入体験のきっかけを増やすためにも、今の世界観はそのままに、もう少しマスの方向にチューニングしてくことも考えています。来年には海外進出も考えています。
ネットショップの世界は、華やかに見えて、とても地味な仕事が多いです。だから本当に好きでない限り、続けることは難しいと思ってください。「とりあえずネットショップを作って、売れるために小手先のSEOやモール出店などをやみくもに重ねていく…」そんなやりかたよりも、自分がワクワクするショップへと育てていくためにコストをかけるほうが、運営も結果も良い方向に近づけるはずです。 忘れないでほしいのは、ネットショップはあくまでも「手段」の1つであって、もっと視野を広げれば、あなたの夢を達成する手段は無数にあるということ。今あるネットショップのやり方にとらわれないほうが、良い結果をもたらしてくれることも多いはずです。ネットショップという「人との出会いを生み出すツール」を上手く活用して、あなたの可能性を広げてみてください。
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